17-2(前哨戦ライナーVSブルース)
話し合いの口火はまずブルースが切った。
「率直に問いたい。なぜ、メディナはプラウドからの独立に至ったのか。その真意はどこにあるのか、を」
ブルースの問いに、ライナーは悠然と笑んだまま口を開いた。
「逆に問う。シシーはこのままプラウドについていけるのか、と」
にこやかな表情から繰り出される辛辣な響きにブルースは口を固く結んで続きを待つ。
「プラウドの中央覇権主義は未だ収まることを知らない。先の大敗でようやく一度止まってくれたが、それでもまだ彼らの野望が失われたわけではない。そろそろプラウドは世界支配など過ぎたる夢だと思い知るべきだ。それには、プラウドそのものの力を削ぐことが肝要だ」
グレーテは話主のライナーの様子に注視する。表情こそ柔らかく笑っているが、その目は真剣そのもので強い力を持っていると思った。
「プラウドが進軍を命じるとき、いつも先鋒を務めるのは辺境だ。此度も北のカミレアを攻める準備をせよと大森林の開拓を命じてきた。そこにどれだけの労力を伴うのか、彼らは費用の数字くらいは知っているだろうが、その実態はまったく知らないだろう」
ライナーが一旦言葉を切る。反論があれば今このタイミングでどうぞということだろう。
だが、ブルースは黙って続きを待った。ブルースは最初硬い表情だったものが、今では落ち着いたものに変わっている。
グレーテはそこに父の芯のようなものを見た気がした。
「カミレアへの進撃が上手くいったと仮定しよう。さて、次にプラウドはどんな手を取るだろうか。そのまま静かに落ち着いて国全体の統治に務めるだろうか。私はそうは思わない。次にジルやグーダルを狙うだろう。ファシオを攻め落とす力を手に入れるまで止まらないかもしれない。ファシオを攻め落として、その次は? そこで止まってくれる保証はない」
ジルの名前が出て、グレーテはドキリとする。ジルはシシーと隣接する国だ。ジルと戦争となれば、シシーは確実に先鋒を務めることになる。
「プラウドはここまで軍事での成功を収め過ぎたのだ。そのせいで軍部が力を持ちすぎている。もっと功が欲しいと暴走しているのだ。功に報いるには褒賞がいる。だが、その褒賞はプラウド国内で用意しきれない。だから、周辺を攻めるしかない。だが、それももう限界だ。進軍のための軍備が追い付いていない。続く戦続きで、人的資源は減り続け、装備は消耗するばかり。それでもプラウドの中央政権は国が発展し続けていると信じている」
ライナーの言葉に、ブルースが深くうなずいた。同調だ。父の心はもうすでに決まっているのか? とグレーテは思う。
「プラウド王朝の軍拡路線にはもうついていけないと示す必要があるのだ。そうでないと止まってはくれないだろう」
「プラウド中央に対して進撃するような意図はない、と思っていいか?」
「そうだ。私の望みはこの地を守ること。決して他者への侵略の意図はない」
「ならばいい」
グレーテは平静を装って聞きながら、内心で驚く。父は「いい」と言い切ったのだ。
「南の辺境伯はすでにファシオにつくとの意思を示されている。近く大々的に発表されるであろう」
続くライナーの言葉に、それまで泰然であったブルースは大きく動揺した。
「さて、北の辺境伯よ。私はシシーにはこちらについて欲しい」
「えっ」
動揺したところへ続けられた率直な要望にブルースは一旦素に戻りかけた。
「イリアスとグレーテ嬢との婚約はこのまま継続。それを同盟の証としたい」
ライナーの側から、それを願われたのだった。




