5 攻略はこうやるのだ
立像の前にいると、また探索者が後からやって来た。
「え? こんなところに子供?」
「見学者じゃない?」
男女の二人組だ。彼らはユリシーズ達を同じ探索者だとは思いもしなかったようだ。
「こんにちはー」
彼らは朗らかに挨拶をかわしてくる。それに合わせてケントも会釈を返す。背を向けて立っていたユリシーズは気まずくなったのか、ぱっと立ち去ってしまう。ケントは二人に詫びの意味で礼をしつつ、慌ててそれを追う。
「ユリシーズ様」
追いついて彼の顔を見れば、子供のように頬を膨らましてぶすっとした顔をしていた。
妙に子供っぽい仕種に見える。ユリシーズは普段から感情表現が素直な方だが、さすがにここまで子供のような態度を取らなかったとケントは思う。
見た目だけではなく、内面にも影響を与えているのか?
その可能性に思い当たり、ケントは知らず背筋が冷える思いをする。
「お二人ですか?」
「え? あ、はあ」
先ほどの探索者コンビも彼らに追いついてきて、朗らかに話しかけてくる。
「坊や、まだ小さいのに冒険心があって勇ましいな! 将来、いい男になるぜ」
青年が子供の見た目のユリシーズに向かって兄貴風を吹かす。
「私達もまだ探索初心者なんだけど、少しは経験があるから、困ったことがあったら言ってね」
女性の方の探索者が屈んでユリシーズと目線を合わせながら言ってくる。
二人は親切心が強い性質のようだ。
「……」
ユリシーズは眉間にしわを寄せて、困惑の表情を浮かべている。無理もない、とケントは思う。正直にユリシーズは大人で立像の影響で身が縮んでいると言ってしまった方が後腐れがなくていいだろうとは思うのだが。ユリシーズのプライドを傷つけるのではとの思いから、ケントの口からはそれが言えない。
「ぎゃう」
「虎」
逡巡するユリシーズを気遣ってか、虎がユリシーズの前に体を滑り込ませる。虎はユリシーズのケープをくわえて引っ張る。さっさと先に進もうと促している。ユリシーズはそれに引っ張られるようにして従った。
「立派な獣ですねえ。猫か何かの種類の使い魔ですか?」
「使い魔? ええと、まあ、猫の仲間の獣だとは思います」
ユリシーズが虎に引っ張られて行ってしまったので、二人からの会話の受け答えをケントがすることになる。
「お」
ユリシーズは床の文様を見つけた。これが罠の一種だとすでにユリシーズは知っている。ユリシーズはその文様に向かってナイフを投げた。
「あっ!」
だが、ナイフは目標のはるか手前で落ちた。体格に合わせて筋力が子供と同程度に落ちているのだ。
「届かない!」
ユリシーズは悔しくて思わず地団太を踏んだ。
「ユリシーズ様」
ケントがユリシーズの隣にいって膝立ちになる。そろそろ諦めてもらおうと声をかけようと思った。
「まあ、わかってたけど、子供の身でダンジョンを攻略するのは無理があるな」
ユリシーズ自ら諦観の言葉が出て、ケントはほっと安堵する。
虎がユリシーズのナイフを咥えて拾ってきてユリシーズの手に乗せた。
「だが、試練として課したのならば、何らかの術はあるはずだ」
続いて出た前向きな言葉に、ケントはがくっと肩を落とす。




