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7-3

 先代辺境伯グスタフと先代メディナ領主ヨハンは古い友人同士であった。

 そのヨハンの妻、ユリカは元シシー領家門の娘であった。グスタフとユリカは幼馴染として育ち、気安い間柄であった。そこへヨハンがユリカを見初めて結婚を申し込み、ユリカは家門同士のつながりを考えて快諾した。

 グスタフはユリカに対し懸想をしていたらしいのだが、ユリカがそれに気づいていたかどうか不明だ。ユリカはグスタフとは生涯一友人として接していた。


 グスタフは何かと理由をつけてはメディナへの訪問を行っていた。ブルースはグスタフに連れられてメディナを度々訪れた。ブルースはシシー領内で見せる常の顔とは違う父の様子をその都度見ていた。


 ユリカはかなりの酒豪であり、グスタフは彼女を飲み勝負に誘い続ける。その度、ユリカはグスタフを負かせ、半ば悔しそうでありながら半ば嬉しそうな父の顔をブルースは内心不思議なものを見る気持ちで眺めていた。


 ブルースから見たユリカは凡庸な女性であった。容姿は華やかさはないが地味ながらかわいらしさがあった。人柄は、一般的貴族女性のようなすましたものではなく、気さくに接する様子は庶民的であった。女だてらに狩りもこなす、そんな彼女をグスタフやヨハンは「おもしろい女」だと評していたが、ブルースから見ればごく普通の女性だった。気さくさも狩りをするような男勝りさも領民の女性の中にはよくいる。グスタフは良き領主だと思うが、案外見ていないものなのだな、とブルースは感じた。グスタフは領民の女性と直接会話する機会などあまりなかったのだろう。


 グスタフがユリカへの思慕を残していることは、ブルースの目から見ても明らかで、妻エルヴィーラへの対応はおざなりに感じた。それに対し、エルヴィーラがグスタフへ不満を漏らすことはなかった。

 だが、エルヴィーラは他家の妻へそのように接するものではないと常識的な諫言はしていた。グスタフはそれを妻の嫉妬だと捉えて黙殺していた。



 ヨハン夫妻とグスタフの交流が続く中、不慮の事故によりヨハン夫妻の長男が亡くなった。ブルースと歳の近い長男が亡くなったことは、彼にとっても悲しい出来事であった。

 泣きぬれるユリカに対して、グスタフが慰めようと一緒に飲もうと誘う。

「ごめんなさい……今ばかりは、家族で……」

 とユリカに断られて、グスタフは衝撃を受けていた。そんなグスタフを見て、ブルースはさすがにそれはないと父に対して思った。

「そりゃあそうでしょうよ」

 母エルヴィーラもブルースと同じ意見であったようだ。ブルースが思い返してみれば母が父に対して意見が通るようになったのは、この件から以降だった気がする。


 この時、ライナーが冷たい目でグスタフを見ていたのをブルースは覚えている。大人しく兄を立ててついてくるライナーをブルースはそれまで特に意識をしたことはなかったのだが、この冷たい視線を見て以来、なんとなく怒らせるとまずい人物なのではないか、と意識するようになったのだった。



 ユリカが亡くなった。葬儀の後、グスタフがヨハンと話をしているとライナーが怒りを露わにグスタフに食ってかかったのだった。

「あなたが母に無理に酒を大量に飲ますから、母は体を壊したんですよ!」

 ライナーの言葉に、グスタフは驚愕した顔をしていた。

 ライナーは弟のフリッツや家令に取り押さえられて外に連れ出されていった。

「息子がすまない。母を亡くしたことで、正気を失ってるようだ。無礼を許して欲しい」

「いや、気にしないでくれ……」

 グスタフはそれだけ返すのだけが精一杯だったようだ。ライナーの一言はブルースがなんとなく感じていたことを明文化されたもので、ブルースも雷に打たれた気分になったのだった。


 後日、ヨハン、ライナー父子と出会った時にライナーはグスタフに対し

「無礼な物言いをしたことを謝罪申し上げます」

 と殊勝に謝ってくれたのだが、それがかえってライナーに対する『恐れ』を底上げした。



 そんなことがあったので、ブルースはグスタフがメディナに対して気遣いをするのは個人の感情からくるものだと思っていたのだった。



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― 新着の感想 ―
グスタフ……それは色々ダメでしょおおおお……!(思わず突っ込み)
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