棒のナイト5
コルザの天幕のところまで来た。
「コルザ。いるか?」
バルドーは外から声をかける。
「誰だお前は」
帰ってきたのは男の声だった。どこか棘のある響きだ。声の主は若そうである。
助けられた本人か、はたまた従者か。警戒しているのは、バルドーが敵かどうかがわからないからか。
さて。この男とまず穏やかに対話をすべきなんだろうが、それには一対一の形をとらない方がいい。
「コルザはいるか?」
バルドーは天幕の入り口を開けないまま、男に尋ねた。
「お前は、コルザを狙っているのか?」
男からの質問にどういうことだとバルドーは首をかしげる。王族を助けたことでコルザまで命を狙われているのか? と思い当たり、これは対処をしなければと内心ひやりとさせられる。
ここはメディナの領内なのだ。プラウド関係者に好き勝手にさせるわけにはいかない。
「コルザは渡さんぞ!」
より強い声とともに、男が天幕の入り口の布を押し上げて出てきた。手は腰に提げた剣に置いている。いつでも抜ける構えだ。
おお。物騒だな。とバルドーはのんびり思った。
「コルザいるか? いないか」
男が天幕から出てきたので、バルドーは天幕の中をのぞく。人気はない。中は無人のようだ。
「おい! お前はコルザとどういう関係だ!」
「ん? どういう? 特にこれといった関係はないが」
「コルザは俺の女だ!」
「へえ~。そうなのか」
いきりたって主張する男に対して、バルドーの方はのんびりとその言葉を受け止める。助けた男といい仲になったのかー。と普通に受け止めて、いや、待てよと思い出す。
自分の記憶が正しければ、コルザは確か……と思い出しかけたところで
「どうしたの~」
とゆったりと声がかけられた。件の主、コルザである。
バルドーの背後からやって来たコルザを見て、男はすぐさま彼女に寄り、自分の背に彼女を隠すような素振りをして見せた。
「バルドー、久しぶりー」
男の意図をわかってか否か、コルザは彼の背から横に身を乗り出してバルドーに挨拶をしてくる。
「コルザ。この男とはいったいどんな関係だ」
「バルドー? この人うちの姉の好い人よ」
「姉⁉」
男がコルザの簡易な説明に、怪訝さ半分驚き半分といった反応を返している。
「マァー。こっちー」
「あらオドラン」
そこへダフネがオドランの手を引いてこちらにやって来る。
「やあ、バルドー。元気だった」
「ああ。そっちも変わりないか」
「うん。こっちもいつもと同じ」
バルドーはオドランと再会のあいさつを交わす。
「え……え⁉」
男が二人の間に流れる空気を見て、戸惑いを見せる。
「あら。あなた、うちの姉のこと、もしかして男だと思ってたのー?」
それを見て、コルザがあははと笑っていた。
「泊まってくでしょ」
とオドランに言われ、バルドーは素直にうなずき、現在は夕食ができるのを待っていた。バルドーは調理に向かないので、おとなしく座っているようにと言われている。
「俺はなぜか包丁を落としてしまうんだ」
横に座っている男がこちらを見てくるので、バルドーは手伝わない理由を話した。
「いや。それは別にいいんだが」
「そうか」
そして訪れる沈黙の時間。
「……場が持たんな。おい、一局付き合え」
無言でいると、男がそう言って盤上遊戯を出してきた。
「指し方はわかるか?」
「ああ。やったことはある」
そうして、彼らは盤を挟んで駒を動かしながらぽつぽつと会話し出した。




