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市場には見たことのない商品が多く並ぶ。見たことのない果実は故郷の物より鮮烈な色をしている。どこかから漂ってくる嗅いだことのない不思議な匂い、行きかう人の服も色が多い。聞き慣れない言語、発音。空は雲も少なくすっきりと晴れ、高い位置にある太陽からの日差しは明るく、風は温かい。気候が故郷よりも温順だ。
五感が刺激される。それらがユリシーズの心を浮き立たせる。
「何か欲しいものはありましたか?」
「うん!」
「では、まずやることがあります」
「……宿の予約?」
「いえ、それはあとでやりましょう。まずは、両替です」
ケントの言葉にユリシーズはハッとなる。
「そっかあ……国が違うもんなあ」
「とりあえずあちらに見えますね」
ケントが市の外側にある建物を指さす。
「行ってみましょうか」
促されて、そちらに足を向ける。
「両替商について、ご説明します」
歩きながらケントは説明を始める。
「両替商はこういう街中にあるもの、宿に併設されているもの、銀行の中にあるものと色々あります」
「……? 何か違うの?」
「はい。通貨同士を交換する場合、その割合は大体このぐらいという相場があるのですが、その割合が場所によって違います。そして、交換手数料というものがかかってきます」
「えっ。じゃあ、どこでも交換していいってわけじゃないんだ」
「はい。銀行や高い宿にある両替所はこういう街中にあるものより手数料が高く設定されていることが多いです」
「えー……あいつらそんなこと言わなかった……」
「あのお二人はそんなこと気にされたことはないと思いますよ。恐らく宿や銀行で両替されているのではないかと。市を歩くのもお忍びで短時間でしょうから」
「はー……なるほど」
「ですが、ユリシーズ様はこれからダンジョン探索者に混ざって行動されるわけですから、こういうところでの両替も経験していただきましょう」
ケントの言葉にユリシーズはうんうんとうなずく。途中、レートの計算方法などを習う。
「プラウド通貨をグーダル通貨に」
「あいよ。メルをドラクにだね」
袋に入って通貨が出される。それを計算して確かめる。良かった、合ってると思っていると両替商のおじいさんと目が合ってにこっと笑われる。
「きれいなお嬢さん相手にアコギな真似はせんよ」
座っているじいさんの位置からはユリシーズの顔がそのまま見えていた。
「ありがとう。また来ます」
「はい。楽しんでいってね」
手を振ってその場を後にした。
「良心的なところでしたね」
「うん。両替したのはこの量で良かったの?」
「今のは良心的なところでしたけど、どこでも適正に両替してくれるとは限りませんからねえ。街中の両替商はそういう危険があるんですよ」
「あ、銀行とかはそういうのがないのか!」
「そうです。信用が売りのところはぼられたりしませんが、街の両替商は安さが売りな分、信用がいまいちというのはよくある話です。我々は外国から来てどこが信用できる所か知りませんからね。少しずつ両替するのが安心なんですよ」
ユリシーズは聞きながらふむふむとうなずいていたが、ピタッと止まった。
「なあ、今普通にプラウド通貨出したけど、今後うちの国ってお金どうするんだろ」
「さあ……何か考えておられると思いますけど……」
「新しく作るのかな? でもそれって大変だよね。通貨作れる職人とか今、いないし……」
「そうですねえ……」
「わあ……いいなあ、これ」
色鮮やかなランプだ。丸い色ガラスに金属のフレームが複雑な文様で彩られている。そんなランプが各種多様に吊り下げられている。手前の台にも置き型のランプが所狭しと並んでいる。
「すごいデザインだ」
「これは魔除けの意味があるんだよ」
「へええ……」
「これは海の向こうの国ケサラン産のランプだよ。普通に油を使うランプだ」
「欲しいけど、今買うとかさばるなあ」
「こういうのはどうだい。これはキャンドルホルダーだ」
手のひらに乗る小さなガラス製のものだ。これも美しい色ガラスに鈍色に輝く文様が飾られている。これもキラキラしていて見栄えがする。
「わあぁ。すごくいい! これを二つ下さい」
「おっ。じゃあ、二つで50ドラクのところをおまけして30ドラクでどうだ」
「はい!」
ユリシーズはご機嫌で会計を済ませる。
「今、普通にお会計を済まされましたね」
「おまけしてもらった!」
ユリシーズはにこにことご機嫌で報告しているとケントは苦笑を浮かべる。
「こういうところは実は、値切り交渉ができるんですよ。それを楽しむのも醍醐味の一つです」
「え?」
「二つで30ドラク……25、いや20ドラク辺りが相場。値切れば15ドラクくらいで買えたかもしれません」
「ええ!」
いつも誤字報告ありがとうございます。




