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色々と突っ込みたいことはあるが、ひとまずは父の話を聞こうと黙っておく。
「プラウド王家は王族の血に固執している。もとは平民から成りあがったたたき上げの一族だ。それがよその国の王族の血を入れて見下されることから解放されようとしたがる。それを繰り返し過ぎて元の平民の血が薄まったはずなのに、時折先祖返りして平凡な茶髪茶目の人間が生まれている」
もっと父と母の話を聞きたかったのに、そこじゃないってポイントを父は話し出す。
「元の祖先の血を大事にすればいいものを。そこをコンプレックスに思う所為か他所の王家のきらきらした見た目の血を入れたがるのだ」
何も端折ってないとは言っていたが、妙に辛辣な言い方な辺り、きっと何かはあったのだ。王族との結婚がなくなって高位貴族の令息が争っていたのにそれを横からかっさらったのだ。なにも邪魔が入らなかったわけがない。
「かつての王族達が、この人物なら仕えてもいいと軍門に下ろうとそう思ったプラウドの先祖と今のプラウド王家とはもう同じではないのだ」
父の言い方が本当に残念だと思っている響きだったので、ユリシーズはなんだか聞いていてしんみりとしてしまった。
「お前が婚約破棄を叫んだのは、プラウド王家との手札にしたいと思ったのだろうが、それだけはやめとけと言っておく」
「あ、はい」
「お前の見た目はプラウド王家のコンプレックスを刺激するそのど真ん中そのものなのだ。なおかつカミレア王家の本物の王族の血を引いている。プラウド王家がお前の存在を認識すれば絶対に欲しがるのはわかっている。あいつらの望みを叶えさせるわけにはいかない」
「あー、はい」
本当に辛辣な言い方をしているので、本当にプラウド王家を嫌っているんだなと思わされる。
そういえば、他家との付き合いも近隣の領地の家々ばかりに限定されている。プラウド王家のみならず、プラウドの他の貴族家とも合わないんだろうか。
「プラウド王家はカミレア王家の特徴を手に入れて、カミレアの正当継承者だと主張してカミレアの王家を簒奪したいのだ。そんなことをさせるわけにはいかないのだ。わかるな? これからお前にプラウド王族の女性が接触してくることがあるだろうが、なびいてはならん」
「はい」
切々と説き伏せられて、ユリシーズは素直にうなずいた。
「お前は並の女性をはるかに凌ぐ美貌を母から受け継いだために色仕掛けも簡単ではない。田舎住まいのせいか権力欲も薄く、金銭欲もない。お前ほど、篭絡しづらい人間もいないだろう。上手く育ったものだと感心しているし、誇りに思っているのだ」
にんまりと笑う父に対して、ユリシーズは自慢に思われていたことを知り、照れて内心がそわそわとしてしまう。
「下手に篭絡されてしまう前に、さっさと彼女と結婚しなさい。他のプラウド貴族ではどんな横槍が来るかわかったものではない。だから領内でお前の結婚を完結させたいのだ。お前も彼女に気持ちがあるなら、素直になりなさい。結婚を終え、子供もできればプラウドからの横槍もおとなしくなるだろう。今度はお前の子を狙うかもしれないが……」
「……」
最後に不穏なことを呟かれて、ユリシーズは相づちすら打てずに黙ってしまう。ユリシーズに逃げて欲しいという父の気持ちは本物だろう。プラウドの手が届かない場所に逃げねばずっと狙われ続けると父は思っているのだ。
「プラウドはすぐには攻めてきませんか」
「そんな余裕がないのだ。ファシオとの戦闘で備蓄をかなり使ってしまっている。なおかつ、先の敗戦ですぐにでも再戦とはいかない。戦争そのものへの忌避感がプラウド国内にも広がっているのだ。これまでは武闘派が幅を利かせていたが、先の敗戦でその勢いも落ちてきている。確実に我らを攻めるだけの手がすぐには打てないのだ」
プラウドはすぐには攻めてこない。それがわかっただけでも、幾分か安心できる。
「だから収穫期が来るまでは、大々的にこちらを攻めず、圧力をかけたり調略をしたりと搦手を使ってくるだろう」
「具体的には?」
「まず考えられるのはシシー辺境伯からの説得。そして、お前に近づくあの火種王子。……あの王子は、どうにかこちらに引き込めないか? 不遇をかこっているようなら、どうにか口説き落としなさい」
「……フーゴとは敵対したくないし、そうなればいいけど……」
ユリシーズは答えながら、時折父の見せる判断からこの建国の顛末を本気でどうにか自分達の望むシナリオに導こうとしている、その覚悟がある、と感じていた。
「シシー辺境伯ってあれだよね、イリアスの……」
「そう。彼の婚約者はシシー辺境伯のご令嬢だ。接触は避けられない。一体どんな説得をしてくるか」
「イリアスにプラウド側にいかれると相当しんどいなあ」
「しかも、フリッツは帰れというのに帰ってこないし」
「あ」
フリッツとは父ライナーの弟でバルドー、イリアスの父である。彼はライナーの名代として王都に出向していた。
「フリッツのことは諦めねばならないのかもしれない」
「叔父上……」




