14-2
しばらく、蛇と身を寄せ合っていたグレーテだったが、いつまでもそうしてはいられない、と立ち上がった。
「あなたに名前を付けてあげたい気はあるんですが、なぜかなんにも思いつかないんですよね。なぜかしら……」
蛇にはいつもの定位置と鞄の上に乗せようとしていたが、その鞄はすでにないのであった。
「私、全部なくなってしまいましたわ」
蛇にはどこにいてもらおうか……悩んで、結局肩の上にいてもらうことにした。蛇は最初片側の肩に乗せてもらっていたが、結局両肩にまたがるように体を伸ばしていた。
「あなた、本当に軽いですわね。乗せている感覚が全然ないですわ」
グレーテの顔の横に小蛇の顔が寄り添う。
「あなたのお口、笑ってるみたいに見えますわね」
グレーテはふふっと笑いながら蛇の頭を指で撫でた。蛇も嬉しげに目を細めながらグレーテの顔にすり寄る。
蛇のおかげでグレーテは落ち込むばかりの自分の考えから逃れられた。
「さあ! 行きますわよ!」
グレーテは再び、ダンジョンを歩き出した。
そこからは、すでに要領を知っている。手持ちのナイフで敵を倒し、アイテムを手に入れる。
「武器が手に入りましたわね」
より強い武器を手に入れると、そちらに持ち替えてさらに敵を倒していく。
「アイテムは積極的に集めたいですわ」
グレーテはこれまで以上に戦闘と探索をがんばった。
「あ……! このモンスターいっぱいの部屋」
モンスターハウスの出現に怯む気持ちはあったが、アイテム収拾のことを考えると避けていてはいけないとの結論に達する。
「行くべきですわね」
腹を括ってモンスターハウスに挑んでいく。
一度ダンジョン攻略を途中まで経験しているグレーテは、最早あまり驚いたり慌てたりすることなく淡々とこなしていった。
「えっ⁉ このカップ、アイテムを入れると別のアイテムに変わりましたわ!」
もちろん経験したことのないことに関してはやはり驚くことはあった。が、それでもうろたえてなにもできないということはなかった。
一戦目のミノタウロス戦は無事に乗り越え、再びあの霊廟の前までたどり着く。
「……こんな形で戻ってくるなんて」
グレーテは廟の前で手を組み、祈りを捧げる。
「ここに眠るのは一度しかない生を散らした方々なのに……」
グレーテは己の不甲斐なさとそのことへの申し訳なさを痛感した。
「……それなのに、亡者の姿の魔物と戦わせられるってどういうことですの⁉」
グレーテは苛々しながら戦闘をこなした。
「こっちは殊勝な気持ちでいるのに! 本当にこのダンジョンを作った主は性格が悪いですわ!」
グレーテは本気で怒っていた。
再び、件のミノタウロスがいる部屋の前まで来た。
「能力を強化する魔法は事前に使うとして……」
扉を開ける前にシミュレーションをこなす。
「では、行きますわよ」
グレーテは今度は慎重に扉を開けた。
「はっ!」
再びグレーテは目を覚ました。
「え⁉ やられた……⁉」
グレーテはまたダンジョンの入り口付近に戻されていた。
「また……また、全部なくし……」
グレーテはうわーーー! と頭を抱える。その頭を抱えた手にチョン、と軽い感触を感じる。
「あなた。また、ついてきてくれたのね……」
顔をのぞかせた蛇を見た瞬間、グレーテは涙が込み上げてきた。それを我慢しながら、蛇の背を撫でた。ほろっとこらえきれなかった涙がこぼれた。
「あいつ、動きが速過ぎるんですわ……」
その速さに対抗しなくてはならない。それを解決するためのアイテムを入手しなくてはならない。
「戦闘も探索も入念にやらないと……」
グレーテは時間制限いっぱいまで、一階層を探索し続けることに決めた。制限時間ぎりぎりまでの探索を可能にするために、先に次の階層への出口を見つけておく。
「……やはり弓って使うのが難しいんですのね」
試したことのないアイテムも積極的に使った。弓矢を手に入れたので、それを使ってみたが、習得していないことはできないと改めて思う。
「これは変化のカップに放り込みましょう」
自分が持っていても使いこなせないアイテムは捨てるか、変化のカップに入れることにしたグレーテだった。
変化のカップはアイテムを入れると他のアイテムを手に入れることができるアイテムだ。時に思いもよらない高価値のアイテムを手に入れることができる。取り出すにはカップを割るしかない。
「鑑定の魔法によると、吸出しの魔法で割らずに取り出せるそうですけど……」
その魔法の巻物は未だグレーテの前に現れたことはない。なので、現状割るしかないのだ。
「矢は一本ずつ入れられるからいっぱい試せますわね」
グレーテはワクワクしながら変化のカップに矢を入れた。
「さあ! ガチャのお時間ですわ!」
変化のカップを割ることをいつしかグレーテはガチャと呼んでいた。ガチャンと割る音からガチャである。




