6-3
別の部屋で杖を見つけた。
「これは、メイスとして使えるか?」
「その頭についてる宝玉っぽいのが脆そう。鈍器にするには微妙」
「だが、持ってみると見た目より重く感じるんだ」
「重い?」
フーゴが重いと言うので、ユリシーズも持ってみる。
「うわ……」
確かに持った瞬間、ずしんと感じた。
「何これー」
「変な感じするよなあ。ちょっとこれで魔物倒してみようぜ」
「ぶん殴るの?」
ユリシーズに杖を持たしたまま、フーゴは部屋を出る。
「おっ! 早速いるぜ。ほらほら!」
「ええ~~。ちょっと待って」
魔物を見つけたフーゴに背を押されて促される。廊下の向こうに黒っぽい煤を放つ動物がいる。あまり俊敏な動物だと殴るのも難しいだろう。ユリシーズはとりあえず、杖で素振りをする。
「わっ!」
杖を振った瞬間、杖からぼっと火の玉が飛び出る。火の玉は煤を放つ魔物に当たった。火に当たった魔物は横に倒れ、その場で燃え尽きていった。
「怖い!」
「おおー。魔法の杖かー!」
ユリシーズは慄き、フーゴは目を輝かせる。
「これこそ、ダンジョンの宝! って感じだな!」
「うーん。そうかな? そうかも……」
フーゴの口調が随分砕けてきている。彼は初めて見るダンジョン特有の珍品に興奮している。
首をひねっていたユリシーズは、その違和感の正体に気づいた。
「あ。これ、ちょっとだけ軽くなった」
杖をためすすがめつ、ゆっくりと動かしながら重みを確認する。うっかり振ってしまってまた火の玉を出してはかなわない、とユリシーズは慎重になる。
「これ、あの魔法の分、軽くなったんだ」
「貸して貸して!」
フーゴが興奮気味に杖を使いたがる。ユリシーズは抵抗せずに彼に渡した。
「おっ、早速!」
フーゴは角から出てきた魔物を狙う。それの正体を確認するより早く、杖を振る。
ぼっと火の玉が飛び出す。杖から出た火の玉は、方向が多少ずれても魔物の方に向かっていくようだ。
まったく別の方向に放った場合はどうなるんだろうか。試してみたい気はするが、もったいなさも感じる。
「ああー! 確かに軽くなった」
「持たせて」
フーゴから再び杖を受け取る。
「本当だ。すごく軽くなった」
当初持った時よりかなり軽くなった杖に、つまりどういうことだと思案する。
「……使った分だけ軽くなる。と言うことは」
「? と言うことは?」
「そのうち使えなくなる。つまり回数制限がある!」
「ええっ!」
ユリシーズの出した結論に、フーゴはショックを受ける。
「ずっと使えるんじゃないのー! じゃあ、持ち帰っても大して役に立たないじゃないか!」
「……そうだな」
杖をどっちが持つか。これがあれば非力なユリシーズでもダンジョン内の強敵とも戦える。なので、どうにかして所有を主張したい。
思っていると、持ってていいよと譲られる。
「俺にはこれがあるから」
と、剣を示される。すんなり譲られてもユリシーズは素直に喜べない。ユリシーズが弱いことはフーゴもよく分かっている。つまり、ユリシーズは完全に侮られているのだ。
悔しがってもしょうがない。ユリシーズ自身もそう思っているのだが、心は止められない。
「わっ!」
ある部屋を探索し終えて、部屋を出たところで、横から矢が飛んできた。運良く外れた。
慌てて向き直った先には、弓に矢をつがえて構える小人がいた。
「純粋なダンジョン産の魔物か。結構かわいいじゃないか」
フーゴは余裕綽々で文字通り斜に構えている。
「ヴゥゥ……」
ユリシーズ達と目が合うと小人は憎々しげに顔を歪めた。憎悪が全面に出ていて、途端に醜悪な見た目になった。
「かわいかったのにー」
フーゴが一歩前に出る。
「なあ、矢を貰おうか!」
フーゴは剣を抜きながら朗らかに言った。




