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11 願い事はなんですか

 頭突きの動作をしてくるので、手のひらで受け止めて押し返す。それを繰り返す。

「……いや、こんなことしてる場合じゃないんだよ」

「ぎゃう」

 ユリシーズは我に返って、長椅子に再び横たわった。


「ぎゅううぅ~~」

「……なんだよ」

 子虎らしき生き物が、長椅子に前足をかけてこちらを見上げている。何かを訴えかけているような眼差しだ。


「ここで寝たいと?」

「ぎゃうー」

 なんの敵意もなさそうな無垢な瞳。かわいらしいが、本当に気を抜いていいのか。ユリシーズは自問する。


 別にいいか。


 自問した結果、出た答えは諦観だった。ここで獣に食われて死ぬのも、運命か、と。その獣が、こんな弱々しげな子供だというのも、自分らしいと思えた。


「ほらよ」

 子虎を抱き上げて長椅子の上にあげてやる。子虎はぐるぐると体を回転させてから、ユリシーズの脇腹辺りに落ち着く。

「そこで寝るの?」

 寝る体制に入った子虎の背をそっと撫でる。子虎は反抗もせず、反応も返さずされるがままにしている。

 ふあ、とあくびが出る。ユリシーズは眠気に身を任せた。




 はっと目が覚めた。

「え? めっちゃ寝た」

 目の覚め方、体の回復具合から想定より寝てしまったと気づく。

「いや、こんなとこで熟睡って……」

 ただの仮眠のつもりだったのに。案外、自分は図太い方なのか、それとも危機感が足りていないのか。多少の自己嫌悪と反省を抱きつつ体を起こす。


「……ウッソだろ?」

 子虎が仰向けで爆睡していた。へそが天を向いている。こいつも危機感が足りていない。子供ならそんなもんだろうか。まだ親に守られているような頃合いだからだろうか。


 俺がお世話しなきゃなのか。ユリシーズは思いながら、子虎の腹を撫でた。



「ご飯だよ」

 食事の支度をして、子虎を起こす。

「君、山羊乳とか飲めるか?」

 デビーにわずかながら分けてもらえた山羊乳だ。子虎の幼さがどのくらいなのかわからないので、乳と味付けしていない肉を用意した。

「どっかで獲物を狩らないと……」

 食料は十分に持っていたが、それはユリシーズ一人分だ。子虎の分もとなると途端に残りがおぼつかなくなる。


「ぶっとい前足だなあ」

 ぺちゃぺちゃと山羊乳を舐める子虎の前足を眺めてユリシーズは評する。立派な前足だ。将来、大きくたくましくなることが約束されている証だ。

 顔を上げた子虎の口周りがべったりと乳がついて汚れている。後で拭ってあげないとなとおもいつつ、苦笑がこぼれる。

 肉にもがぶがぶとかぶりついている。

「ちゃんと立派な牙があるんだなあ」

 無心で食べている子虎の食欲にたくましさを感じる。



 子虎はそのままついてきた。

「ご飯食べてそのままじゃあねでいいのにー」

 俺がお世話しなきゃなのかー。と改めて思う。しかし、戦闘中などどうすればいいのだろうか。



 粘着物体(スライム)メイドがまた現れた。

 剣で壁に向かって弾き飛ばし、ナイフでめった刺しにする。何度目かの突きでずるんと力を失って、つぶれて床に落ちる。

「斬りつけるより、突いた方が倒しやすいっと」

 なんでメイドなんだ? と疑問に思う。ふと思って服を裂いてみた。

「ああ~~。なるほど」

 透けた体に、内臓というべきか体の器官が見えている。

「ここのところが核というか、弱点なんだな」

 その器官の中につぶれているものがある。それがナイフで壊されてこのスライムは息絶えたのだ。

「弱点隠すための服かー」

 それと女性を思わせる服を着せることで服を剥がせなくさせる心理効果も狙ったのだろうか。

「こいつ、胃袋が体の表に出たみたいな生き物なのかなー」

 肌に触れた部分が焼けるような痛みを感じたことを思い出す。あれは獲物を溶かす攻撃だったのだろう。



 でかいカエルが現れた。子虎より大きい。小さいとかわいいのに大きいとグロテスクに思えるもんなんだとユリシーズは考える。

「カエルって皮膚に毒あるんだよな」

 カエルに触ったら絶対に手を洗え、目をこすると失明すると脅されたことを思い出す。ただの脅しだと思っていたら、本当だったと知った時の衝撃も思い出される。

「毒線持ってて毒吐けるやつもいるし……」

 などと言っていたら、カエルの口から液体が飛んできた。避けると壁がじゅわっと溶かされる。

「カエルやべえよ!」

 後ろに下がって距離を取りつつ火魔法の杖で攻撃した。


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