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15 真実を知る

ダンジョンにいるウサギなんて、まともじゃないですわ」

 グレーテはぼやきながら火に当たる。何度目かの挑戦で無事に火起こしに成功した。

「焚火って、心が落ち着くもんなんですね~」

 グレーテはぼんやりと火を眺める時間を心から楽しんだ。

「蛇ちゃん、温かいですか?」

 獣は火を怖がりそうなものだが、蛇はグレーテと一緒になって火に当たっている。蛇はグレーテのスカートの上でとぐろを緩く巻いてくつろいでいた。うとうとしているのか瞳が上を向いて固定されたと思うと、ぱっと瞳が正面を向く。

「お腹も膨れましたしね。ひと眠りしてもよさそうですわ」

 眠るのなら焚火を消さなければならない。まだ火も大きいので、しばらくは火に当たる時間を楽しもうとグレーテは思う。

 蛇にお肉を食べさせることができて良かったとグレーテは思う。これまで獲物を解体できなかったので、蛇に食べさせることができていたのはリンゴくらいだったのだ。


「ウサギって、解体しやすいんですのねー……」

 グレーテはぼんやりと反芻する。初めて獲物の解体に成功した。皮は剥ぎやすく内臓も取り除きやすかった。散々痛い目に遭わされた後の味は格別であった。

「もう少しお塩とか欲しいところですわね」

 よりおいしい食べ方を模索するぐらいには、味を堪能した。焦がして台無しになるかとも思えたが、火から離して置いたおかげでそれも回避できた。



 ウサギとの戦闘はそれなりに苦労した。一度目の戦闘でとんでもない強敵だと実感したので(なにせ瞬殺された)装備を充実させてから挑むことになった。

「なくしたはずのアイテム、全部戻ってきましたわね」

 鞄から武器からコインやカップ、ポーションなどの細かいアイテムまで現在のグレーテの持ち物は充実している。


「鎧のこの部分ってどんな意味があるんだろうと思ってましたけど、結構重要なんですわね」

 偶然手に入れた鎧のパーツが実に役に立った。グレーテは今、喉輪と手甲を装備していた。これのおかげで魔物ウサギの鋭い爪や角の攻撃をいなすことができたのだった。

 鎧の有無でウサギの攻略難易度は段違いであった。



「はあ~~。令嬢なんてかわいいだけがとりえでいいのに! 私はどうしてここにいるんですの⁉ そもそもなんでここに来ることになったんでしたっけ⁉」

 もお~~っとグレーテは伸びをしながら不満を口にする。ひたすらにダンジョンを歩くことに必死になるあまり、本来の目的など忘却の彼方である。

 妙な成長の仕方をしている。とグレーテは自覚している。

「私、元の生活に戻った時どうなってるんでしょうか」

 グレーテはオッシが言っていた言葉を思い出す。ダンジョンで死にすぎると外の世界で無茶をしすぎるあまりに命を落とす、と。


「死なないようにと言って下さったのに。私、何回死にましたっけ……10回はいってないと思うんですけど……」

 2戦目のミノタウロスとウサギでかなり苦戦させられたのだ。


「とにかく早くここを出たいですわ。それには、やはり攻略をがんばらないとですかね」

 焼いたウサギ肉を片付けながら、目標を語る。

 獲物の解体などをできるようになったグレーテを見て母などはどう思うだろうか、などど思いを馳せる。そもそも獣と接する機会が少ないような都市から嫁いできた母である。ウサギを遠目に見て鑑賞することはあっても解体することなどまずない。狩りの機会でも母は遠くから父達の解体を見ていた。あれは直接血や臓物を見ないでいるためだったのだ。グレーテが父達に近づこうとするのを手を握って阻止していた母である。

 木を登るリスを見かけて相好を崩していた母だが、調理されたリスに関しては無の表情をしていた。グレーテはと言えば、出されたものはなんでも食べるのでそんな母の心情などは理解しきれないのであった。


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