6-2
「おお。今回は何を落としたんだ?」
フーゴが倒した方の羊が何か落としたらしい。
「弓だ」
「……」
ユリシーズは弓があればとは言ったが、いざ本当に手に入るとなんとなくモヤモヤした気分がしてくる。さあ、どうぞと差し出されたように思えた。
「これってあれだね。猿に道具を用意させて、餌をとれるかなって観察するみたいな」
「プラウドの王侯貴族ってそういうことするんだ」
ユリシーズは軽口を返しながらも、言い得て妙と納得する。小馬鹿にされている感じはするのだ。あるいは子ども扱いか。
さあ、望むアイテムを上げましたよ。攻略の方はどうですか。と問われているような感じ。
「だったら、矢の方も寄こせよなあああ! 弓だけでどうしろってんだ!」
「まあまあ。今度手に入るかもしんないから」
「じゃあ、次は部屋の方を見て回……どうしたの?」
「や、この羊をどうしようかなって」
「? どういうこと?」
羊を前にユリシーズは考え込み、フーゴは首をかしげる。
「だって、退路を断たれただろ? となると、食料は現地で確保しなければならない。こいつをさばきたいけど、現段階では食料はまだ消費してない。持てる荷物には限りがあるし……」
説明し、ユリシーズはまたう~~んと唸る。そうこうしていると、羊がダンジョンの床に侵食され、飲み込まれていった。
「わあ! なにこれ!」
「へえ……ダンジョンってこうやって命を回収するんだ」
「命を回収⁉」
「ダンジョンって生きてるって言うじゃないか。これは言わば、ダンジョンにとっての食事? かな?」
「なるほど……」
つまり、肉を得たいなら相当素早くさばかないといけないわけである。もう一匹の羊はすでに姿を消していた。
「こうやって回収された魔物はまた別の魔物に生まれ変わるのかな」
「う~~、そうやって循環してるのか……」
フーゴと話し合っていて、しばらくしてからユリシーズははっと気づく。
「なあ、そうするとこのダンジョンで死んだ場合……」
「あー……魔物化するんじゃないか? アンデッドってやつ? 死霊とか、歩く死体とかそういうの」
「人間も魔物化する……」
それは、仮にフーゴをダンジョンで倒せたとしても、より厄介な魔物となってしまう可能性が高いということだ。
新たに階段を見つけて下に降りる。
「……ちょっと変わった?」
ユリシーズは先ほどまでの階と景色がわずかに変化したと感じる。
「えー? 似たようなもんだろ?」
フーゴは言いながら、近くの部屋の扉を開ける。
「……確かに、ちょっと変わったか」
部屋の中の調度品が、少し質素なものに変わっていた。一部屋の大きさも僅かに狭くなったように見える。
「騎士部屋かな? あるいは侍女部屋?」
「兵舎ってこと?」
「いや、これは城の中に常駐する騎士専用の部屋ってとこだろう。兵舎はまた別でありそうだ」
「城の中……王族の側近くってことか」
「そうそう。さっきの貴族部屋も王族の側近くで侍る者達の部屋ってこと」
「えーと、ということはつまり」
「王族の執務室にすぐに駆け付けられる場所ってこと」
「王族の執務室が近くにあると」
ユリシーズが知るのは自分が住んでいたような領主達のこじんまりとした城だ。なので、大国の都にあるような大きな城の中身のことはわからない。
「広くて大きいとそれだけそこに住む人も増えるってことか」
騎士部屋と思われる部屋からは先ほどの貴族部屋のような貴金属はあまり出てこなかった。代わりに、剣や盾、鎧など武具の類がよく見つかる。
「なんか使えそうなのある?」
「古いしなあ……研ぎ師に手入れしてもらえば、使えるだろうが」
剣などは大きく錆びているわけではないが、曇っていて刀身は鈍く光る。
「丸腰ならば喜んで手にしただろうが……」
「荷物になるよね」
ダンジョンには世にも珍しい逸品が転がっているとは聞くが、実際に持てる量には限りがある。見つけたものをすべて持ち帰れるわけもない。
「ダンジョンを探索する人が絶えないって聞いてどういうことかと思ったけど、こういうことなのかな」
「かもなあ」
ユリシーズたちが現在ダンジョン内で得た新規の物はモギ草だけである。収穫がこれだけとはあまりにしょっぱい。




