終章 影
場内の礼拝堂でアレスは祈っていた。王族だけに許された小さなプライベート礼拝堂だ。この場所で祈りを捧げるのは王族としての義務でもある。朝と晩、基本的には毎日祈りを捧げる。
祈りの間、護衛は扉の外にいる。この場所に入れるのは王族だけだった。
朝であればステンドグラスから入る光で色鮮やかに浮かび上がる礼拝堂も、夜はろうそくの明かりだけで薄暗い。ゆらゆらと揺らめく灯火の中に跪いていると、コソリと何かが動く音が聞こえた。
祈りのために瞑っていた目を開いて顔を上げれば、目の前に誰か立っている。思わず腰の剣に手をやろうとして、相手に気づいた。
「イエフ」
のっそりと総司教イエフ・シャインが立っていた。
「一体どころから…」
周りを見回すが、扉から入ってきた様子はない。いや、扉から入ってきたならば、たとえ総司教といえども護衛のものが止めるはずだ。
「陛下と少しお話をしたいと思いましてな。こっそりと参りました」
「こっそりって…」
「こっそりは、こっそりです」
「…」
聞きたいのはそこじゃないと思いつつ、アレスはイエフを見つめた。いつもの神官服で武器を隠し持っている様子もない。
「何を話すの?」
アレスが尋ねるとイエフはふっと視線をそらして考え込むようにしてから、アレスの傍に同じように跪いた。
「本来であれば、陛下のお父上から聞くべき話でしょうな」
「お父様?」
イエフが頷く。
「ネレウス王もグリトニル王も逝ってしまわれた。さすがに陛下は聞いていない話でしょう」
「何の話?」
「この話を知っているのは、このじじいのみ。だからこそお伝えしなければなりますまい。このヴィーザル王家の秘密を」
「王家の秘密?」
「さよう。神代の昔から伝えられてきたヴィーザル王家の…延いてはこの半島にある全ての国に関係する秘密です」
イエフの瞳が暗闇の中でろうそくの灯りを受けて光る。
「一体どんな…」
「長い長い話になりますぞ。そしていずれ生まれる陛下の皇子、皇太子殿下以外には伝えてはならない話です」
「そんな話を何故イエフは知っているの?」
イエフは自嘲気味に笑った。
「それも話を聞けば分かります」
そしてイエフは、アレスにとつとつと長い話を語り始めた。
ヴィーザル王国物語 ~精霊の剣~
The End.
あとがき
「え~」というところで終わってすみません。作者の沙羅咲です。
この後、外伝が1つ。もしかしたら2つ入って、あと登場人物説明を入れてから次の「獅子の爪」(仮題)に続く予定です。
まだプロットがあやふやなので、もうちょっと詰めないと書けそうにありません。またしばらくお待たせしてしまいそうです。ですので、外伝をアップしたところでいったん完結とすると思います。良かったら、書き出すまでお待ちいただけると嬉しいです。次の外伝に続きます。(外伝の1つは今週末までには更新しようと思います)
引き続きよろしくお願いします。感想などもいただけると嬉しいです(^^)
沙羅咲




