第5章 赦し(4)
ライサはとぼとぼと門をくぐり、城へと戻ってきた。召使たちが使う通用口から入ろうとして、その前に立ち尽くす2つの人影に気づく。
「ホール様…イザベラ…」
サイラスとイザベラの二人も同時にライサの姿に気づいたのだろう。駆け寄ってくる。サイラスがライサの頭から足まで視線を走らせて、無事であることを確認したとたんに安堵するように息を吐いた。そしてきつい目つきでライサを睨みつける。
「何をやっているんですかっ」
サイラスから怒鳴られたのは初めてで、ライサは思わずサイラスを見てしまった。
「心配したんですよっ。こんな時間までっ」
気づけばあたりはすっかり暗い。本当ならばサイラスはとっくに自分の家に帰っている時間だということに気づいた。
「も、申し訳ありません」
思わず頭を下げれば、となりでイザベラも一緒に頭を下げている。
「ホール様、すみません。いつもはこんなことは無いんです。私からもお詫びしますから許してあげてください」
その言葉をきいてライサは鼻の奥がツンとしてくるのを感じた。自分のためにサイラスは怒っており、イザベラは謝ってくれている。
「まったく。それで? ラフドラス伯はどうしました?」
その言葉にライサは森であったエフライムを思い出していた。怖かった。ただただ怖かった。
「あっ…」
怯えた表情を見せたライサに、サイラスは呆れたような表情を見せた。大方、余計なことをするなと怒られたのではないかと思ったのだ。他人の恋路がどんな結果になったのであれ、頼まれもせずに余計な口を出すことではない。
「まあ、いいでしょう。ライサ、心配させた罰にあなたはしばらく外出禁止です」
「す、すみません」
頭を下げるライサの横で、イザベラも一緒に頭を下げた。
「とにかく今日はもう部屋に戻りなさい。あなたが無事に戻ってきて良かったです」
最後は笑顔で言うと、サイラスはそのまま馬小屋のほうへと歩いていってしまった。
「ホール様、ライサが戻ってきてないって知って、ずーっと探してくれていたんだよ」
イザベラがポツリという。
「凄くいい人だよね。本当に心配してたんだから。明日、もう一回謝っておきなよね」
「うん」
「ほら。部屋に帰ろう?」
イザベラの暖かい手に背中を押されながら自分の部屋に戻る。頬を涙が伝っていった。泣きたくないのに、涙が出てくる。
「もう。泣かないの。ホール様だって、本気で怒ってないって。心配していたから怒ったんだよ」
「うん」
それは分かっていた。怒られたのが悲しいのではない。周りを心配させるだけで、何もできない自分が悲しかったのだ。




