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グレーテがアイテムを出し入れする間、蛇はそそっとグレーテの肩に昇り、かばんの蓋が閉まると、また元通りかばんのフラップの上に戻った。
ここが自分の定位置ですといった風に見えるその様子がなんだか微笑ましかった。
グレーテはそんな蛇の様子から感じていた気恥ずかしさがまぎれたような気がしたのだった。
ふと、グレーテは変わった気配を感じて顔を上げた。そこでかち合ったのは小さなつぶらな瞳。男の服のポケットから顔を出していたのは、黒い毛皮の小さなリスだ。顔だけ出してこちらを見ていたが、目が合ったことに気がついたのかひょっと顔を引っ込めた。
「リス……?」
グレーテが思わず呟くと、男はそのリスが引っ込んだポケットを上から触った。
「……お嬢さんは、蛇か」
「この子達って、何ですの? 敵意もないし、魔物ではないですよね?」
「うーん……魔物の定義をなんとするか、難しいところだ。普通の獣ではないことは確かだし、ダンジョンで現れたのだから魔物とも言えるかもしれない。だが、敵ではないことは確かだし、こちらを主と思ってか側を離れようとしない。他の魔物とは一線を画す存在ではある」
「魔物なんですの」
グレーテは思わずツン、と蛇の頭を指でつつく。蛇はじゃれていると思ってか、それを受け入れつつ頭を逆に突き出してくる。
「全然怖くないんですわ。そもそも全然強そうでもないですし」
「攻撃力なんぞないだろうなあ。こやつも、小さい獣だし。世の中には、獣を従えてダンジョン攻略の手伝いをさせている人もいるらしいが、こ奴らにそんな高度なことはできんぞ」
「……別に何かをして欲しいとは思わないんですけど」
「そうだな。ただいるだけの存在だ」
それを聞いて、グレーテはより一層なんなんだと思わされる。
「この子達って何のためにいるんですの」
「儂は孤独を癒す存在だと思っている」
「孤独」
「我々が一人でいて途方にくれたりしているときに出てきて、少し心を癒してくれる」
「へえ……」
「だから、戦闘に役立ったりはしない。ただ寄り添うだけの存在だ」
グレーテは話を聞きながら、蛇の下あご辺りを指で撫でていた。
「がんばって戦闘を助けようとしてるときもある。邪魔になりそうなら勝手に避けてる。獣を連れ歩くのに不適な場所に行く時なんかは姿を消す。そして、いつの間にか側に戻っている」
「へえ~」
撫でていると蛇は目をつむって寝そうになっていた。だが、この後、武器を取り出したかったので寝られるわけにはいかなかった。
「お嬢さんが今使っている武器は、その槍に斧の刃がついたやつかね」
「私、今悩んでいるんです。もう一つ剣を手に入れたんですが、そっちの方が切れ味がいいんですけど、これも使い慣れてきたので手放すのが惜しくなってしまって」
「そういう悩みを解決する道具がある。合成のカップだ」
男が取り出したカップを見て、グレーテはあっとなった。
「それ、持ってますわ!」
牛頭の怪物を倒した時に得たのと同じデザインであった。
「これはどうやって使うんですの?」
「武器を入れるんだ。中に入れた武器が合成され、一つになって出てくる」
「え! 盾とか剣を同時に入れた時はどうなるんですの⁉」
「盾と剣は合成されなかったな。弓は弓同士で合成される」
「へえ~~。では、早速使ってみますわ!」
「あ!」
グレーテは合成のカップに剣を入れた。その時に男が焦った声を出した。グレーテは首をかしげる。
「……最初に入れた武器がベースになるのだ」
「あ!」
それを聞いてグレーテは声を上げた。取り戻そうにも、取り出せない。
「これ、どうすればいいんですの⁉」
「……取り出すにはカップを壊すしかない。だから、複数武器を持っているとき以外中に入れてはいけない」
「ええー!」
もう剣を入れてしまった。
「……そのまま入れておいて、他に武器を手に入れた時に合成するか?」
「……もったいないから、もう合成しますわ」
グレーテはハルバートを合成のカップに入れた。
「大体4、5個くらい武器を合成できるんだが」
「ええー。そんなに持ってませんわ」
武器を新たに手に入れるまで素手で戦うことなど想像できない。グレーテはカップを割って武器を取り出した。




