8 なんとかなれー!
グレーテは目が覚めた時、岩肌が見える天井に驚きかけて、そうだったとすぐに思い出す。
「普通にぐっすり寝ましたわね」
自分は案外図太いと思いながら、起床する。探索が再開されますとの一文が視界に入った気がしたが、彼女はそれを無視した。
その眠りは休息というより気絶に近かったが、一旦寝たことにより彼女の気力は大幅に回復していた。
「このベッド、こんなところにあるのにほこり臭さもないんですのよね……」
簡素でやや固めながら、寝心地はそう悪くなく、背中に痛みも感じなかった。
「もしかして、これもアイテムの一つなのかしら……」
奇妙な文が出現することといい、普通のベッドではないことは確かであった。
「ふん!」
持ち上げようとしてみたが、当然無理だった。
――カップというものがあるのだ。荷物が収納できたり、二つの武器を合成させて両方の特性を持つ新たな武器を生み出せたり、いろんな効果を持つ便利なアイテムだ。
グレーテはあの男の言葉を思い出す。
「カップ! ありますかしら?」
この部屋に入ってベッドしか視界に入れていなかったので、改めて部屋内を探索する。
「ありましたわ!」
室内にあった長持の中にそれはあった。長持の中には、他にも金貨とリンゴがあった。
「リンゴ! 腐ってない! 食べても大丈夫なんですの⁉」
一瞬躊躇したが、食べとけ! との内なる声に従って齧りつく。強めの酸味とわずかな甘み、シャクシャクした食感、それら今まで当り前に受け入れていたことに改めて感動する。リンゴ自体はそんなに美味しいものでもなかったが、数時間ぶりの食事らしい食事に涙目になったのだった。
リンゴの感動で忘れそうになったが、肝心なのはカップである。
――普通では考えられないような大きさのものが入れられるのだ。
とのことなので、これが収納のカップならばベッドすらも入れることができるはずだ。
「どうやって入れるんですの?」
疑問に思いつつ、カップをベッドに近づける。
「え⁉ わあ!」
ベッドがカップに吸い込まれていった。縮んだようには見えず、どうやって収まったのかわからない。
「……普通に持てますわ」
ベッドが収まったにも関わらず、カップの重さは変わっていない。
「これが……アイテムってすごいんですのね」
はあー……とグレーテは感心する。
「さあ! サクサク行きますわよ!」
身支度を簡単に整えて、グレーテは拳を突き上げ気合を入れる。
意気揚々と扉を開け……ようとして、気づく。扉の向こうに獣の息遣いや唸り声、それらが複数聞こえる。それも、たくさんだ。
「罠ですわ! こういう罠ですのね!」
グレーテは小声で文句を言う。ゆっくり体を休めた後に来る苦行の始まりである。
金貨だ。とグレーテは思い出す。新たに手に入れた方ではなく、男と一緒にいるときに手に入れた方だ。
扉をそっと開け、隙間から金貨を投げる。素早く扉を閉める。
聞こえてくる轟音と獣たちの断末魔に内心で嫌ーと悲鳴を上げつつ、収まるのを待つ。
再びそっと扉を開ける。すっかり何もなくなった通路が広がる。
「……サクサク行くわよ!」
グレーテは気合を入れ直した。




