16-4
「お前たちは二人とも、そうなったんだな」
祖父が見ている目線の先がグレーテやウルツの腕にはまっている腕輪だ。
「お前達に譲るものはこれだ」
祖父が服の袖をまくる。そこにあったのは、グレーテ達と同じ腕輪だ。
祖父グスタフが自らの腕にはまった腕輪を外す。すると、それは一気に小さくなり、指輪となって掌の上に収まる。
「……え? なんですの、これは」
「腕輪の魔法は譲渡することができるのだ。一度譲渡した魔法は二度と本人には使えない。誰かに魔法を譲渡することは則ち魔法を放棄すること。お前達も安易に腕輪を手放さないように」
「……奪われた場合は?」
ウルツが尋ねる。
「諦めよう。五体が無事なら儲けものだ。腕を落とされないよう、普段は隠しなさい」
祖父の言葉にグレーテは青褪める。
「魔法を使えば、腕輪を持っているとわかってしまうがな。人前で使うのでなければ隠せるだろう」
グレーテとウルツは祖父から知らされたシビアな現実に黙り込んでしまった。
「腕輪の魔法は、魔力が尽きても回復すればいくらでも使える。だが、指輪の魔法は持ち主の魔力と関係なしに使える半面、いつか使えなくなる」
「え? えーと……」
「へえ~。腕輪は本人の力を使うけど、指輪は元の持ち主の力を使ってるのかな」
急に教えられたことを理解しようとするグレーテに対し、ウルツは己の思い付きを口にする。
「かもしれんな。指輪の魔法はその内使えなくなるものということを覚えておけばいい」
「へえ~……」
グレーテとウルツは祖父の手の中の指輪をじっと見つめる。
「儂が持っているのはこのひとつだけだ。お前たちのどちらかがこれを持ちなさい。この魔法は『加算』だ」
「加算? 増やすんですか?」
「杖やカップの使用回数が増える他、器に入った物の量なども増やせる」
「……お爺様、これでお酒を増やしたりしました?」
グレーテが指摘をすると、祖父は黙ってすいっと視線を外した。
「そりゃ、ダメだ」
ウルツが思わず呟いてしまう。祖父の酒への執着とあまりにも相性が悪い魔法であった。
「では、お兄様がお持ちくださいな」
「いやあ、グレーテが持てばいいんじゃないか」
兄妹たちは互いに譲り合う。それを何度も繰り返していると、祖父に
「押し付け合うんじゃない」
と突っ込まれてしまった。それにしても。とグレーテは思う。目の前でこんな無礼なやり取りをしていても、カッとなって怒鳴ってきたりはしないのだ。
この人って本当はこんなに落ち着いた人だったのね。とグレーテは思った。
「じゃあ、ひとまず俺が預かろう」
ウルツがそう言って、祖父から指輪を受け取った。
「お前達が得た魔法はどんなものだ?」
祖父の問いにそれぞれ答えていく。兄が当初「秘密~」などとはにかんで言ってふざけたのにはいらっとさせられたが、得た魔法を聞いてグレーテは驚く。
「攻防に使える随分と汎用性が強い魔法だな」
祖父グスタフもそう評する。秘密とはぐらかした理由もわかる気がした。
「それでグレーテの魔法はどんな魔法だ?」
問われて、グレーテはうっと一瞬言葉に詰まる。兄の魔法に比べると自分の魔法は……との気持ちになったからだ。
「私のは……説明がしづらいのですが……」
グレーテはどうにか言葉を尽くして伝えた。
聞き終えて、祖父も兄も考え込む。
「なるほど。使いどころが難しい魔法だな」
「でもなんか強そうだね」
「うう……」
否定されたわけではないが、微妙な反応が返ってくる。
「だが、これこそがお前の欲した力だ。自信をもって使いなさい」
「……はい」
祖父が静かに背中を押してくれる。祖父から肯定の言葉がもらえると思っていなかったグレーテはわずかに目を見張り、それからしっかりとうなずいた。




