4 ダンジョンへ行きましょう
「あああああ~~~」
解呪屋を出た後もユリシーズは頭を抱えている。
「そんなにショックですか……」
「だってドロシーが、ドロシー……」
ケントにはユリシーズのつぶやきの意味が分からない。
「ドロシー様と結ばれたいなら、男性に戻った方がいいと思いますけどねえ」
「……」
しばらくユリシーズはウゥ~~と唸っていた。急に静かになったと思ったら、顔を上げて
「じゃ、ダンジョンに行くか」
となんでもないように言った。
「おお~~。あれがダンジョン」
ダンジョンは遠目に見て、石造りの巨大な神殿のように見えた。
「ところどころヒビが入ってたりして朽ちてるように見えるのが怖いんですが」
「石だから崩れたら死ぬね!」
ユリシーズ達はそんな感想を漏らす。ダンジョン前に近づいていく。
ダンジョンの前には、男性が二人立っていた。槍を手にした鎧姿だ。門番のように見える。
「こんにちはー。中に入れますか?」
「受付済ませた?」
「受付?」
話しかけると、案内所があるので、そこで受付を済ませる必要があると教えてもらえた。
「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」
礼を言って、教えてもらった案内所に向かう。
「ここかあ、案内所」
木組みづくりの建物は洒落て見える。しかし、この国の他の建物とは趣が違う。どこかプラウド周辺国と似た雰囲気の建物だとユリシーズは思った。
「どこかの建物を模して作ったんだろうか」
「作業者の出身国に由来してるんですかねえ」
二人はそんなことを言いながら、案内所の中へと入っていった。
案内所内にはぽつぽつと人がいた。受付に向かう前に、まず中を見学する。
正面に受け付けらしきカウンター。片隅にテーブルと椅子があり、何か話し合いや相談するための場所として使えるようだ。そして、壁には多数の張り紙が貼ってある。
張り紙の中身を見てみる。
『討伐依頼! パプリンカ畑に湧いた魔イタチの討伐
討伐完了は魔物の牙か爪を剥いで提出すること』
「え? 討伐?」
「ダンジョンが成長すると、魔物が溢れてくると聞いたことがありますね」
「えー! やばいじゃん!」
「人が多く入るダンジョンは中々溢れないそうですが、時々逃げたのがダンジョンの外に居ついて新たな生態系を作るとか」
「絶対困る……」
ユリシーズは知らず眉をひそめる。
受付のカウンターに進む。
「いらっしゃいませー。ご依頼ですか? 探索ですか?」
「ダンジョンに入りたいんですが」
「探索ですねー」
ユリシーズは聞きながら、なるほどここでは討伐などの依頼の受付もやっているのかと思う。
「ダンジョン探索初めてですか?」
「地元のダンジョンには入ったことあるんですが」
「こちらは初めてですねー。見学だけもできますよ。その場合は探索者に依頼を出す形になります。今日受付をして、明日の朝から募集をかけます」
「すぐに行きたいんですが」
「ご自身の力で挑戦なさいますか? その場合は誓約書に契約をしていただきます」
「誓約書」
受付の女性が出してきたのは、一枚の紙だ。その中には、ダンジョン探索には命の危険があること、怪我などをしても自己責任なこと、探索で得たアイテムはほとんどが持ち帰れるが希少なものは持ち出しが制限されること、そのためダンジョン探索後にアイテムを検査されることがあること、どこまで探索できたかは受付に報告すること、などが書いてある。
なるほど、こうやって探索者とダンジョンを管理するのか、参考にしよう、とユリシーズは思う。
「これ、報告しないと何かペナルティがあるの?」
「特にございませんが、こちらではアイテムや魔物素材の買取などもしております。買取は希望されなくても、アイテムの鑑定だけでも承ります」
「なるほど。報告した方が、良さそうだね」
「はい。それに、どこに危険があるかなどの情報を全探索者に共有することができます。ぜひ小まめな報告のご協力をお願いします」
「はい。わかりました。それで、契約というのは?」
「はい。まず誓約書に名前を書いていただいて、誓約書のこの部分に血を一滴垂らしていただきます」
「痛そう」
血判状か? と思ったが、指を押し付けなくてもいいらしい。
小さな針で指を僅かに傷をつけると誓約書の枠の中にその傷から出た血を垂らした。
「これ、どういう意味があるの?」
「鑑定の道具があります。その道具で個人を識別するのです」
「へー……」
これ、うちのダンジョンに取り入れられるか? 無理かも……とユリシーズは思う。




