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「つまり、ここは城?」
「古城か何かじゃないか」
「城跡がダンジョンになってると……」
時々貴金属が出てくるのは、かつてこの城を使っていた貴族達のものか。考察していて、ユリシーズは気づいた。
「あっ、そこ変なでっぱりある。踏むな!」
「えー?」
床にわずかにでっぱりがある。止めるのが遅かったか、プラウドの王子は踏んだ。すかさず、壁の一角から矢が飛んでくる。
「ふん!」
その矢を彼は剣で弾いた。
「これくらいどうってことないよー」
罠を回避できたからか、彼はへらへらしている。
「踏まないに越したことないだろうが」
ユリシーズは落ちた矢を検分する。
「先端が濡れてるな。毒矢かな」
「名前を呼んでくれると反応しやすいんだけど。フーゴだよ」
「王子にしては簡素な名前だなあ」
「母上はそんなに身分が高くないし」
軽口を叩きながら、フーゴが踏んだでっぱりを検分する。
「薄っすら何か模様があるな。これが目印なのかも」
「わざわざそんなヒント残す?」
「あいつは、このダンジョンは勝負の場だと言った。だから罠もよく見ればそれとわかるようにしているはずだ」
「なるほど」
ユリシーズがフーゴに話していると、どこからか小さくふふっと笑い声が聞こえた。
「え? なに、怖」
「くっそー、バカにしやがって」
ユリシーズはそれがアロイスの声だとわかって悔しがる。
「階段がある!」
「え? 何この階段」
床の一角、人一人がようやく通れるぐらいの大きさに切り取られたようにくぼんでいて、そこに階段が続いて見える。
「これ、普通の建築物の階段と違うよね?」
「言われてみれば確かに?」
その階段は脈絡なく設置されたように見えた。本来の階段は建物にとって都合のいい場所に作られるものだが、目の前の階段はどう考えても変な位置にあった。
「こんな部屋と部屋の境目みたいな場所に作って、下はどうなってるんだ」
「降りてみようよ。どうせ、ここしか出るとこないみたいだし」
フーゴが廊下を見通しながら言う。廊下はわかりやすく一本で左右に部屋があった。階段を進む前にまだ見ていなかった部屋を確認してみた。確かに他に出口はなさそうである。
「じゃあ、降りるか」
ユリシーズは階段を進む意を固める。
「よーし、先に行くよー」
フーゴが意気揚々と先導して降りていく。
「おっ。着いた着いた」
「えっ、さっきと同じフロア⁉」
階段を下りた先に広がる光景が先ほどまでいたフロアとほぼ同じに見えて、ユリシーズは戸惑う。
「……階段は⁉」
振り返った先に、降りてきた階段はない。
「えっ。これ、どうやって戻るの」
「わー。前にしか進めない」
一抹の不安を抱えているところに、アハハハハ……と笑い声がこだまして聞こえた。




