棒のナイト8
「襲われたのはいつ頃のことだ?」
「もう結構前だぞ。犯人なんかとっくにどっか行ってる。お前、本当にどうにかするつもりなのか?」
確かに知るのが遅すぎたとバルドーは思う。遅きに失したのだ。どうやって真相を知るんだとバルドー自身も思う。
「まず順番に話そう。俺の名はベネディクト。プラウドの第二王子だ。……だった」
「第二……」
高い地位の人物だろうとは想像していた。その想像通り、なんなら想像以上の地位であった。
「まあ、今はただのベネだ。ノーマのベネ」
「第二王子ともあろう方が、なぜあんなところを移動していたのだ?」
彼が襲われたのは、メディナの端。プラウドから見ても、国境の境に近いところだ。
「俺はシシーに向かっていた。王家主導でシシーと協調してメディナに圧をかける。その話を進めるためにシシーに行くことになったのだ」
「シシーに圧をかけに行ったのか。それもわざわざメディナを通って」
「ああ。メディナを通るというのが肝だったのだ。俺が無事にメディナを通過し、シシーで話をつけ、そして無事に王都に帰ってくる。それが計略だったのだ」
「……どういうことだ?」
バルドーは政略を考える習慣がないので、そう言われてもすっと理解はできない。
「メディナを通ることで、メディナの真意を測る意図があったのだ。プラウドと戦を起こす気はあるのかどうか、と。そんな気はないとプラウド側は見ていた」
「それは、まあ……」
「プラウドとしても、その方がありがたかった。なにせ、備蓄が足りてないのだからな」
備蓄が足りてないとか言ってしまっていいのか? とバルドーは思う。
「でも、それだとメディナ側がプラウド王族が通ってると認識していないとその計略は成立していないのでは?」
「だから、馬車があんなプラウドですと主張した装飾のやつなんだよ」
「ああー」
だが、それだと盗賊に襲われたりしかねないか? との疑問が浮かぶ。
「もちろん、襲われたりしないように護衛はもりもりつけてた。そいつらほとんど消えたからな。暗殺したい側が用意してたんだろう」
「ええ~……」
ダフネは「みんな増えた」と表現していたが、その「みんな」とは彼と同じく暗殺を知らずに巻き込まれた護衛達だろうか。確かに、集落の中に見覚えのない顔はあった。
話を聞いていたバルドーは一つ懸念を抱く。
「なあ、それだとメディナ側が何かやったと思われたりしないのか? 火種王子と同じようなことにならないか?」
メディナの非を責められてからの交戦は一番避けたいことである。
「それ、プラウド側が望んでやるならそうなるだろうけど、プラウドも避けたいと思ってたからな。なんせ、備蓄が尽きたとこだし」
火種王子と思われる男が同時期にメディナに入っているが、彼は特に何事もなく立ち去っている。彼の役割は様子見の面が強かったのだろう。
「ええ~……でも。その暗殺側は何を思って計略をつぶしてんだ? 国の今後に関わってくるじゃないか」
「国の今後もだが、自分の王位を確かなものにしたいっていう欲が上回ったんじゃないか?」
「でも、王子が一人消えたって、また追加されるもんじゃないのか?」
プラウド王家はそのために子だくさんだとバルドーは聞いている。
「継承権が上の人間ほど、自分が王になる可能性は現実的に見えている。現王の体調不良からの執務困難とくれば、それは目前と見えてくる」
「つまり焦っているのか。でも、それだと犯人丸バレじゃないか?」
「バレようが、権力で黙らせられればそれでいいんだろう」
もろもろを聞いて、バルドーはなるほどと得心した。
プラウドが戦争をメディナに仕掛けられない理由が二つわかった。
ひとつは備蓄の不足。もうひとつは現王の体調不良。
この二つの問題がある内は、プラウドは積極的にメディナに攻めてこない。だが、現王が亡くなって新王が立ち、そこに備蓄の問題が解決すればいずれその時は来る。
「現王の体調不良ってここまで聞こえてきてないんだが、伏せられているのか」
「と言っても、つい最近悪化したからなあ。俺のシシー行きが決定した後、一層ひどくなったってとこだ」
「ほう」
「シシーに行くぞって書簡を出した直後のことだ。シシー行きを取り止めるか議論したが、結局は行くことになった。色々各人の思惑も込んでそうなったんだろう」
「それはいつ頃のことだ」
聞けば、ユリシーズがダンジョンを挑んでいた頃のことである。
これはもしかして、とバルドーは思った。
ユリシーズは何を願えばいいかわからなかったと答えた。だが、何かが叶えられたはずである。




