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18 父語る

「建国にはお前達を巻き込む気はないんだ」

 父が言う。

「国に縛られる必要はない。ユリシーズだけじゃなく、他の子達もだ。危なくなったら、ドロシーを連れて逃げればいい」

 勝手だなあと思いながらユリシーズは聞いている。

「まあ、だからお前は蚊帳の外にいてもらった。愛想が尽きていれば、さっさと逃げられるだろう? イリアスもお前と同様、建国に参加させたつもりはなかったんだが、彼は自分から動いてしまうからなあ」

 イリアスは逃げる気もないだろうなあ、とユリシーズは思う。


「逃げろとは言うけど、あのできてしまったダンジョン。あれを放っとくと魔物が溢れてくるらしいよ」

「……面倒だな」

 ユリシーズはつい最近知った情報を父に教える。厄介な情報に父は眉を寄せた。


「だから、あんまり逃げる気はないかなあ」

「お前があのダンジョンを管理すると?」

「そのつもりだけど……」

 ユリシーズは自分の腕にはまる腕輪を見る。これの意味するところはそういうことなんじゃないか、とユリシーズは思っている。


 ダンジョンの攻略者に魔法という特典を与える。その魔法の使い方は攻略者にゆだねられているが、魔法の活躍する場はやはりダンジョンが主だろうとユリシーズは考える。


「それに、ダンジョンがあろうがなかろうが、他のみんなが逃げないのに自分だけが逃げるのはしんどいよ。どうせ逃げるんなら、みんな一緒がいい」

「そういう気になって欲しくないから、愛想をつかして欲しかったんだがなあ」

 もしかして父と自分は思考回路が似てるんじゃないかとユリシーズは思う。相談もせずに一人で結論付けて思うままに突き進む。

 建国の式典で婚約破棄を叫んだユリシーズと似た思考回路では、と思うのだ。



「大体逃げるってどこに?」

「それは第一候補はやはりカミレアだな」

「カミレア? 大森林の向こうの?」

「そうだ。お前の母方の祖母はカミレアの王女。お前はカミレアの王族の血を引いているのだ。お前のその見た目はカミレア王家の特徴そのものをそのまま引き継いでいる」

「……そうなんだ」

「カミレア王家に縁づいたものがカミレアを攻めていいわけないだろう?」

「……」

 軽い口調で穏やかに話していた父の声が低くなる。



「プラウドは随分前からカミレアを欲しがっている。お前の母は元々はプラウド王族の誰かと婚約をしていたんだ。それが、政略上の問題で解消になった」

「え」

「プラウドはカミレアを狙っていたが、その時点ではまずはファシオをと思っていたんだろう。だから、一旦はカミレアの血を王家に取り入れることを先延ばしにした」

「……父上と母上ってどういう経緯で結婚したの?」

 王族と縁づくような家とこの家が婚姻を結ぶほどのつながりを持てたことにユリシーズは驚く。その上、現在は母の実家との繋がりがしっかりあるように思えない。

 母上の実家とか存在すら忘れてたよとユリシーズは改めて思った。


「お前の母の婚約が解消された直後の夜会、私も出席していた。お前の母が一番に誰と踊るかで高位の令息たちが揉めていた」

「うん」

「私達は口出しもできず、ただそれを端の方から眺めていた。その間、彼女は静かに微笑んで黙ってその場が収まるのを待っていた。令息たちの争いがいつまで経っても終わらなかった。その間、私には彼女がずっとほっとかれているのが気になった。あまりにも退屈な時間ではないか、と」

「そうなんだ」

「だから、私は彼女にダンスを申し込んだ。断られたっていい。ただ、彼女の退屈な時間を一部減らせられればいい、と」

「へえ」

「そうしたら、彼女は私の申し出を喜んで、受けてしまった。そして、私達はそのまま踊った」

「え、あ」

「そうしたら、彼女と私は婚約することになった」

「……何かいろいろ端折ってない?」

「何も端折っていない」

 父はそう言うが、あまりにも端的すぎるとユリシーズは思う。


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