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「……化け物じゃなくても、内臓とかあんまり直視できませんわ」
獣を倒した後、グレーテは気づきを得た。そろそろ狩りをすべきではないか、獲物として狩るべきではないかと思いつつ、ハルバートをふるった。その後、倒れた死体を見て気づいたのだ。
「狩りって、解体しやすいように狩る必要があるんですわ! こんなグチャッとしてたらそもそも解体できませんわ!」
だが、狩りの経験がほぼないグレーテはどうすべきかがわからない。襲ってこられると、身を守るためにもやみくもに攻撃を繰り出してしまい、それどころではない。
「狩りって……弓でもあればできるんですの?」
弓が手に入ればいいなあと思いながら歩いていく。
そんな感じでグレーテはダンジョンの探索を進めていった。
「あら? 妙に重厚な扉ですわね」
ある程度進んだところで、これまで見たことのない異質な扉に遭遇する。
「……」
グレーテは嫌な予感から思わずじっとその場で固まってしまう。
その扉をそろっとほんの隙間だけ開けてみた。そこから中を覗き見る。
そこにいたのは立派な体躯の化け物だ。グレーテよりも1.5~2倍はありそうな上背、馬とも牛ともつかない顔に大きな角、存在を誇るかのように隆起している立派な筋肉、両の手に大きな斧を携えて二本の足で立っている。
「無理ですわ」
グレーテはそっと扉を閉じる。どう考えても勝てそうにない。
「ええ~~~~。あれ倒すのはさすがにどう考えても……」
グレーテはその場でしゃがんで頭を抱える。
「立派な足腰でしたわね。きっと素早く動けるんでしょうね……」
グレーテの脳裏には一瞬で距離を詰められて斧でばっさりやられる己の姿が浮かんだ。
「ちょっと、う回路を探しませんと……」
それからグレーテはその階層をくまなく歩いて回ったが、どこにも出口は見つけられなかった。
「ええ~~~~~。あの化け物のとこにしかないんですの?」
困っていると、風が吹いた。タイムリミットを予告する風だ。
「ええーーーーー! 急かされてもどうにもできないんですわ!」
それからもしばらくグレーテはその階層をうろつき続けた。状況を打破する何かを手に入れられないか、と敵を倒していく。
二度目の風が吹いた。それでも、グレーテはあの扉を開ける勇気が出なかった。
どうしようどうしようとひたすら悩み続ける。そもそも、二度目の風が吹いた時点で次の階層への出口にたどり着いていないといけないのに、それどころではない。今からあの巨大な敵を倒して、さらに出口に向かうという、時間的余裕はもうない。
三度目の風が吹いた。その強い風に目が開けていられない。グレーテはその風に吹かれるばかりになる。体がふわっと浮き、そのまま吹き飛ばされる。グレーテは来る衝撃を予想しながら、その風に身を任せるしかなかった。
「……? 痛くない?」
風が止んだ。グレーテはその場に両の足でしっかりと立っていた。彼女はそろっと目を開ける。
次の階層ではなく、ひとつ前の階層に戻されたのだ。しかし、目の前に広がるのは見た記憶のない景色。
だだっ広く広がる大きな一つの部屋。そのなかに、ありとあらゆる化け物や獣が多数うろうろと蠢いている。
「みぎゃあああああ!」
モンスターハウスである。




