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「白くてきれい……白蛇ってどこかの地方では神様扱いでしたっけ? え? あら~~!」
グレーテが蛇の体表の色を評していると、蛇の色が変わりだした。
「えー、黒くもなれますの。真っ黒もかっこいいですわね。あら、今度はまだら模様? へえ~、そういうのも味がありますわ。赤いラインが入ったのも、悪くないですわね。まあ! 金色っぽいのも美しいですわ。なんだか艶があって……」
そうやって一通り肌の色を変えてみせると、蛇はまた元の白い色に戻った。
「器用なことをしますわね。カエルなんかも、いる場所によって色を変えたりしますけど、そういうのとは違いますよね……あら」
白蛇をまじまじと見ていて、グレーテは気づいた。
「あなた、目の色がオッドアイになってるんですわね。片方が琥珀色で、片方は榛色……私とおそろいですわ!」
グレーテは琥珀の髪色に瞳は榛色だ。グレーテはそれに気づいてはっと驚く。ダンジョンという非日常な世界で出会った恐らく魔物の持つ色が、自分と同じ。これを偶然で片づけてしまうのは、それこそ奇妙に感じる。
「……そういえば、白猫はたまにオッドアイの子がいますけど、片耳が不自由な子が多いと聞いたことがありますわ。あなたが首をかしげているのは、そういうあれですの?」
犬が首をかしげるのは疑問を感じているわけではなく、音をよく聞こうとしている仕種だという。蛇の聴覚についてはグレーテの知る範囲ではなかったが、首をかしげる仕種をしてこちらを見てくるので、よく聞こうとしているのではとグレーテは思った。
「……ちょっと触らせてくれたりなんかしませんわよね。……あら、触らせてくれるんですの」
かわいがるというよりは、知的好奇心から触ってみたいとグレーテは思った。そっと手を伸ばすと、自然と体を寄せてくれた。
「へえ、つるつると言うよりは、すべすべ……? 意外と気持ちいいものなんですね。なんだかひんやりしてますわ」
蛇の体が冷たく感じて、かつて見かけた蛇の日向ぼっこを思い出す。
「あなた、体温が低いですわ。蛇って自分で温かくなれない生き物でしたっけ。本来、こんなところにいる生物じゃないんですわ」
改めて、蛇がこんな日の差さない洞窟の奥にいることに違和感を覚えるのだった。
「この子のことは気になりますけど、いつまでも遊んでいられないんですわ」
しゃがんで蛇を相手にしていたグレーテは探索を再開すべく、立ち上がる。
「もう行きますわね」
手を振って別れの挨拶をして、グレーテは再び歩き出す。振り返ると蛇は一生懸命ついてきていた。
とても一生懸命進んでいるようだが、その進みは遅かった。体が小さいせいだろう。
「あなた、ついてくるんですの……よかったら、乗りますか?」
グレーテは見兼ねて手を差し出した。差し出した手に、蛇は一瞬止まってじっと眺め、察してくれたのか手のひらに乗ってくる。
「素直ですわね。ほら、このかばんの上にでも乗っててくださいな」
グレーテは肩から提げているかばんのフラップの上に蛇を乗せてあげた。蛇はそこからの眺めを確かめているのか、きょろきょろと首を振りながら辺りを見ていた。
「なんだか、楽しそうに見えますわ。……いえ、私の勝手な想像ですけど」




