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17-2

「ニール、変わってくれ」

 静かな声に、ニールは怒りを無理やり収めて、場所を譲った。

「あ……」

 久しぶりの顔合わせに、ユリシーズはまず何を言うべきかが見つからず、言葉が出せない。


 ユリシーズとその父ライナーはしばし無言で対面する。


 ずっと口も開かず、表情も変えない父にユリシーズはどう反応していいのかわからない。二人で無言で見つめ合う時間が続く。


 急に父が動いた。さっと身を屈められて、ユリシーズはドキリとする。

「わあ⁉」

 急にぎゅっと抱きしめられて、動揺する。


「この子は私が育てる!」

 父が大声で宣言した。



 一拍の静寂(しじま)が広がる。その後、ユリシーズは急にぐんと体が動くのを感じた。

「あ……」

 父の腕の中に収まっていたのが、そこに収まり切らず、目線が父と同じ高さになる。


「えーと、えへへ……元に戻れたみたい……」

 ユリシーズはどこか気まずさを感じながら、照れ笑いをした。


「良かった!」

 父が大声で歓喜の声をあげながら、ユリシーズを再び抱擁する。


 ユリシーズは父に抱擁されながら、ふと気づいてしまった。父の背中が薄い。子供の頃はもっとがっしりしていると思っていたのに。

 唐突に、ユリシーズは父の老いを実感してしまった。



 ユリシーズ親子が再会のひとときを過ごしている傍ら、イリアスがケントに話しかける。

「ケント、お前に客人だ。ぜひ会ってやってくれ」

「え、はい」

 自分に客? と思いながらケントはうなずく。客人が待っているという屋敷の一室へと案内されて向かった。



「いやあ、無事に会えてよかったよ」

「ケントさん……やっと会えた……」

 ケントを待っていたのは、ケントの兄と義母だった。兄は安堵の息を漏らし、義母は涙を流す。

 ケントは気まずさと同時に気恥ずかしさを感じていた。


 一人で勝手に天涯孤独になったと思い込んでいたのに、兄と義母はケントが生きていることを知って彼を探してくれていたのだ。


「まったく。軍のやつらも適当してくれやがって」

「……お手間をおかけして申し訳ありません」

 ケントは恐縮しながら頭を下げる。

「いや、お前は悪くないんだ。そりゃあ、自分の葬式なんて見たらショック受けるよなあ」

「いえ……あの……」

 どう言ったものか、とケントは悩む。ケントは確かにショックは受けたが、同時に解放感も得ていたのだ。


「ひどい話だよ。自分の苦労を多く見せるために、部隊が壊滅したなんて大嘘を吹聴するなんてさあ」

 ケントがいた部隊の隊長は停戦交渉をうまく進めたとして功を上げたらしいが、そのときに自分の苦労を大ぼら込みで吹聴したらしい。


 その時の部隊は隊長が指揮を放棄したため、それぞれが散り散りに逃げていた。そのため、部隊の隊員の生存確認ができなかったのだ。


 そして、自力で帰ってきた隊員たちが自分の葬式の場に立ち会うという事態が頻発。それで隊長の指揮放棄などが暴露されるに至った。

「まあ、その後結構ごたごたが発生してたんだが……その後、いろいろあってうちは領地が召し上げられることになったのだ」

「は⁉ え!」

 突然の話にケントは目をむく。なぜ、そんな事態に⁉ と言葉を失くす。


「う~~ん。なんでこうなったのかなあ。こう、不正が暴露されて、各家に補償が払われることになったのだが、うちはそれに気づくのが遅れて、さらにケントの葬式まで済ませていて、それで本人もいない。そこでうちの家も不正をしているんじゃないかと疑われた。不正に加担してるんじゃないかとかいろいろ邪推された」

「ええ……」

 自分が逃げたせいで起きたとんでもない事態にケントはさらに言葉を失くす。


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