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グレーテは合成で出来た新たな剣を手に取る。
「見た目は変わりませんわねー」
「ふむ。効果は使ってみるとすぐわかる」
「では、早速使ってみますわ」
グレーテは意気揚々と剣を構える。魔物よ出てこい、などと初めての願いが湧き出てくる。
そうは思っても、グレーテは半信半疑でいた。なにせ見た目がまったく一緒なのだ。
ハルバートと剣を合成したからってどうにかなりますの? などと考えていたのだ。
「出ましたわね!」
グレーテは剣を構え振りかぶる。しかし、使い慣れたハルバートと間合いが違う。振り下ろした先が敵がいない場所で、少し遠かったか、とグレーテは反省した。すると、届かないはずの場所にいる敵が切れた。
「えっ!」
「ふむ。斬撃が飛んで攻撃範囲がハルバートと同じになったか」
「そんなことが可能なんですの……」
「他にも、何か特徴が足されたのかもしれないな」
男の言う通り、上から叩きつけるように攻撃すれば、ハルバートの柄で攻撃した時のような打撃を与えられた。
ハルバートと合成して新たに生まれた剣は、本来の軽さと切れ味に上乗せして広い攻撃範囲を持っていた。
「すごいですわー!」
「合成のカップはこのように強力な武器を生み出せる。大体、4個から5個の武器を合成できるので、これからは大事に使うのだぞ」
「すごーい!」
男が解説をしてくれたが、グレーテは感動していて話半分に聞いてしまっていた。
「罠の中には、武器や防具を錆びさせて弱体化させてくるものがある。せっかく武器を強化しても、それを食らっては台無しだ。それを事前に防ぐ方法がこれだ」
男が一つの巻物を指しだした。
「なんですか、この巻物?」
「錆止めの効果を付与する魔法だ。儂の得物にはすでに使ってあるから、お嬢さんの武器に使いなさい」
「わかりましたわ」
グレーテは勧められるままに巻物を広げて読んだ。
「我が武具に色褪せぬ光の加護を付与せよ! 鍍金!」
巻物を読むと、剣が一瞬妖しく揺らめく光に包まれた。その光はすぐに収まり、元通りの剣の姿に戻った。よくよく目を凝らせばわずかに輝きが増したようにも見えるが、気のせいで済ませることもできるほどのわずかな輝きだ。
「これで、錆止めの罠を踏んでも大丈夫になったな」
「へえ~、助かりますわ。ありがとうございます。……ところで、その罠は人体への影響はどうなんですの?」
武具全体に影響のある罠と聞いて、グレーテはその罠が全身にかかるようなものだと想像した。
「……肌がただれるほどではないが、まあ、不快ではある。幸い、このダンジョンは水の入手に困ることはないから、拭くなり洗い流すなりできる」
「嫌な罠ですわー」
男の言葉から、グレーテは己の予想が当たっていたと知った。
現れる魔物を倒しながら、狩りの要点を教わる。
「狩りとは基本的に獲物の肉を得るために行われるもの。ただ倒すだけではなく、獲物の肉を可能な限り残さなければならない。なので、大きな剣でやみくもに切ってしまうと、肉を得るどころではなくなるのだ」
「そうですわね……本当にその通りですわ」
グレーテは男の言葉に身をもって体感したので、大きくうなずく。
「なので、よく弓矢などが使われるのだ。急所を狙って、そこだけを的確に攻撃する。そして、血で肉を汚さないようにする。そうでないと解体が大変だからな」
「弓って今からでも扱えますでしょうか?」
「実は、ダンジョンでは弓も手に入る。だが、それを的確に扱うのは、やはり習練が必要だ」
「ですよね~」
予想通りの答えが返ってきて、グレーテはため息交じりに相づちを打った。
「しかし、その習練が必要ではないアイテムも存在するのだ」
「え?」
だが、続く男の言葉にグレーテは顔を上げる。
「弓は普通練習しないと的に当てるのも一苦労だが、ダンジョン産の弓の中には必中で的に当てられるように加護を付与されたものがあるのだ」
「そんなものが……!」
「それがあれば、敵を倒すのも容易だが、なかなか手に入りにくいものだ。体感ではダンジョンの奥に行けば行くほど出やすくなる気がする」
「……どっちにしろ、今すぐ狩りができるようにはならないということですわね」




