4-2
「ここってどこなのかしら……」
グレーテは目前に現れた正体不明の場所に戸惑っていた。その場所に留まり続けても何もならないので、そろそろと足を進める。
彼女はまだここがどんな場所なのかを察していない。
「横穴が多いですわね。その割には、床は歩きやすく整備されている……?」
グレーテは周りの景色を観察していく。グレーテの正面には大きな穴が真っ直ぐ開いていて、その部分の床は歩きやすいように平らな石が敷き詰められていた。横穴は、大きな穴から小さな穴、方向はてんでバラバラに空いているように見える。
「これは、人の手で彫ったものでしょうね……やはり、鉱山の跡かしら」
グレーテはそう推測した。足元が歩きやすくしてあるのは、掘り出した鉱石を運びやすくするためのものだろう、と考える。
「領内にかつて鉱山があったとは聞いたことがありますわね。そこかしら? でも、だからってどうしてここに……?」
グレーテは知識としては鉱山の存在を知っていたが、その場所までは把握していなかった。祠と鉱山の関係がわからずひたすらに首をかしげる。
「あら? こんなところに……」
グレーテは視界の隅に動くものを捉える。改めてしっかりと見てみると小さな獣だ。その獣が何か、がグレーテには説明できなかった。彼女は動物にはあまり詳しくない。
「ウサギ……ねずみかしら? それとも他の何かかしら?」
ねずみよりはウサギの大きさに近いが、ずんぐり丸く足がよく見えない体形はウサギとは言い切れない。ねずみにしては大きいし丸すぎると思えた。
「……」
グレーテは動物と触れ合う機会を持つことがあまりなかったので、側に寄りたいとは思わなかった。その獣を遠巻きに見つめる。
どこかに行ってくれないかなーと思っていると、獣はこちらに近づいてくるようだ。やだなと思いながら、グレーテは道の端へ寄る。
「え。……ええ!」
その獣がグレーテの存在に気づくと同時に、猛然とこちらに向かってくる。グレーテは慌てて横穴に避難する。
「ど、どうして追ってきますの⁉」
獣はその見えないほどの短い足で素早く猛追してくる。グレーテは必死になって逃げた。
「え、ああ!」
行き止まりにぶつかる。後ろを振り返れば、すぐそこに獣が迫っている。
どうしようと慌てていて、胸元の固い感触を思い出す。懐刀を袋に入れて首から下げていたのだ。
「あ、あっちへ行ってくださいまし!」
グレーテは小刀を取り出し、それを手にぶんぶんと振り回す。
「ジャアアアアアア!」
獣が雄たけびを上げる。グレーテはヒッと小さく悲鳴をあげた。
「きゃあ!」
獣が突進してきた。飛び上がり、グレーテにぶつかってくる。
「どうして……来ないで……」
「ジャアアア!」
グレーテの希望も空しく、獣はしつこくグレーテにぶつかってくる。
「痛っ!」
チクリと腕に痛みを感じて、見れば血がにじんでいる。獣の歯が当たったようだ。
「嫌あ……」
グレーテのストレスは極限まで高まっていった。
「いやーーーー!」
グレーテは腹の底から叫んで、小刀をふるった。小刀と何かがぶつかり、ぶつっと塊が断ち切れる感触が手に伝わる。
「ジュ……」
ぶつかってくる感触がなくなって、グレーテは目を開ける。
先ほどまで猛然と向かってきていた獣は、地に倒れ伏していた。その体からは血が流れ、地に血だまりを作っていて、獣の体はそこに浸かっていた。
「いやあああ!」
グレーテは己のしたことに恐怖を感じて改めて叫んだ。




