11-2
蛇は水を飲み終わると顔を上げて、ちろりと舌を出した。それがグレーテへのあいさつのように彼女は感じた。
「もういいんですの?」
飲み終わった蛇がするすると岩壁を降りる。
「……」
グレーテと蛇はしばし見つめ合う。
「えーと。敵意はなさそうですね」
蛇は一向に攻撃をしてくる気配がない。このまま捨て置いていいのか……とグレーテは悩む。
とりあえず、蛇に注意を向けながらその場をゆっくりと去ることにした。
「……ついてこないですわね」
背を向けた瞬間にガブリとくるかと身構えていたが、蛇は小首をかしげたままその場でグレーテをただ見送っていた。
「うーーん……」
グレーテは新たに手に入れた剣をどうすべきか、悩んでいた。試しに使ってみて、ハルバートとの違いを比べてみる。
「軽くて、使いやすいんですけど、敵との距離が近いんですよね……」
戦闘に慣れていないグレーテは、敵に対して怯む気持ちがいまだにある。そのため、敵との距離は保って攻撃をしたいのだ。ハルバートなら、それがある程度叶うが、剣だと間合いがそれよりも近い。
「でも、こちらの方が切れ味とか良くて、攻撃力は高そうなんですよね……」
この剣は非力なグレーテでも簡単に敵を切って捨てられるほどに切れ味が鋭い。
「でも、こちらだと殴って倒すのができないんですわ」
ハルバートは長い柄の分重みがあって、それが打撃にも使えた。だが、剣の方ではそれが叶わない。
「う~~ん。悩みどころですわ」
グレーテはハルバートと剣を交互に使いながら、悩み続けていた。
「~~~~」
しかし、いざ戦闘となるとそんなに悠長に考えていられない。弓でこちらを射ってくる小人と遭遇する。グレーテはどう対処していいかわからず、一旦角を曲がったところへ逃げる。そこから、吹き飛ばしの杖を振る。小人は壁にぶつかってダメージを負う。そこからまた立ち上がって、弓で狙ってくる。
「近づけませんわ!」
グレーテが素早く動けるのなら、小人が後ろへ飛んだのを追いかけて、壁にぶつかったところでとどめの一撃と行けたであろう。だが、グレーテにそんな機動力はない。
「あの爆発するコインも閃光のコインもないですし、火魔法の杖もないですし」
遠隔で攻撃する手段がない。グレーテはもう一度吹き飛ばしの杖を振るしかなかった。
再び壁まで飛ばされた小人がまた立ち上がる。もう一度、と杖を振ると杖は沈黙している。使い切ったのだ。
「~~~!」
グレーテは叫びたかったが、声は出せなかった。使い切った杖は投げつければ同じ効果が得られる。だが、それには正確に敵にぶつける必要がある。
あまり力のないグレーテに遠距離の投擲は難しい。そして、小人は中々近づいてこない。小人はひたすら遠くから弓で射ってくる。
「えーーい!」
グレーテは覚悟を決めて、角から体を出して走って向かう。小人が弓を射る動作をしている間に、なるべく近づく。その矢が真っ直ぐグレーテを狙っている。
びくん! と小人が体を跳ねさせる。何が起きたのか⁉ とその様をグレーテは走り寄りながら目を凝らしてみる。
小人の足を小さな蛇が噛んでいる。
グレーテは間合いを詰めて、小人を剣で切った。
はあはあ、とグレーテは荒く息を吐く。
「……あなた、手伝ってくれたんですの⁉」
グレーテは息を整えてから蛇に尋ねる。グレーテの言葉を理解しているのか、蛇は小首をかしげつつ、ちろんちろんと舌を見せてくる。
「手伝ってくれたんですよね⁉」
もう一度尋ねたが、蛇からはわかりやすい反応は返ってこない。
「え~~と、どうすればいいんですの?」
蛇を前に、グレーテはどう対すればいいのかわからず、困惑する。




