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14-3

 グレーテは慣れた手つきでカップを地面に向かって投げつけた。カップは割れて破片と共に中から品物が飛び出てくる。

 方々に散らばったアイテムをグレーテはササッとかき集める。

「閃光コイン、すばやさ草、毒草、ヒペリカ草……う~~ん、いいんだか悪いんだか……」

 5つ出てきた品物の内、4つの品物をグレーテは微妙な気分で受け取る。そして、残るもう一つ。


「……また出会えましたね」

 それは最初にミノタウロスを倒した後に手に入った剣と同じものだった。薄っすら光って見えたので、グレーテはその剣を目を凝らしてよく見直した。

「……鍍金されてるじゃありませんの。都合がよろしいですわ」

 グレーテは再び己の手に戻ってきたことに感慨深い気分に浸った。

「なんだか、運命を感じますわ」

 グレーテは、この運命を生かそうと心に誓った。もう死なないぞ、あいつは絶対倒す、と。



「行きます!」

 できるだけの強化を施した後、自分を鼓舞するために声を出す。


 ミノタウロスが向かってくる。そこでグレーテは閃光コインを投げつける。閃光に目がくらんでミノタウロスの動きが止まる。

 その間にグレーテは近づく。まずは一太刀入れたいところだが、念には念を入れ、混乱草を投げつけた。これでミノタウロスの正確な攻撃が阻害される。

 続いて、毒草をミノタウロスの口に放り込む。


 グレーテは閃光コインなどによる弱体化と通常攻撃を交互に行った。

 そして、その時は来た。

「よし!」

 ミノタウロスが倒れ、その体が消えていく。

「……完封しましたわ!」

 一太刀も攻撃を食らうことなく、グレーテは完全勝利を収めた。



「デバフって大事なんですのね」

 グレーテは呟き、ふうっと息を吐いた。ようやく達成されたミノタウロスの討伐。グレーテは最初は呆然とし、その喜びはじわじわと遅れてやってきた。

「~~~~~」

 叫びたかったが、大声を出すだけの元気はまだ戻っていなかった。声にならないままに、両腕を突き上げて飛び上がり、喜びを表現した。



「あ! ここでも報酬がもらえるんですのね!」

 グレーテは目敏く見つけて、今度は声を高らかに喜んだ。

「錬成のカップ! これは大事ですわー! こっちは鍍金の巻物……あー……それと、これは剣を強化できる魔法でしたっけ」

 グレーテが持つ剣にはすでに鍍金がされている。用途が被ってしまった巻物にグレーテはどうしたものかと思った。いらないモノ扱いもしたくはないが、今必要とはしていない。

「彼が私に鍍金の巻物を下さった理由が分かった気がしますわ」

 グレーテは改めて納得をするのだった。


「剣の強化は幾らでもできるんでしょうか?」

 試しに巻物を読んでみる。

「これは多分、できるやつですわね」

 グレーテはさらに強化された剣を手にほくほくと上機嫌だった。



 階層が深くなるごとに出てくる魔物は強くなっていく。だが、さすがにミノタウロスを倒した直後にミノタウロスより強い敵はあまり出てこない。

 それがここまでダンジョンを踏破して得たグレーテの経験知であった。

 ミノタウロスを倒した後、グレーテはさらなるダンジョンの深みへと入っていく。

「あ、ウサギ……」

 そこで、グレーテは要警戒すべきと教わっていた魔物、ウサギと遭遇した。



「……あれも動きが速いんでしょうか?」

 グレーテは、気づかれる前にデバフアイテムを取り出そうと鞄を探る。

 そうこうする内に、ウサギが振り向く。グレーテははっとした。


 ウサギが跳躍した。後ろ足の蹴りは強靭で、想像以上の飛距離でやって来る。

「うわ、」

 グレーテは咄嗟に対処しようとしたが、ウサギの勢いはグレーテの予想をはるかに超えていた。


「あ……?」

 グレーテの視界がぐるりと回転する。首に何らかの攻撃を受けたのはわかった。その首がおかしな方向を向いているのか、視界が制御できない。

 視界が下に向かって落ちていく。その視界の端に自分の体を見つけた時、グレーテは首を落とされたのだと気づいた。



「……」

 もう見慣れた景色である。再度のダンジョン入り口近くの天井を目にして、グレーテはまずはため息が出た。

「ウサギぃいーーーーー!」

 そして、怒りからの叫びが腹から出る。


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