17-4
父を落ち着かせたユリシーズはまたあとで話をしようと約束を取り付けて、バネサたちの元へと戻ってきた。
「ほっといてごめんね」
「いえいえ」
「お父様もご安心なさったでしょう」
「見てておもしろかったよ」
三人は好意的な発言でユリシーズを迎える。
「なあ、ユリシーズ様、大人に戻っても可憐過ぎないか」
「どんなむくつけき人が出てきても受け止める気でいたのに、大人になってもあんなかわいいのって信じられない」
カミロとトニアがぼそぼそと囁いている。
戻ってきたケントが頭を抱えている。
「ケントどうした?」
「いえ……実家が……色々」
「……大変だったみたいだね」
ユリシーズは事情が分からないながらも同調した。
「でも、お兄さんもお母さんもケントに会って嬉しそうだったね」
「それは、まあ……はい」
家族仲が悪くなくて良かったとユリシーズは素直に思う。
「では、早速だがここのダンジョンについて教えてもらおうか」
バネサの言葉からメディナの地下城ダンジョンへと潜る計画を練っていく。
出てくる魔物、ダンジョンの広さ、用意する物資など……それらを話していて、ユリシーズは時の流れを忘れた。
やはりダンジョンの話になると夢中になってしまう。ユリシーズは改めて自分の生きる場所の中心がダンジョンになったのだと認識した。
話し合いを終えて、今度はバネサたちを休ませる。食事を終えた後、ユリシーズは改めて父との話し合いに赴く。
ようやくである。建国の前から、機会を窺っていたのに、父との話し合いがずっと先延ばしにされていた。ユリシーズがすっかり完全に諦めてしまうほど、それが実現することはなかった。
それが、ようやく、今。
ユリシーズは内心緊張を持っていた。しかし、どこか落ち着いてもいる。今なら、何を聞かされても感情を激することはないだろう、と確信がある。
それだけ、心を落ち着かせる必要があったのか。
「失礼します」
室内へ入ると、父はゆったりと座って笑顔でユリシーズを迎えた。そのくつろいだ雰囲気に、これからの時間は『家族』としての時間なんだとユリシーズは受け止めた。肩に入っていた力が自然と抜けていく。
敵わないなあ。とユリシーズは父に対してなんとなく思った。
「お疲れ。色々大変だったね」
「うん。でも楽しかったよ。よその国の様子を見れたのもよかったし」
ユリシーズは旅っていいものだなあ、としみじみ思った。過去に体験した長旅はプラウドの王都に連れて行ってもらったものだ。それはそれで楽しい体験だった。が、まったく文化の違う土地に行くのはやはり強い刺激であった。
「お土産も色々買ったんだ。グーダルの名産だけじゃなくて海の向こうのケセラン国のものも買ったんだ」
ユリシーズが語るのを父はうんうんと笑顔で聞いてくれる。しばらく自分ばかりが一生懸命喋ってしまって、ユリシーズははっと我に返った。
「あ、ごめんね」
「いや、楽しいよ。いい旅になったようで本当に良かった」
父は嫌な顔一つせずユリシーズの話を聞いていた。
「やはりお前は好きなことをしているのがいいよ。その方がいい顔をしている」
「父上……」
「建国だの謀略だの、そんな面倒なことはやはりお前には向いていないよ」
父の言葉に、彼はユリシーズと同じ思いを抱いていたのだと知る。




