367日目 絆
ログイン367日目
「あれ……?」
大砂海の拠点にやって来た私はすぐにユキちゃんの姿を見つけるも、目を瞬かせた。ユキちゃんの大きな影の隣にもう一つ、見慣れない小さな影があったからだ。
近付いて行ってみると、それはスコップを持ったサソリ型の幻獣【スコッピノ】であった。ここ大砂海ではよく目にする敵対幻獣である。
それにしても、敷地内に侵入してきてユキちゃんに撃退されているのは時々見るけれど、今回は何やら様子が違う気がする。
いや、寝転がっているユキちゃんのほうはべしーっと片手間に攻撃していていつも通りだ。でも、スコッピノ側の態度が穏やかなのだ。
手荒く追い払われても「ててててーっ」とまた駆け寄りそばに寄り添おうとする様は、ユキちゃんのことを慕っているようにすら見える。そして私の存在に気付いているにも拘わらず、まるで敵意を向けてこない。
これは一体どういうことだろう。スコッピノの中には友好的な子もいるってことなのかな。
と、不思議に思いつつ観察していたらば――――――。
「も゛っ」
「……あっ」
――――――べしーっと、ユキちゃんの何度目かの片手間攻撃がスコッピノ君に直撃し、瞬間彼はノイズとなって消えてしまった。どうやら[耐久]がゼロになり、消滅したようだ。
舎弟のような健気な仕草が可愛かったのに、ユキちゃんたらなんて容赦のない……。
きらきらきらーっとユキちゃんの体からスパークルエフェクトが発されるけど、いやいやいや、こんなタイミングでレベルアップしてんじゃないよ君。
ゲーム世界ならではのシュールな光景に、つい心の中で突っ込みを入れてしまうワタクシ。
とはいえレベルアップは喜ばしい。何か変化があるかなーと、私はユキちゃんのステータス情報を開いた。
そう、遠征には連れて行けないので育成も何もないかと思いきや、こういう場面でユキちゃんは地味に経験値を積んでいたりする。野生の幻獣が出現する秘境拠点ならではのメリットだね。
まあそんなわらわら幻獣が襲撃してくるわけでもないので、成長は微々たるものだけど。
あ、でもいつの間にかレベルが『11』になってるよ。頻繁に確認してるわけじゃないからよく覚えてないけど、前見たときは一桁台だった気がする。
目立った変化は……、おお、新しいスキルが増えてる。どれどれ?
【盃事】
条件発動スキル 消費10~ 自身がダメージを与えた幻獣限定で発動 確率で対象を友好状態にする
へーっ、これ聞いたことある。確か幻獣巣の主の種族がよく覚えるやつだ。
なるほど。このスキルが発動したから、さっきのスコッピノも友好的だったんだね。
すっきり謎も解けたところで、さあ今日の本題といこうじゃないか。
私はインベントリから【ホワイトビックマドール】を取り出す。
すると今までこちらを見向きもしなかった無関心なユキちゃんが、のっそり起き直った。
じと、としたその視線は、真っ直ぐビックマに注がれている。良い反応。
私はビックマをユキちゃんに向けてそっと差し出した。
「ユキちゃん、今日はユキちゃんにぴったりのお友達を連れて来たよ。仲良くし、」
「も゛っ!」
あっ。
皆まで言いきる前に、力尽くで奪い取られてしまった。
あの、それ、今回は“ギフト”じゃないからね。一緒に遊ぶ用に持ってきたわけであって、ほっとくとユキちゃんすぐ壊しちゃうから管理は私がする予定で……って、ジョブスキルを持ってない私が言ってどこまで通じるんだろうね。
こりゃ今回もぼこぼこにされてあっと言う間に使いきっちゃうオチかなあ。
材料費割と馬鹿にならないんだけど。とほほ。
と、肩を落としかけたその時。何気なくユキちゃんのほうを見た私は、目を疑った。
「も゛っ、も゛っ」
なんとユキちゃんの体から、ハートのエフェクトが大量に発されていたのである。め……めっちゃ喜んでいる……!
表情は相変わらずのむっすり顔であるが、ビックマを大事そうに両手で抱えるユキちゃんの仕草はいつになく嬉しそうだ。
かと思えば、前触れなくオモチャを地面に叩きつける気まぐれ乱暴っぷりは健在である。でもこのたびのクマは、さすがに一回の暴虐で消滅したりはしない。
再び大事そうにビックマを拾い上げるユキちゃんも、壊れなかったことにほっとしているように見えた。
私はすかさず【修繕】スキルを発動。
一応ユキちゃんからビックマを返してもらえるかどうか試みたが、案の定彼は断固拒否の構えであった。こうなるとログアウトしたが最後、次来たときにはビックマ消失という結末に至っても不思議ではない。
でもユキちゃんが喜んでいることは確かなのだ。少しでも長くお友達といられるよう、今くらいはこまめに治療してあげなくちゃね。
するとふいに、私の体を影が覆う。見上げると、ユキちゃんのドスの効いたお顔がすぐそこにあった。
ひい、なになに? そんなふうに急に近付かれると、地味に怖いんだけど。
またいつものごとく攻撃されるのだろうと身構えたその時。
「も゛っ……」
どすん、とユキちゃんは私の隣に腰を下ろした。
体がぴったりとくっつく、緊密な距離感。ユキちゃんがもぞもぞと身じろぎするもので、ほあほあの毛がちょっとくすぐったい。
って、もしかしてこれ、すりすりされている……?
今まで期待させてからのバイオレンスオチに散々やられてきた経験があるので、つい半信半疑になってしまう。でも[耐久]ゲージはこのたび減っていなかった。
攻撃じゃなく、純粋にスキンシップを取ってくれてるんだ……! ユキちゃん、ついに私に心を開いてくれたんだね!
再びユキちゃんのステータス画面を開けば、なんと[絆]ゲージは『49/100』にまで伸びていた。
えーっ、すごいすごい! ビックマちゃんの効果バツグンじゃん!
これだけで40も[絆]が成長するっていうんなら、消耗品扱いでも全然いい。キマと労力に見合った価値はあったよ~~。
えへへ、ユキちゃんたらもう、なんて可愛い子なの。大好き。
そうして両手を広げて彼のお腹に抱き付いた私に、今日もクリティカルヒットが炸裂するのであった。








