棒のナイト11
「僕らの父母が違うと証明する十人が集まらないと思うよ」
「知るか、そんなもん!」
冷静に返すオドランの言葉に対してナンフェアは食い気味に言葉を重ねる。
「こんなとこ飛び出して過ごせばいいんだ! こんな窮屈な決まりに縛られるのなんて馬鹿らしい!」
聞いていたバルドーはついナンフェアを拘束していた手の力を強めてしまう。ナンフェアの口から苦悶の声が聞こえてきて、バルドーははっと我に返る。
「僕らの父母が違うと証明する十人は集まらないけど、僕らの父母が同じだという人は十人以上集まるんじゃないかな」
オドランの言葉に、ナンフェアは顔を引きつかせる。
「なぜだ! 俺の母は俺の父が誰かを口にしていない!」
「そうだけどねえ。コルザができた時に僕の母はものすごく怒ったんだよね」
ノーマの恋愛観は自由に見えるが、そこに付随する感情はバルドー達とそう変わりはなかった。普通に嫉妬心も存在する。
「あんまり僕の母が怒るもんだから、コルザの母と父は人目を忍んで会うようになったんだ。そして、後にあなたが産まれた」
「そ……それでも、俺とオドランの父が同じだという話にはならない!」
「まあ、そうだけどねえ。それでも、あなたの父は僕らの父と同じだとみんな言うよねえ。だって」
必死なナンフェアに対して、オドランはずっと落ち着いていた。
「僕らの父とあなたの顔は瓜二つだから。最後に父と会った時、僕らは幼かったから、あなたは父と会った記憶がないんだろうけど」
オドランの口から決定的な言葉を聞いて、ナンフェアの反論は完全に止まってしまった。
「クッソ! 離せよ!」
バルドーはナンフェアを拘束したままオドランの天幕を離れた。彼を連れて近くの森まで歩いてくる。
姉弟同然に育った相手に対して恋愛感情が湧くものか? とバルドーは内心思ったが、兄弟のような距離感のドロシーに対して恋愛感情を持っているユリシーズを思い出し、そういう感覚は個人に寄るかと思い直す。
バルドーは思い余ったナンフェアがおかしな行動をとらないかが心配であった。バルドーは安心したくて、ナンフェアをどうにか説得できないかと思っていたのだった。
「お前もさあ、集落の外に出る時期が来たんだと思うよ」
「うるせえよ! そんなこと集落の人間にだって言われたくないのに、お前が言うなよ!」
「そりゃあ、人から言われてやるようなもんでもないとは思うけどな」
そうは言っても……とバルドーは思う。ナンフェアの身になってみると、明日からどんな顔で姉妹達と会えばいいんだろうと思ってしまう。
バルドーが拘束を緩めると、ナンフェアは振り払ってバルドーと向き合う。
「俺がここを出たら、ここにプラウドの王子がいると話すからな!」
「おい。やめろよ」
「外で暮らしていくには金が要るんだ! だから、情報を流して、それを金に換えてやる!」
「ナンフェア!」
ナンフェアはそう言い捨てると、走り出す。バルドーはそれを追いかけた。
「ナンフェア!」
暗い森の中を逃げられては見つけるのが困難になる。バルドーは速く追いつかねばと焦りだす。
足音を頼りに追いかける方向を定める。そちらに向かって走っていく途中で、バルドーはナンフェアの呻き声のようなものを聞いた。
「ナンフェア?」
バルドーはいぶかしみながら、走った。
「え、あ……伯父上」
「やあ、バルドー。奇遇だな」
唐突に現れた伯父ライナーの姿に、バルドーは面食らう。
「こんなところで一体何を……」
「狩りだな」
「こんな夜にですか?」
「ああ。夜狩りだ」
バルドーは奇遇だと言われたがその言葉をそっくりそのまま受け止めることはできなかった。
バルドーは伯父の周囲を見回す。護衛を数人とノーマの男を連れている。
「お、無事に捕まえたようですな」
「ああ」
護衛の言葉にライナーがうなずいている。彼らの視線の先を見ると、拘束された状態で馬に乗せられたナンフェアがいた。馬を引くのもライナーの護衛の一人だろう。




