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5-3

 倒した怪物は時折、何か物を落とした。

「モギ草じゃないか」

 メディナでは広く薬草として使われている山野草だ。割とどこででも取れる。

「雑草に見えるんだが」

「みたいなもんだよ。この辺の土地ではよく使うけど」

 生え方はそこらの道端や畑の端、ときに畑の中にまで及ぶ。適宜取り除きつつ、食品や薬品に加工している。


「食品にする場合は乾燥させてから刻んでパンやバターに混ぜたり、炒め物や汁物に使う。軟膏に加工する場合は、蒸してよくすりつぶしてから血行促進作用のあるシュユの実と殺菌消炎作用のあるサショの実をそれぞれ乾燥させて砕いたものを混ぜ合わせる。猟師など、出先で怪我をした場合にはこの草をかみ砕いて傷口にすり込んだりしている」

 ユリシーズの説明に、ほほーと感心した声を上げたプラウドの王子はおもむろに口に運んだ。

「え」

 そして、そのまま飲み下す。

「それ生のままだと、結構苦いんだけど」

 独特のえぐみと渋みがあり、食用にする場合は大体加熱する。加熱しても苦みは残る。


「なるほど……なんとなく体力が回復したような……」

「んなわけあるか!」

 薬効があると言っても、即効性があるわけではない。

「ここいらの老人達はどの人も血色がよく頬などもつやつやしていた。この地方特有の食品がなにがしかの健康作用があるとは思っていたんだ」

「だからってねえ」

 いくら説明を受けたからとて、自ら進んで正体不明の食品を口にするなど、不用意としか思えない。

「もっと慎重にならないと早死にするよ」

「心配されるの嬉しいな~」

「違う!」

 二人はやり取りをしながら先を進んでいく。




「ユリシーズが!」

「はい。お姿を最後に目撃された時、プラウドの王子が側にいたそうです。そして、倒された騎士達もプラウドの王子にやられたと証言しています」

「以上のことから、ユリシーズ様はプラウドにさらわれたものと思われます」

「プラウド……!」

 騎士達の報告を聞きながら、イリアスは怒りを募らせる。バルドーは苦虫をかみつぶした顔をしている。

「そう言えば、あの男はユリシーズを口説いていたな」

「こんな方法でこちらの弱体を狙って来るのか……! 許さんぞ、プラウド!」

 誤解からメディナの人々のプラウドへの悪感情が高まっていた。




「なんだか、貴族部屋のような部屋の並びだな」

「貴族部屋?」

 ユリシーズとプラウドの王子はたくさんの部屋があるところを進んでいた。一つ一つ確認していく。

 それらの部屋はどこも似た造りで寝台に長櫃(ながびつ)、戸棚、小さな書き物机といった構成だ。

 何か入っているだろうかと戸棚の中や長櫃の中などを確かめる。時折、小さな貴金属などが見つかる。出てくるコインはいつの時代のものか、見たことのないデザインだ。

 荷物になりそうなのでそのままにして、先に進んでいく。


「プラウドの城の一角に貴族達が住んでいる部屋がある。そこに住むことは王城に勤める貴族達の一種のステータスになっている。実際は、こんな風にせまっ苦しいところなんだが」

「ふーん」

 ユリシーズはプラウドの王城がある都に二度ほど行ったことがある。最初は、まだ自我もあやふやな幼い頃。父母に抱きかかえられてほらあれがお城だよと遠目から見せてもらった。

 二度目は、13歳くらいの頃のこと。これから大人になってプラウドの一貴族の仲間入りをするというので顔見世の意味で行かされたのだ。

 その後、15、6歳になった頃に正式な顔見世をするらしいのだが、それには行かなかった。そして現在に至る。


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