18-3
「初めてのダンジョンに挑むのは何度経験してもわくわくするねえ!」
バネサが明るい声を出す。
「緊張で胃が……」
「大丈夫?」
対してカミロは青ざめた顔で腹を押さえている。トニアはそれを見て気づかわしげにしているが、比較的落ち着いていた。
ユリシーズも初めてのダンジョン探索との違いを感じるなどして、これからの冒険に思いを馳せていた。その横にはケントが侍る。
「あんた達は、ダンジョンでの立ち回り方、アイテムの使い方なんかをしっかり覚えていこうね」
バネサがカミロ達に伝える。
「やっぱり、手に入れたアイテムは使っていくもんなんですね」
「そうだよー。使うのを渋っている内は初心者を脱せないよ」
バネサの言葉に、ユリシーズも聞きながらうんうんとうなずく。
「あんた達は、積極的に魔法を使っていこうか。なにができてなにができないか、それを見極めるんだ」
バネサがユリシーズとケントに向けて言う。
「魔法は使ううちに、できることの幅が広がるとされている。今はできないことでも、その次にはやってみたらできたってことがある。だから、最初は積極的に使っていこう」
「……段位が上がるってことですか」
「そんなもんだね。魔法は無尽蔵に使えるもんではないと教えたよね。その使える量も、何度も使っていると増えるんだよ」
「最初は数回しか鑑定できなかったのが、数十回は鑑定できるようになるってことですか」
「それもあるし、鑑定の場合だと使ううちにより詳しい情報を得られるようになるだろう」
「なるほど」
「魔法は使えなくなると、しばらく……数時間くらいは全然使えない状態になる。魔力切れとされるものだ。これは、体力とは別のもの。これの回復方法はいろいろあるが、一晩寝たり、ある特定の食べ物を食べたりすると飛躍的に回復する」
「食べ物。食べ物にも魔力の元になるものがあるってことですか?」
「そう。体力も食べ物と寝ることで回復できるよね。それと似たようなものさ」
「へえー……」
初心者魔法使い達は先輩魔法使いの言葉をすべて聞き逃さないよう、真剣に聞いて頷いている。
「それぞれが持ってる魔法が違うからねえ。どんどん使って、どんな効果があるのか見ていこうじゃないか。あんたは、手に入れたアイテムを鑑定するとして……」
バネサがケントを見ながら言った後、ユリシーズを見てふむと考える。
「早速、変身してみようか! この子に変身できないか、やってみてくれ」
バネサが首に下げていたロケットを開けて中を見せてきた。そこにあったのは、少女の姿絵だ。
「これ、娘さん?」
「そうだよー。できるかい?」
「うん、やってみる」
ユリシーズは少し考えながら、目を閉じて集中した。
「お、おおー!」
目の前で変身を目撃したカミロが感嘆の声を出す。
「どうだろ……これ、合ってる?」
現れたのは、地黒の肌に、ぱっちりとした少し釣り目の目、髪はくすんだ灰褐色の10歳ぐらいの少女の姿だ。
「いいねえ! かわいいよ! その姿をどれくらい保てるか試しにその姿のままダンジョン探索してみようか!」
「ねえ! これ、合ってるの⁉」
正解を教えられないまま、その姿でダンジョン探索を提案されてユリシーズは不安になる。
「……あなたの娘さんってことは、現在は20歳かそこらでは……」
「さあさあ! 早速行こうか!」
「合ってないんじゃない⁉ 本当にこれでいいの⁉」
ケントが指摘するが、バネサは答えない。ダンジョンへの突入を催促されて、ユリシーズの不安は大きくなる。
わあわあ言いながら、一行はダンジョンへと潜っていった。




