棒のナイト2
「無理~~~~~」
ハニーク領の令嬢ビルギットとバルドーを会わせた結果、ビルギットは泣いてしまった。
二人を会わせて、一緒に遊ばせるところまで進めることができたのだが、その途中でビルギットは泣いてしまった。
「外で遊びたいって言うから……」
なぜそうなった? をバルドー本人に追及していくとぶすっとしながらそんなことを答える。
バルドーとビルギットが外に遊びに行った結果、ビルギットは置き去りになってしまった。
「外で遊ぶって言うから、かけっことか探検とか……」
「相手は女の子だぞ?」
「お花見たり、小鳥さん見つけたりがしたかったの~~~~~」
わんわんと泣きながらビルギットが言う。
「あ!」
バルドーが思い出したように、ポケットに手を突っ込む。
「ほら!」
ポケットからバルドーが出したものは、青い小鳥。それはぐったりとしていて、息も絶え絶えといった感じだった。
それを見たビルギットははあっと息を飲み、顔を青褪めさせた。
「いやーーーーー!」
ビルギットはより一層火が付いたように泣き出し、手が付けられない状態になってしまった。
「……バルドーは女の子と合わせておっとり遊ぶということができないんだろう」
話し合う大人達の視線の先に、ビルギットを混ぜてドロシーとままごとをしているユリシーズがいる。
女の子たちと遊んでいるユリシーズは女の子たちが口にする要望をにこにこ笑いながらうんうんとうなずいて従っている。
「あそこまで唯々諾々と従わなくてもよいが……やはり貴族としては女子を相手に機嫌を取ることは多少なりともできなくてはならないだろう。それがまったくできないというのは……」
ライナーの言葉にフリッツは額に手を当てながら長いため息を吐く。
「この子は貴族的な生き方ができない子なんだろう」
そして、ライナーはそう結論付けた。
「兄上……それでは、バルドーはこれからどうしろと?」
「本人の資質を無視して当主教育などを行っても、それはどこかで破綻する。それよりは、本人の気性と合う教育を施した方がいいだろう。体を動かすのは好きなようだ。剣の稽古などは好んでしている。ならば、武術を通して人としての仁義をしっかりと教え込ませよう」
「……それでうまくいきますか?」
「あの子は頭が悪いわけではない。理屈は理解できるのだ。だが、人の言葉の裏を理解したり、言葉に出していないことを察するということが苦手なんだろう。ならば、武術の型を教えるがごとく、人の感情も型にはめて事細かに教えるしかない。こういう行動をしているときは人はこんなことを考えているのだ。こういう言葉はこんなことを意味しているのだ、と」
「……」
ライナーの言葉にフリッツは難しい顔をして黙っている。
「バルドーはどうして……」
「我らの父の気性の悪い部分を強めに受け継いだんだろうな。多分、年を経るごとに本人が気づいてこの気性を抑えることができると思う」
ライナーの言葉通り、バルドーは武術の鍛錬を通して礼儀作法を学んでいき、次第に落ち着いた行動もできるようになった。人の気持ちを察することは下手なままではあったが、人生経験を積むことで多少は気遣いというものを理解できるようになったのだった。
「ユリシーズ、ちょっとこっち」
「ん。これは堤の修繕費?」
「そう。ここを直すのにこれくらいの額がいるんだ」
「水車小屋が一部壊れてきてるって聞いたけど」
「それの修繕費はここの売り上げが上がってから回そうかと」
ユリシーズとイリアスが予算の話をしていると、扉が叩かれてバルドーが入ってきた。
「ちょっと見回りを兼ねて領地の境に行ってくる」
「ああ。わかった」
「じゃあ」
バルドーはそれだけ言うと、出ていった。
ユリシーズはしばらく沈黙した後、一言漏らした。
「バルドー。まつろわぬ民のとこに行ったのかな」
「ああ。あの遊民な」
「……バルドー、もう子供いるよねえ」
「言うなよ! 考えないようにしてるのに!」
「だってさあー。考えないようにしてるったって……」
「聞きたくない聞きたくない! 伯父上もほっとけって言ってるし!」
「いや、本当にほっといていいのかな……」
困惑を口にするユリシーズとその言葉を聞くまいと騒ぐイリアスとでしばし混沌とした時間が過ぎていくのだった。




