17 再会それから
ケントが新たに得た魔法『鑑定』を試すためにダンジョン内で仕入れたアイテムを次々と見ていく。
「あ……なにも、読めなくなりました」
ユリシーズがケントを見ると、ケントの片眼を覆っていた光が見えなくなった。
「魔力切れだね。魔法は無尽蔵に使えるわけではないのさ」
バネサがそう説明する。
説明した後、バネサが沈黙する。そして、ユリシーズをしげしげと眺める。
「……あんたは、本当に不可解だねえ」
ユリシーズは未だに『変身』が解けず、子供の姿のままである。
「これ、本当に元に戻るんですか」
「戻ると思うんだけどねえ」
解呪屋の言葉に、ケントは安心していいのかどうかわからない。ユリシーズは特に何も思っていないのか、平然としている。
「何これ! なんで⁉」
「戻るんですの⁉ これ、本当に戻るんですの⁉」
イプサに戻り、顔を合わせた途端、クルトとビルギットに大騒ぎされる。
「ダンジョン怖い! ダンジョンいくの怖くなってきた!」
「そうですわ! わざわざ好き好んで怖い思いなんてしなくていいのですわ!」
「そんな怯えなくても~……」
ユリシーズは二人の怯え様に一歩引いた気持ちでいる。
「これが普通の人の反応ですよ」
ケントの言葉に、ユリシーズは困惑が勝つ。
「えー。このままメディナに戻ったら、こんな風に騒がれるかな」
「しょうがないですよ」
「……」
出迎えたイリアス、バルドー、ドロシーはまず無言でじっと見つめてきた。
はあああ~~~~っとイリアスが長いため息を吐き、頭を抱える。
「なんでそうなるんだよ~~~」
そう呟く声に力はない。
「このままなのか? 子供からやり直すのか?」
バルドーが尋ねてくる。その発想がなかったので、ユリシーズはハッとする。
「え、そういう可能性もあるの……?」
突然の気づきにユリシーズの表情が変わる。ユリシーズはようやく恐れというものを持った。
「どうすんのよ」
ドロシーがしゃがんでユリシーズと目線を合わせ、ツンとほおを指でついてきた。
「本当に子どもじゃない。結婚どうすんの?」
「え、え~~と……」
答えられないユリシーズはドロシーにむにむにとほおを揉まれる。そんな中、猛然とこちらに向かってくる男がいた。
「ユリシーズ様!」
「あ、ニール」
ドロシーの父、ニールである。その表情には怒りのようなものが見えた。
え~~怒られるの? とユリシーズはうんざりとした気持ちで迎える。
「あなたは、何をしているんですかー!」
ガツンと大声を出された。嫌だなあ、と思いながらユリシーズはただ黙って聞く。逃げないようにかドロシーに肩をつかまれてニールと向き合っていた。
「我が娘との結婚を控えた人間が、どうしてそんな姿になっているんですか! 娘を何年待たせる気ですか!」
「え、えー」
そんなことを言われても、ユリシーズは答えられない。
「性別はどっちなんですか⁉ まだ女性のままなんですか!」
「それは、元に戻ったけどー」
「あなたは、責任を取らねばならないんですよ! あなたは、娘と……くちづけを、交わされてるんですから!」
ニールはくちづけと言葉にするときに、ものすごく言いづらそうにかつ嫌そうな顔をした。
あれ? もしかして、ニールは権力のために二人を結婚させようとしているのではない? ユリシーズに責任を取らせるために、結婚をさせようとしている?
ユリシーズはさらなる気づきに、目を瞬かせる。
「この二人がキスするのなんか、おしめついてる頃からだしー」
「何をいまさら」
バルドーとイリアスがそんなニールに呆れを見せる。
「だから、でしょうが!」
ニールがくわあっと目を見開いて、二人に食ってかかる。
困ったな。とユリシーズはようやく思った。
そんな時、ニールの肩越しに別の誰かがこちらにやって来るのが見えた。
それは久しぶりに見る父の顔だった。




