13-3
「なんですの、ポーションって」
「これが小さな傷などを治すのに役立つ傷薬、そしてこれがあらゆる傷を治すことができる液状の回復薬、ポーションだ」
男が自身の荷物から取り出して見せてくれる。
「……その瓶入りの液って、これと同じものです?」
牛男を倒した後に手に入れた瓶をグレーテは取り出して見せる。
「おお! 持っておったか。そうだ。それと同じものだ!」
男の顔が安堵に変わる。グレーテが回復手段を持っていたことに対するものだと、彼女は理解した。
「こういうものの正体ってどうやって調べたらいいんですの?」
現状、グレーテは意を決して口にするなど、身をもって調べる以上のことはできていない。
「鑑定の魔法があるのだ」
「それも巻物です?」
「そうだ。これが鑑定の魔法を使った状態だ」
男があるアイテムを見せる。
「これは……錬成のカップ……って書いてありますわ」
「そうだ。そうやって、正体の知れないアイテムを知ることができるのだ」
「へえ……」
アイテムに重なるようにして、文字の書かれた枠が見えている。その文字に目を凝らせば、より詳細を知れた。その文字から目を逸らせば、文字は見えなくなった。
「その鑑定の魔法を、このポーションに対して使うと効能と共に原料などがわかる」
「そうなんですね」
「そして、原料をすべて入手し、この錬成のカップに入れるとこのポーションと同じものが作れるのだ」
「え! アイテムを自分で作れるんですの!」
「そうだ。本当に重症の傷でも治せるから、このポーションの作り方は覚えていくといい」
これは大事な情報だ、とグレーテは居住まいを正した。
「この草の名はヒペリカ草」
「その名前聞いたことがありますわ。でも、私が知っているものよりも明らかに効能が優れているようですが」
グレーテは薬草茶にはまっている祖母と山菜にはまっていた祖父を持っているので、ある程度山野草の知識はあった。
そして、生えている状態を見たことのないものでも、乾燥したものや加工したものに触れたことはあった。
「ああ。ダンジョン産の薬草類は妙に効能が高い」
「このヒペリカ草をベースに、他に薬効を高めるアイテムたちを入れていく。まず、このリンゴ」
「え! 私、そのリンゴ普通に食べてましたわ!」
「……まあ、狩りができないならば食料はこれになるだろう。それは仕方がない」
男が教えてくれるポーションの原料、それらのこと如くをグレーテは口にしていた。
見たことがなかったのが、花の類だ。
「へえ。これらのお花も原料なんですの」
「そうだ。これら、地上でも薬効のあるお茶などにされているものだが、ダンジョンではより強い効能を持っている」
グレーテはこの知識を大事にしようと心に留める。
「なんでも傷が直せるポーションだが、小さなかすり傷に使うのはさすがにもったいない。そこで役に立つのは、この傷薬だ」
「これも錬成のカップで作れるんですの」
「そうだ。錬成のカップは使い捨ての道具ではない。繰り返し使えるので、手に入れた時は大事に持つように」
「はい!」
そして、傷薬の原料も教わる。
「モギ草にドクバミ、ベリデイジー……へえ~。これも聞いたことがありますわー」
「これらはポーションよりも入手難易度が低い」
「ここまでお花はほとんど見かけなかったんですが」
「この先、よく入手できるだろう」
「そうなんですね」
他にも、目を痛めた時や毒を受けた時などの対処を教わった。
「さて、そろそろ時間切れだろう」
「まだまだ教わりたいことがいっぱいですわ」
グレーテは残り少ない時間で聞くべきことは何かと思考を巡らす。そして、はっと顔を上げた。
「お名前を伺ってませんわ!」
「ああ……」
グレーテの言葉に、男は眉をひょいと動かした。
「儂はオッシ。元鉱夫で今は日雇いの人足などをしている」
「私、グレーテと申します」
二人は改めて名乗り合った。
「いつか必ずお礼をさせてくださいませね」
「お嬢さんの無事を願っているよ」
二人はまたお互い無事に再会できることを祈りながら、階層の出口で別れた。




