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棒のナイト7

「プラウドと事を構えるのか?」

「そういうつもりはないが……」

「だよなあ」

 バルドーは個人の感想として答えたが、今のは領地を代表した答えになったのか? と疑問が浮かぶ。

「打たないのか?」

 それより、男の手が止まったことが気になってしまった。

「俺の負けだ」

「もう一局……」

「いや、いい。というか、そろそろできる頃合いだろう」

 その後聞こえたご飯よーの声に盤上遊戯は中断された。



 どうも聞きたいことを優先して聞いていると、本当に聞くべきことが聞けなくなってしまう。わかっているはずなのになあ、とバルドーはやや落ち込む。

「バル、口に合わない?」

「いや、美味いよ」

 オドランに気遣われてバルドーは料理を口に運ぶ。

「バル、骨とる係」

 ダフネに骨取りを任されてバルドーは笑って皿を受け取る。骨から肉をこそげながら、聞くべきことをまとめておく。


 襲われたのはいつ頃のことか。何故そんな場所を移動していたのか。その目的は。命を狙われた理由に心当たりは……


「ぼく食べる係!」

 ダフネが骨をこそげ終わった器を持っていく。

「この子はもう~」

 オドランがぼやく横でバルドーは大笑いしていた。

「いっぱい食べろよ! 大きくなれよ!」

「うん!」

 バルドーが掛けた言葉にダフネからいい返事が返ってくる。バルドーはその返事、食べっぷりを頼もしく思いながらにこにこと眺めた。


「クスクス炊けたよー」

 コルザが鍋を抱えて持ってこようとしている。それを見て、あの男が慌てて駆け寄っていた。

「そんな重いものかかえるんじゃない。俺が運ぶから」

「大丈夫よ~」

「今が大事な時だろう」

 男とコルザの会話でバルドーはハッと思い出した。そうだ。男とコルザがいい仲になることに疑問が浮かんでたのはこれだったのだ。

 コルザは現在妊娠中である。ノーマの衣服はゆったりとしているので遠目にはわからないが、もう結構な大きさのお腹になっているはずであった。


 聞くべきことを聞かねばと思っていたのに。それ以上に聞きたいことができてしまった。これはいけないとバルドーは自分でも思う。


 横で仲睦まじく食事をするコルザと男をちらちら見ながら、バルドーはどうしたものかと考えていた。



「おい。気になることあるんだろう。洗いざらいしゃべってやるから、さっさと終わらせろ」

 ちらちら見過ぎたせいか、男の方から話しかけてきた。バルドーもオドランと過ごす時間が欲しかったので、その方が助かる。


「コルザのお腹の子の父親は」

「そっち⁉ それ必要か⁉」

「いや、だって知らずにいるのかと」

「知ってる! ついこないだも追い返した」

「おお。そうなのか……」

 コルザは数か月前はどこかの商人といい仲だったとバルドーは記憶していた。お腹の子の父親はその男である。などと話していると、コルザが誰かと話しているのが聞こえた。噂をすれば、というやつだ。男が素早く立ち上がって、間に入っては邪魔をして本当に追い返している。商人は泣きながら去っていき、途中で誰かに声をかけられて別の天幕の中へと消えていった。


「大丈夫かなあ。恨まれたりしないか?」

「見てただろう。あいつはよその女ともできてんだ」

「ああ、そう……」

 男の言葉にバルドーは妙な脱力感を覚えた。修羅場になるのではと気を揉んだのは無駄だったのだ。

 コルザ達も気にした風はない。あっさりとしたもので、彼女達は別の話題で笑い合っていた。


 以前から、コルザはよく男にもてていた。バルドーは首をかしげる。

「俺から見て、オドランとコルザの容姿に大した差はないんだが」

「まあ、顔立ちは似てはいるが印象は全然違うだろう」

 そう言われても、バルドーにはよくわからない。強いて言えば、オドランの方が細身なのに対してコルザの方がふっくらとしているくらい……と言えば、はあ? という表情を返される。


「コルザはきれいに髪を伸ばして切りそろえているのに、オドランはあんな切りっぱなしの無造作なボサっとした短髪。しかも、コルザが小柄なのに対してオドランは長身。コルザが色白なのに対して、オドランは浅黒い。色々、真逆だろうが」

「そうか……? よく似た姉妹だと思うんだがなあ……」

 のんびりした喋り方、おっとりした態度、あまり大声を出したりするような怒り方をしない穏やかな性格、朗らかでよく笑う、かと思えば冷静に人のことを観察している……


「おい。そんなことより、本題に入れ」

 バルドーが考えていると、意識を引き戻された。なんだっけと思いかけて、そうだったと慌てる。

「すまん。助かる」

「妙な奴だな、お前は。毒気が抜かれるというか、なんというか」

 男の声が呆れ混じりな調子に聞こえた。


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