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7-2

「というわけです」

 ブルースはこれまでの経緯を先代達に説明した。

 メディナの独立宣言、プラウドからの干渉、第二王子の訪問予告とその不発……など、これまでも逐一報告はしていたが、改めてブルースはまとめて報告をした。


「当然、ここシシーはメディナにつくのでしょう?」

「えっ」

 母エルヴィーラの発言にブルースは虚を突かれた。ブルースとしてはプラウドにつくのが当然と考えていたからだ。


「我が領と隣接するシュウムがメディナについているのです。ジルを相手取るときに後ろから刺されてはひとたまりもないでしょう。ジルとメディナがすでに手を取っているなら、メディナに敵対した場合、我らは逃げようがありませんよ。選択肢がすでに残されていないのです」

「そ、それは……ですが、プラウドからの援軍があれば……」

「間に合いますか? 此度の第二王子の訪問も叶わなかったのですよ?」

「我が領と隣接する領はシュウム以外にもあります」

「その領がメディナについていないとする保証は? そう発言するからには、すでに根を回しているのでしょうね?」

 母の言葉にブルースはぐっと言葉に詰まる。エルヴィーラはその様子から悟り、ふ、と息を吐いた。


「なんとも呑気なこと。相手が動く前にこちらから仕掛けるくらいでないと辺境伯としての格が落ちるというもの」

 言いたい放題言われて、ブルースはテーブルの下でぐっと拳を握った。何も言わない父を見れば、視線はどこを見ているのかわからない。ただもそもそと軽食を口に運ぶその茫洋とした姿に、ブルースはまた失望を感じる。

 母の意見など、父が一蹴してくれればいいのに。生意気なことを言うんじゃない、と。その後で母の意見と似たようなことを言われてもいい。ブルースはどうせ従うなら父の意見を取り入れたかった。


 引退する前あたりから父からは覇気が薄れ、その分母の言葉の影響力が強くなった。父が気力十分な頃は、母は父から一歩下がってついて歩くといった感じであった。それが今では、母が父の行動を制限し管理している。

「ほら、あなた。そんな遠いところにお皿を置いているとこぼしますから」

 母が父を甲斐甲斐しく世話をするのを、ブルースは複雑な気分で見ていた。



「もう後手に回っているのです。ならば、せめて義を通しましょう」

「義? ですか……」

 母の言葉にブルースはピンと来ず、ただ言葉を繰り返す。

「プラウド建国神話を思い出しなさい。そこで、かつての旧王国の王は王になる前のプラウド王に一番に下り、彼を熱心に支援した。そのおかげで、プラウド王は王になることができた。その時に、かの旧王はプラウド王に宣言したのです。王としての行いに不足があれば真っ先に反旗を翻す、と。メディナが独立を宣言したのは、かつての約束があったからです」

「メディナの独立宣言は、初代プラウド王とした約束を守るため、ですか」

 エルヴィーラの指摘に、ブルースは抱いていた疑問が解消された気になった。メディナ領主ライナーの為人を直接知っているブルースは彼が何のために独立を宣言したのかわからず、モヤモヤとしていたのだ。


 他者を徒に侵略したがる性格でもない。私欲に走るような性格でもない。ブルースが知るライナーは生真面目で生活や身形は質素そのもの。故に独立の理由が見えず、どうしたんだと戸惑っていたのだ。

 エルヴィーラが語ったプラウド建国神話の約束に倣ったというのならば、ライナーの生真面目な性格にぴったりと合っているように思えた。


「かつての旧王国の王はプラウド王から中央に留まることを請われていたそうですが、それを固辞して自身の本来の領地へと戻っていった。それを不義理と見做す声もあったところ、旧王は何の地位もいらないと大した褒賞も請求せずに一貴族の地位に甘んじた。代わって辺境伯になったのが、ここシシー。現在のこの地位は譲られたものなのですよ」

「それは……はい」

 先代の頃から、シシーはメディナに気を遣ってきたのをブルースは実際に見て知っている。その気遣いは先祖代々続けてきたものなのだ。その気遣いの根っこにあるものが何かをブルースは考えてこなかったが、旧王国の王への気遣いと言われると納得がいった。


 ブルースが父が示すメディナへの気遣いの正体を考えなかったのには、実は理由があったのだが。


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