棒のナイト
「この子は貴族的な生き方ができない子なんだろう」
ライナーは一族の長としてそう判断を下した。ライナーの甥、バルドーが10歳の頃のことである。
結婚し代変わりして新たに領主となったライナーとフリーデリーケ夫妻の間に子が生まれたのは、彼らが結婚してから5年後のことであった。その間にライナーの弟のフリッツが結婚し、この弟夫妻の元にはすぐに子が生まれた。それがバルドーである。バルドーのすぐ下には弟のイリアスが生まれた。
領主夫妻の間に子が生まれない間にその弟夫妻の間に二人の男児が生まれたことで、領主夫妻の後継のことで一族間でひと悶着があった。
領主夫妻にこのまま子が生まれないなら。との声が上がりだしたのだ。
さすがに離縁こそ求めなかったものの、ライナーに庶子をと求める声が上がった。ライナーは妻は一人で十分とそれを固辞した。
それならば、フリッツの子達のどちらかを後継にとの声が続く。これに関してはライナーはそこまで拒絶の意思を見せなかった。
では、物は試しに……と長兄のバルドーに教育をとさせてみたが、バルドーはじっと椅子に座っていることが困難な状態であった。
「これはまだ幼い。教育など気が早すぎる」
とライナー、フリッツ兄弟は声のうるさい一族の人間を退けたが、勘のいい人間はこの時点でバルドーの性質を薄っすらと気づいていたという。
ならば、バルドーとイリアスが育つのを待ってからと言っている間に、ライナー夫妻の間に嫡男ユリシーズが生まれた。
バルドー10歳、イリアス8歳、ユリシーズが6歳の頃、まだ気が早いかもしれないが、と前置きしつつ近隣の領との縁談を進めてはとの声が上がった。彼らが属するプラウドという国は、王都周辺に住む中央貴族達はやたらと好戦的できな臭さが絶えなかった。
そのため、辺境の地同士は縁を固く結んで中央貴族に対して異を唱えやすくしようとしていた。他国との戦となれば駆り出されるのは、辺境が中心となるからだ。
メディナはプラウドの北の辺境に位置する。北の地同士での結びつきを強くしよう、と近隣に声をかけていった。最初に話を通したのは、辺境伯領シシーであった。
シシー領にはバルドーやイリアスと歳の近い令嬢がいた。
シシー領からの返事も好意的で、父の視察に同行させるのでメディナで会わせようという話になった。
「私、この方のこと好きになれませんわ!」
シシー領の娘グレーテはそう言った。バルドーと会わせてみてほんの数言だけ会話を交わした後のことである。
「いや、気が早い。もっと、よくよく対話を重ねてみなければ人柄というものはわから」
「私、この方のこと好きになれません!」
我の強い娘に辛抱というものを覚えさせたい父の言葉をグレーテは遮って強く言う。いや、まず人の話を聞きなさいと父が言うのを無視して、グレーテはすっと指をさす。
「私、あの方がいいですわ!」
グレーテが差したのは、バルドーではなくイリアスだった。
「人を指差してはいけない……そちらの令息はご次男であったか」
「この方は私の話を聞いて下さいますわ!」
イリアスを見てぱあっと表情を明るくさせるグレーテに、相性も大事か……と親達は考える。結果、バルドーではなくイリアスと縁づかせようということで話が纏まった。




