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「あら? なに?」
足元に何か出っ張ったものが凹むような感触がした。
「えっ! きゃああああ!」
横の壁から大岩が転がってきて、慌てながら避ける。
「なんなんですの! 嫌ですわ!」
文句を言いながら歩いていると、また足元に違和感を感じた。今度は凹みは感じなかったが、一瞬ふわっとした浮遊感を覚える。
「わ……わああ!」
急に体が浮いた。ぐん、と天井付近まで見えない何かにつかまれて持ち上げられたようになる。じたじたと抵抗しようとしたところで、ふっと解放される。空中で放り出され、なす術なく落とされる。
「いったああい!」
受け身の概念なども知らず、グレーテは体に衝撃をそのまま食らった。
「嫌ですわね! 罠って!」
グレーテは不用意に踏まないと学んだ。それでも気づかずに踏むことはしばしばあったが。
「水筒~~~~! 絶対必要ですわ! 水場で使いますわ」
グレーテはなんとか敵を倒し、ダンジョン内を探索しながらアイテムを手に入れていく。
「また草ですわね……か、かかか辛! えっ」
見覚えのない草を手に入れ、一口かじってみたところ、意外な辛みに驚いていると口から小さく火が出た。新たな驚きで、辛みのことを一瞬忘れる。
「ええ~~~。そういうアイテムなんですの……辛いのに耐える必要があるんですのね。あんまり使いたくないですわ……」
アイテムの効果そのものよりも味に気落ちするグレーテであった。
「杖ですか。確か、振るといろんな効果がみられるんですわよね」
使ってみようと確保する。
「また杖ですわ。……多分、違う効果があるんですよね」
新たに杖を手に入れたが、袋から2本の杖が飛び出た状態だ。持ち運ぶのに苦労しそうだと思わされる。
「また杖⁉ もうそろそろ持てませんわよ!」
グレーテは文句をつける。収納のカップの存在を忘れていることに気づくのは、もうしばらく後であった。
草を2種手に入れる。
「こっちの草は見たことありますわ! ドクバミ草ですわね。お婆様がよくお茶にして飲んでるやつですわ。体の毒素とか悪いものを出してくれるんだとか!」
グレーテは自分の知識の範囲内の存在が出てきて、妙に嬉しくなった。
「こっちのは、見たことありませんわね」
未知の草を口にすることに最早抵抗のなくなったグレーテである。今回も臆することなく口にした。
「あ゛……」
前歯で食み、舌に乗った瞬間、これは駄目だと感じる。ビリビリとしびれる。そんなに量を入れたわけでもないのに、口全体がイガイガする。
「ぜ、絶対にダメなやつですわ……毒ですね……」
口を水でゆすいだが、口中の違和感が収まらない。そこで思い出されるのが、ドクバミ草である。
「お茶にしようがないんですわ……乾燥もしてませんし、煮出す用の道具もないですし、火種もないですし……」
グレーテはしょうがなく生のドクバミ草をそのままかじる。
「……結構マシになりましたわ。案外、どうにかなるもんなんですのね」
ドクバミ草の名の由来は毒を食らった時にこれを食めと口伝されたものだとか、聞いたことがある。グレーテはその通りに実践したわけである。
「この毒草は獣や化け物の口に放り込んでやりますわ」
八つ当たりしてやると心に決めるグレーテであった。
「ああ~~~~、気持ち悪い!」
敵を倒した後、グレーテはボヤく。小鬼のような化け物を倒した。
グレーテよりも小さい体に餓死者のようにポコッと飛び出た腹、粗末な腰巻だけで他は裸、顔は老人のようなしわが刻まれ頭髪はなく、小さい角がある。体色は緑がかっている。
人には見えないので、攻撃事態はすんなり繰り出して倒した。が、倒した後にぱっかりと頭が割れて伏したその体を見て、人に近いものを感じて、急に気持ちが悪くなったのだった。
「私、こう内臓とかそういうもの苦手ですわ……」
嫌な気分になり、視線を逸らしながら先を進む。




