9-2
「あっ!」
敵への対処に気を取られて罠を踏んだ。
「きゃー!」
横から飛んできた丸太に慄き、慌てて避けようとした。
「ぎゃっ!」
一歩前に出たところでこけて倒れた。丸太が頭上を通過していった。魔物が巻き込まれたのか、悲鳴が聞こえた。
こけた拍子に、床に合ったアイテムの何かが壊れた。割れた音が聞こえたのでカップの類だろう。
なんでこけたのかと振り返れば、何もなかったはずの床に石が出現していた。罠の二段構えである。
グレーテは思いっきり文句を叫びたいのを堪えた。まだ魔物がそこかしこにいるのだ。
念願の巻物に手が届いた。これでこの部屋の敵を一掃できる! と思い、グレーテは意気揚々と巻物を読み上げる。
「この空間にいる者に眠りを強いる息吹をもたらせ! 吹きつけろ、爆睡!」
読み上げたグレーテは、これ爆風の巻物じゃないと気づいたが、そこで意識が飛んだ。
「はっ!」
意識が戻った。辺りを見回すと、その部屋内の魔物はすべて寝ているようだ。
「ええ……これ、自分も寝るんですの⁉」
周囲がすべて寝ていて攻撃される恐れがないため、久しぶりにぼやきが口を突いて出た。
ともかく、これで楽に攻撃ができる。と、手近にいた魔物にハルバートを振り下ろす。
「グアアアア!」
「あっ」
一撃を加えると、魔物は目を覚ました。慌ててハルバートを振り回し、魔物を倒す。
「もっと、簡単に一掃したいものですわ……」
ぼやきながら、寝ている魔物を倒していく。何度か繰り返していると、ある程度簡単に魔物を倒せるようにはなってきた。
「あ……」
まだすべての魔物を倒し切っていないのに、残っている魔物達が目を覚ました。
「あーあーあー、困りますわ!」
何個かアイテムを拾ったので、グレーテには大分余裕が出てきていた。
しかし、奥にいた魔物が妙な動きを見せだした。
混乱の杖を振ってもいないのに、混乱したような動きをしている。
「え⁉」
よくよく見れば、何か人形のように立ち上がった草が手に見える枝葉から葉を振り回して、周りに飛ばしている。ぶつけられた魔物は混乱して同士討ちをしたり壁に向かって攻撃をしたりしていた。
「もー! 何をしてるんですの、お前はー!」
グレーテはあいつは倒さねばと混乱している魔物を放置して、その動く草に近づいた。ハルバートで一閃するとその一刀で草はくずおれた。
「巻物、巻物」
拾った巻物を広げ、今度こそ魔物を一掃できると確信する。
「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」
巻き起こった爆風が室内に残ったすべての魔物を切り裂いていった。
片が付いた。グレーテはふーーーと長々と息を吐いた。
「どうにかなりましたね。運が良かったですわ!」
ゆっくり座って休もうかと思ったが、その前に部屋に散らばるアイテムを回収しようと動く。途中で、室内の外から魔物がやって来ないようにと扉を設置した。どうやって設置しようかと思っていたが、入り口のところで扉を取り出すと勝手にはまってくれた。
「かばん! ありがたいですわ! しっかりした作りですわね!」
斜め掛けができるバッグだ。全体がしなやかな革で作られていて、容量もそれなりにありそうな見た目の鞄だ。紐はしっかりと幅があり、肩に食い込むこともない。
男が譲ってくれた何かの袋で作った即席の鞄はそろそろ限界を迎えつつあったのだ。新たに荷物を運べる手段を得られて、グレーテは本当に嬉しかった。
「あっ……ええ⁉」
中にものを入れると、すうっと消えるように見えた。慌てて中に手を突っ込むと不思議な広がりを感じる。
「これ、収納のカップの、鞄バージョンですの! 助かりますわ!」
杖などのかさばる大きなものが鞄の中に吸い込まれていく。片っ端から目に付くものを鞄に入れていくと途中で何も入らなくなった。容量に限度はあるようだ。
グレーテははっと気づく。一旦、鞄に仕舞ったものを取り出し、収納のカップを入れてみる。収納のカップにはその限度まで物を入れていた。
物を入れた状態の収納のカップが鞄の中に問題なく入る。
「収納のカップと組み合わせれば、結構なものが持ち運べますわ!」
グレーテはわーい! と無邪気に喜んだ。




