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5-3

「奥に行けば行くほど、魔物は強くなるし、罠はえぐくなるそうだよ。危ない目に遭う前に帰ろうね」

「見学客は大体一階層だけ見て帰るそうよ。強い護衛を複数雇った場合は五階層辺りまで行くそうだけど」

「……二人はどこまで行くの?」

 ユリシーズを見学客だと思い込んでの発言とわかった。ユリシーズはそれを指摘する前に彼らの実力のほどが知りたくてそう聞いた。


「俺らは大体三階層辺りまでをうろうろしてるかなあ」

「そこら辺までなら、どうにか初心者でも無事に歩けるよね」

「この間はちょっと危なかったけどな」

「ねえ」

「なるほど……」

 普通の探索者は最初に浅い階層でダンジョンに慣れてから少しずつ探索範囲を広げていくものだと知る。

「でも、入場料毎回払うの大変じゃないの? 毎回500ドラクも払うの?」

「毎回じゃないよ」

「えっ! そうなの⁉」

「あれは冷やかし防止みたいなもので高めに設定してるのよね。最初の一回とか見学者は500ドラク。常時探索するような場合は別料金が設定されてるわ」

「へえ~~」

 ユリシーズ達の払った入場料が初回利用限定のようなものだと知る。

 確かに、毎度高い入場料を設定していては、常時探索するものなど現れそうもない。これも参考にしなければ、とユリシーズは学ぶ。



 とは言え、ユリシーズ達はわざわざ遠方から来ているので浅い階層だけ見て帰るということはしたくない、とユリシーズは思う。

「そうそう、こないだうっかり落とし穴の罠に引っかかったときは本当に死ぬかと思ったぜ。上に行くための出口は見つからないし、トニアとははぐれたきり一人で探索続行するしかないしで、マジきつかった~」

「落とし穴の罠には本当に気を付けてね。仲間とはぐれると一気に危険度は上がるから。魔物に囲まれるとどんな上級者でも死にかねないから」

「……うん」

 身を持って体験したことがあるので、ユリシーズには耳が痛い話である。



 彼らとそんな話をしていると、ふと気配を感じてユリシーズは振り返った。

「おおー。見たことない魔物だ」

 現れたのは、目が燃えている犬のような獣だった。揺れる豊かな毛も炎のようにたなびいている。ヴヴヴゥ……と唸り声をあげている。

 その獣と対するように虎も唸りながら身を低くして構えている。


「フレイムドッグ!」

「嘘でしょ! 三階層より下にいるはずの魔物じゃないの!」

 カミロとトニアが慌てている。反応からして、彼らでは対処できないか苦戦する強さの魔物である。


 ユリシーズはケントをちらりと見た。まあ失敗しても、どうにかなるでしょ、と思う。

 ユリシーズは手にしていたカップをくるりと回転させた。カップの中から渦を巻きながら水流が迸る。それをフレイムドッグに向けて放つ。


「ぎゃっ!」

 水流をまともに食らった犬の魔物は、小さく声をあげて倒れた。水に弱いようである。水をかけられた炎のように小さくなった。残ったのは、貧相な犬の死体だ。


「え、ええ~~~」

「使っちゃったの⁉」

 カミロとトニアはアイテムを使ったことに驚愕している。

「ふーん。これは魔法の杖と同じ感じのアイテムだな。使用回数に限りがあるようだ」

 ユリシーズはそんな二人の反応を気にしていない。むしろ、倒してドヤ顔をして見せている。

「それ、使っちゃったらその分買取価格は安くなるのよ!」

「だろうね」

「ダメだよ~~」

 嘆く二人を見て、ユリシーズは胸を張る。


「ダンジョンを深く潜るには、何でも知りたいと思わなきゃなんだ! 手に入れたアイテムは使って、試して、どういう効果があるのか知らないと!」

「ええ~~」

「そんな、上級者向けのこと……」


「来て!」

 ユリシーズはそう言って、走り出した。


「罠だって、知らなきゃいけない!」

 走るユリシーズの前方に向かってくる魔物がいる。凶悪な爪と牙を持つイタチだ。

 その魔物とユリシーズの間には文様の書かれた床板がある。ユリシーズは走る勢いのまま、それを踏んだ。

 壁から矢が放たれてユリシーズに向かってくる。その間にも、イタチが迫りくる。ユリシーズはイタチを引き付けてから身を翻し、イタチの牙を剣で受けながら、イタチを押しやる。

「グアッ!」

 イタチが罠の矢を受けて倒れる。


「こうだ!」

 ユリシーズは罠を使って魔物を倒す術を流れるような動作で見せつけた。それを見せられた二人の探索者はポカーンと口を開けている。


 その後ろでケントは額に手を当てて嘆息していた。


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ユリシーズ、なんだかんだでたくましく…(親戚のおばさん目線で涙)
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