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15-5

『せめて髪留めとかならまだしも、ペンダントトップがそれって』

『女性の装身具は女性の意見を参考にした方が』

『わかったよ! 女子に聞けばいいんだろ!』

 ダメだしされ続けてイリアスがキレた。そして連れてこられるドロシー。


『えっ』

 ドロシーはネックレスを見せられて絶句していた。グレーテは思わず、自分が今身につけているネックレスを触る。このネックレスはとてもシンプルなデザインで日常的に着けやすい。


『ええと……なにか、特別なとき用のアクセサリー?』

『いや、特にどこという場面は決めてないけど……』

『それだと、もっと小さい大きさにした方がいいかな……』

『そうだよ。もっと小さければ、比較的地味に見えて使いやすいのに』

 ドロシーの言葉にユリシーズが加勢する。


『大体、さっきからその持ち方は良くないぞ。それだと狩りで狩った獲物の持ち方だ。もっとこう……そっとだな』

 またしてもバルドーが真っ当な指摘をした。

『バル、わかってるねえ!』

『子供の頃に母上のアクセサリーでやらかしてしこたま叱られたのだ』

 ユリシーズの言葉にバルドーが続ける。イリアスはまたしてもぐぬぬといった顔をしている。


「この呑気な雰囲気……プラウドに反旗を翻す前ですか?」

 来るかもしれない戦争のことで悲壮感を抱いていたグレーテは気が抜けてしまった。イリアスがそのセンスはひとまず置いておいて、恐らくはグレーテのためにとアクセサリーを選ぼうとしてくれたことが嬉しかった。グレーテは微笑んでその様を見守っていた。


 そんな三人のところへ、そんな空気をぶち壊す報せが届く。


 そこから一転、彼らはイリアスが用意したアクセサリーのことは脇に置いておいて真剣に話し合いをする。



 彼らの話し合いは終わった。彼らはひとまずはメディナ領内に対しての通達とプラウドへの対応、隣接する領地への連絡などを先に決めていた。

 シシーに対しては連絡はしても、協力は強く求めない。そう決めていた。イリアスとグレーテの婚約は、シシーの出方を見てから成り行きに任せる。そう結論付けられた。



 先ほどまで、イリアスが贈るアクセサリーについて話し合っていたのに、その結論は冷静で渇いたものに思えた。

 イリアスの表情に動揺はなく、淡々とそれを受け止めているようだった。


『残念だな、イリアス……いや、まだ残念かどうかわからないけど』

 むしろイリアス本人よりもユリシーズの方が気にしていた。

『まあ、しょうがないだろう。こればっかりは』

『でも、あの子本当にイリアスのことをすごく気に入ってたし。俺に変に突っかかってくるくらいには』

 ユリシーズは話しながら「変に突っかかって」来られた経験を思い出してか、少しむっとした顔になった。


『……そういえば。妙にお前に当たりが強かったなあ』

『そうだよ。子供の頃は一緒にままごともしたのにさあ』

『お前に嫉妬してるかのような反応だったな』

 三人がグレーテのことを思い出して話している。褒めるような内容ではないので、グレーテはどこか申し訳ないような気分でそれを聞く。


『そう! あれは嫉妬! でも、その正体は代替品!』

『代替品?』

『あの子は恋に憧れがあるんだ。物語のようなドラマチックさを求めてるんだ。でも、そんな物語性は二人の間には無い。だから、仮想の恋敵扱いを俺に対してしてるんだ』

『お前、女の子じゃないのに』

 ユリシーズが持論を展開すると、バルドーがなんだそれはという呆れた様子を見せる。


『そう! 本物の女の子が恋敵として現れるとショックがでかすぎるんだ。それでも恋敵とバトりたい。そこで安心して攻撃できる相手が俺だ!』

『いや、そんなはた迷惑な』

『刺激が少ないからだろーね。イリアスと交流するにしても、距離があるから中々できないし。これが本物の恋に発展できれば、そんなのもなくなるんじゃない』

 ユリシーズがそう語る中、イリアスは先ほどのアクセサリーをじっと見ていた。



 本当はグレーテもわかっていた。まだ、グレーテは恋をしていない。イリアスへの好意はあれど、それが愛にまでは至ってない。

 ただ、恋をしているかのような充足感が欲しかった。だから、イリアスを失いたくなかった。


『……会いたいな』

 誰にも聞かれないような小さな呟きだった。滔々としゃべっていたユリシーズは気づかなかった。


 少なくとも、会いたいとは思ってくれている。


 グレーテは目が熱くなり、鼻の奥がツンとなるような感覚を覚えた。


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