17 グレーテVSメディナ
「お父様。メディナの方々と一度しっかりお話ししませんか?」
グレーテは父に提案をする。グレーテは自分の婚約の行方が気になるのもあったが、メディナとの関係が悪化するかしないかの状況をそのままにしている現状が気になってしょうがなかった。
父はグレーテの提案を受けて一拍黙ったが
「そうだな。一度彼らに会おう」
と力強くうなずいた。そして、メディナ領へ面会を求める書簡を作成した。
「はい! はい! 俺も行きたい! 一緒に行きたいです!」
兄ウルツが意気揚々と手を上げる。
「お兄様、何故?」
「行きたいから!」
特に理由はないらしい。
「まあ、次期領主として立ち会うのもいい経験になるだろう」
と父ブルースは了承した。
お兄様がいる方が心強くはありますが……
グレーテは内心ではそう思いつつ、それを口にしてしまうと兄がつけ上がりそうなので黙っておいた。
日程の調整がつき、彼らはメディナへと向かう。その旅路の顔ぶれの中に母の姿があった。
「お母様もついてこられるのですか?」
グレーテが母に尋ねる。
「あの家には女性がいません。きっと女性に対する気遣いが足りないこともあるでしょう。まだ年若いグレーテが角を立たせずにそれを指摘できるとは思えません。グレーテはうまくさばけずに我慢を強いられるでしょう。そんな中にグレーテを一人で行かせられません」
「お母様……」
グレーテは母の心遣いが嬉しくなって言葉に詰まった。父と兄は気づかなかった……と顔に出ていた。親子そろって似たような表情で気まずそうに目を逸らしていた。
そういえば、祖父もこうやって目を逸らしていたなとグレーテは思い出す。
うちの家の男どもは……とグレーテは思った。
いざメディナに入るまでグレーテはとても緊張していた。どんなきつい対応をされるんだろうと悲観的な想像をしていた。
いざ着くと、そんなひどいことはされることなく、普通に歓待された。メディナの領主一家と使用人たちが勢ぞろいで出迎えてくれる。
着いたその日は疲れを癒すためにと晩餐以外の予定はなく、家族でゆっくりと部屋で過ごした。
何かしつらえや出てくる料理に皮肉が仕込まれていたりするんじゃ、とグレーテは内心で身構えていたが、そんなこともなかった。グレーテの察する力が低いだけかもしれない、と母にも尋ねたがそういうものはなかったという。
「そういう仕込みは気づかれないと意味をなさないものですから、もっとわかりやすくするものですよ」
「なるほど……」
「ただ、料理はいささか無骨というか、野趣味がありましたわね。味が悪いわけではありませんが」
「まあ、それは……」
母の言葉はさすがに贅沢なものに思えた。口に合わなかったわけではない。
「あなた、成婚すれば毎日あの食事になるわけですよ。耐えられますか?」
「大丈夫ですけど……」
グレーテにとっては普通に美味しかった。グレーテには母の懸念がよくわからない。母の中では料理人をどうにか家から送り込めないかと考えているようだ。
翌日。いよいよ話し合いの本番である。シシー辺境伯家とメディナ領主一家が一堂に会する。
メディナ領主ライナーにその息子ユリシーズと甥のイリアスとバルドー。彼らが座る席の背後には臣下達が並んで立っている。
タイプの違う美男たちの並ぶ様はそれなりに圧があった。
妖精を思わせるような中性的で繊細な容姿のユリシーズ、堂々たる体躯に凛々しく精悍な顔立ちのバルドー。
そして、その二人に挟まるイリアスは彼も確かに美男なのだったが、イリアスの体格は中肉中背、顔立ちは整っているが強い印象はない。なので、両脇の二人と比べるとどうしても地味な印象を受ける。
だが、この三人の中だと一番好みなのはやはりイリアスだとグレーテは思う。
メディナ領主ライナーの顔立ちはそんなイリアスとよく似ている。血縁だから似てて当たり前なのだが、息子のユリシーズよりも甥のイリアスの方がライナーと似ていた。
後で父に聞いたところ、彼らの顔立ちはライナーの母ユリカに似ているのだそうだ。
歳を重ねて貫録を滲ませるライナーを見て、グレーテはイリアスの将来像を想起した。




