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ヴィーザル王国物語  作者: 沙羅咲
一角獣の旗
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第10章  軍隊(1)

 翌朝の朝食はミスラ公、ガラディールと共に取ることになっていた。これから毎朝この状態が続くのだろう。仲間同士で食べる気安さに慣れてしまった一同にとっては気の重い時間だったが、これも仕方ない。特に交わす言葉も無いので、皆自然に黙々と食べることになった。ガラディールとその相手としてバルドルのみが話をしている。さすがにバルドルは自分でも言うだけあって、そつなくガラディールの相手をしていた。


「ところで、ハウト殿」


 いきなり話が自分に振られたので、ハウトはドキリとする。しかし、表情は押し隠したまま返事をした。


「なんでしょう」


 ガラディールの顔に含んだ笑いが広がる。


「昨晩は配慮が足りずに、失礼いたした」


 何のことを話しているのかと訝った瞬間に、思い当たった。寝室のことだ。


「今晩からは、奥方と同室を整えるよう言いつけておきましたからな」


 そしてにやりと嗤う。その表情にハウトは非常に気に食わないものを感じたが、あえて押し殺して、笑顔を浮かべて答えた。ハウトでもこれ位のことは出来るのだ。


「それはありがたい。感謝いたします」


 それを傍から見ていたアレスは感心していた。アレスとしては、ガラディールの言いように、ハウトが怒るのではないか、少なくとも昨晩見せたような居心地の悪い表情を浮かべるのではないかとさえ思っていたのだ。なるほど、これが大人の処世術かと変なところで納得して、思わずハウトを見つめる。ハウトはアレスに問い掛けるように、器用に片方の眉だけ上げてみせた。その表情に思わずアレスは笑顔を浮かべた。


 食事が終わるとエフライムは城を抜け出て行くのだろう。ちらりとアレスを見て、にこやかに会釈をすると姿を消した。アレスは内心ため息をつきたいところを、なんとか堪えていた。なんだかんだと理由をつけてアレスの傍に居たがるガラディールが、本当に鬱陶しかったのだ。城の中を案内してもらいながら、彼の話を聞いているのだが、彼の話すことと言えば、すべて自慢話ばかり。珍しいものを手に入れた話や、いかに自分がネレウス王の御世に優秀だったか…など。それらすべてににこやかに応じながら、お祖父様やお父様はこのような話すべてに付き合っていたのかと、大きなため息をつきたくなる。ラオはそれを聞いているのか、どうなのか、まるで影のようにアレスとバルドルの後ろからついてきていた。退屈しきっているアレスの様子を見ながら、ようやくバルドルが助け舟を出してくれたのは昼の席だった。


「陛下、午後は遠乗りをされてはいかがでしょうか」


 アレスは思わず顔全体に笑みを浮かべそうになって、慌ててそれを打ち消した。その葛藤に気づいたバルドルの眼だけが笑っている。アレスはバルドルに威厳を持って、すくなくともできるだけ威厳があるように見ると、頷いた。ガラディールの顔が曇る。それに気づかぬふりをして、バルドルがガラディールに耳打ちをする。しかし十分アレスも聞こえる声だった。


「ネレウス王同様、アレス王も馬を上手に操られる。まさに生き写しじゃ」


 ガラディールは感心したような様子をしつつ、今ひとつさえない表情だった。


「ガラディール殿もいかがかな?」


 バルドルが誘う。アレスは内心、誘わなくてもいいのに…と思っていたが、それは黙っておいた。しかしアレスの予想に反して、ガラディールは断った。


「いえ、ちょっと午後は用事がありまして」


 バルドルは心底残念そうな顔をして見せた。


「それは残念ですな」


「ですから、どうぞお二人で…。いや、ラオ殿も出られるのであれば、三人ですな。必要であれば、誰か護衛につけましょう」


 バルドルが首を振って護衛については、丁重に断った。ガラディールは傍のものに馬を用意するように言うと、自分はそのまま挨拶をして、アレスの前から立ち去っていった。


「では陛下参りましょう」


 バルドルがアレスの手を取って、外へつながるドアの方へと向かう。その目がいたずらっぽい光で溢れている。ラオは黙って後ろからついてきていた。ようやく外に出て、馬に乗る。城からかなり離れたところで、ようやくアレスはほっとしたように息を吐いた。


 その様子にバルドルから笑い声が起こる。視線を移せばラオも薄く笑っている。アレスは憮然とした。


「だって疲れちゃったんだもん!」


 バルドルが笑いを含んだ声で答える。


「わしでさえ疲れたからな。仕方なかろて」


 アレスは驚いたようにバルドルを見た。


「そうなの?」


 バルドルは頷く。思わずアレスはラオを見ると、ラオも頷きながらぼそりと言った。


「逃げ出したい気分だった」


 アレスはその言葉に笑顔になった。自分だけではなかったのだ。


「嬉しいよ。みんな同じ気分で」


 素直な言葉にバルドルが思わず苦笑した。その顔を見て、ますますアレスは笑顔になっていく。


「でもよかった。ミスラ公が来なくって」


 バルドルがにやりと嗤う。


「あいつは馬が苦手じゃて」


 アレスがびっくりしたように目を見開く。


「そうなの?」


 バルドルが眼をいたずらっぽく光らせながら頷いた。アレスは笑顔になる。


「だから誘ったんだね」


 バルドルが頷いた。その仕草に思わず笑い声が漏れる。もうすっかり仲間内の打ち解けた雰囲気になっていた。


「あそこに見える木まで、競争しようよ! きっと気持ちがいいよ!」


 そう大きな声で言うと、アレスはいきなり馬を走らせ始めた。その様子にバルドルとラオは一瞬驚いたが、すぐに笑顔で答える。そしてアレスの後を追いかけて行った。







 その頃ミスラ公の居城では、ハウトが武官たちと剣を交えていた。とは言っても練習用の刃が無い物だ。その様子をルツアとフェリシアが見学している。


 さっきからハウトに挑んだ者は、片っ端からやられていた。なかなかハウトに歯が立つ者がいない。ハウトは遊び半分の状態なのに、真っ当に戦える者がいないのだ。


 その様子をルツアはちょっといらいらとしながら見ていた。ルツアから見てもまるでなっていない。


「ああ、もうっ! なんであれぐらい避けられないかな」


 さっきから情けない武官たちの戦いぶりを見ながら、ルツアは小声でぶつぶつと文句を言っていた。フェリシアがそんな様子を微笑みながら見ている。若い武官は全員やられてしまって、いよいよ隊長クラスが出てきた。まずは右翼の隊長ヘルモーズがハウトの前に立った。武官らしくがっちりとした体格で、ずんぐりむっくりとしている。髪の毛やあごひげは軽くウェーブがかかっていて全体的に毛深いので、まさにイメージは熊だった。


 力自慢のようだ。剣を振りかざすと、大きくなぎ払うようにして動かす。ハウトは軽く後ろにステップを踏んで避けた。


「おっと」


 そしてにやりと嗤って剣を構える。


「ようやく骨があるのが出てきたようだな」


 本当に嬉しそうに言う。その様子にヘルモーズはむっとしたようだ。口をへの字に曲げると、さらに剣を振り回した。今回も軽くステップを踏んで、ハウトは避ける。その避け方が気に入らなかったのか、ヘルモーズは足を狙ってなぎ払って来た。ハウトは軽々と飛び上がると、その剣を避けた。剣は構えているが、攻撃する気は全然無いらしい。にやにやとした表情のまま、ヘルモーズの剣を避け続ける。


 ヘルモーズは眉をひそめると、悔しそうに唇を噛んでから呟いた。


「卑怯な…」


 その声にハウトが興味深そうな視線で見る。


「卑怯と言うか…卑怯者にはなりたくないなぁ」


 からかうような口調だった。


「もうちょっと遊んでいようかと思ったんだが…」


 そう呟くと、ヘルモーズがなぎ払ってきた剣を避けた上で、右側に剣を突き出す。ヘルモーズが身体を捻ってそれを避けようとしたところに、ハウトはさらにヘルモーズの剣を下から突上げた。


 思わず剣を手放しそうになって、ヘルモーズは体勢を崩した。慌てて身体をふんばったところに、ハウトが胴をめがけてなぎ払うように剣を振るった。ヘルモーズは、うっと声を立てる。


 刃はないが勢いはあったので、衝撃はかなりのものだっただろう。そのままヘルモーズは、頭から崩れ落ちるように地面に前のめりに倒れると動かなくなった。


 ハウトは剣を持ったまま両手を腰に当てて、気絶して横たわっているヘルモーズを見下ろすと、周りに声をかけた。


「ちょっと水を持ってきてくれ、少し力を入れすぎちまったらしい」


 おずおずと若い武官が、桶に水を汲んで持ってきた。それをざっぱりとヘルモーズにかける。唸り声と共にヘルモーズが目を開けた。


「大丈夫か? おい」


 ハウトが声をかける。ヘルモーズはまだ焦点が合わない目でハウトを見ていた。気がついたヘルモーズに興味は無いらしく、そのままハウトは視線を移す。


「で、次は誰だ?」


 力自慢のヘルモーズがやられたことは、この部隊の人間にとってかなりの衝撃だったようだ。皆、顔を青ざめさせてハウトを見ていた。そしてのろのろと視線が、次の人間に集まる。右翼の隊長がやられたとなれば、次は左翼の番だった。


 左翼隊長スカルドが皆に押し出されるようにして、ハウトの前に立つ。こちらはハウトよりも背が高い男だった。ヘルモーズに比べれば、細長い印象だ。


 やはりヘルモーズがやられたことが衝撃だったのだろう。少し青ざめた顔をしている。そしてわずかに震える声で言った。


「お、俺は槍の方が得意だ。槍で勝負したい」


 ハウトの眼がきらりと光る。


「ほう?」


 その問い返しを、スカルドは自信が無いものと勘違いしたようだった。さらに強気になって言い放った。


「槍で勝負だ」


 ハウトはにやりと嗤った。ルツアがため息をついて首を振った。駄目だ、このスカルドという男も全然わかっていない。相手の力量が測れていないのだ。しかもハウトに槍で挑むなど自殺行為だ。


「誰か、練習用の槍を用意してくれ」


 そのハウトの言葉に、スカルドが追いかけて言った。


「いや、刃があるのをもってこい。練習用では生ぬるい」


 スカルドの眼がぎらぎらと光っている。仲間の雪辱を晴らそうというのだろう。ハウトが親切にも言ってやった。


「止めておいた方がいいぜ。これは練習だ。怪我をする必要は無いだろう?」


 しかしスカルドは引かなかった。断固、刃がついている槍を使うと言って聞かない。ハウトはため息をついて、了承した。


「仕方ない。それでいい。もってこい」


 真剣勝負に、見ている者の方に緊張が走る。ハウトが槍を受け取りながら、近くにいる者たちを指差しながら言う。


「おまえたち、ちょっと近すぎるからもっと離れろ。そっちもだ。そうそう。そのぐらいに離れておいたほうがいい」


 人々を遠巻きにさせておいて、ハウトは軽々と槍を振り回した。


「久しぶりだからな、槍を使うのは」


 その振り回すスピードに、思わずスカルドが目を見張る。顔から脂汗がたれ始めた。それを見てハウトがにやりと嗤う。


「練習用にするか?」


 斜め下から問い掛けるような、からかうような視線にスカルドの顔は、ぱっと赤くなった。


「いや、これでいい」


 短く答えて、槍を構える。ハウトは呆れたようにスカルドを見たが、何も言わずに同じく槍を構えた。しかしふと思いついたように身体を起こすと、近くに立っていた者を指差した。


「おい、そこのおまえ、試合始めの合図をくれ」


 一瞬誰のことを言われたとのかと、その若い武官は左右をきょろきょろしていたが、ハウトの漆黒の瞳が自分を見ていることに気づくと、顔が真っ赤にして頷く。その様子を見ながら、ハウトは槍を構えなおした。その若い男はおどおどとしていたが、意を決したように、大声を出した。


「始め!」


 声が裏返る。その声に笑おうとしたその場にいた者たちは、信じられないものを見た。その瞬間にハウトの槍が動いて、まるで生きているように相手の槍に近づいたと思う間も無く、その槍を叩き落としたのだ。はっとスカルドが気づいたときには、手にしびれが残っているだけで、何も持っていなかった。槍そのものは地面に落ちている。


 ハウトが自分の身体に沿わせるように槍を立てて、スカルドを見てにやりと嗤った。


「おまえさんが、練習用でやると言っていたら、もうちょっと遊んだんだけどな。怪我すると拙いからな、そのまま落とさせてもらった。悪いな」


 スカルドは呆然として、自分の手と槍を見比べ、そしてハウトを見た。


「黒髪…黒い眼…」


 そして、はっと気づいたように呟く。


「長腕のハウト…」


 その声にハウトがにやりと嗤う。


「おっ、俺を知っているとは光栄だね」


 その瞬間にスカルドが地面に土下座した。


「参りました!」


 ざわざわとざわめきが広がる。ハウトはスカルドに手を差し出した。


「まあ、立ってくれよ」


 その手に掴まってスカルドが立ち上がった。そしてその様子を見てから、ハウトは周りを見回して言った。


「それで、次は誰だい?」


 人々の奥から顔に傷を持つ男が出てきた。浅黒い肌に、筋肉質の身体、そして頬から口元にかけて大きな傷がある。


「隊長のブラギだ」

 

 野太い声で言った。ハウトは思わず考え込んだ。この顔はどこかで見たことがあった。どこかの戦場で…。そして唐突に思い出す。名前が違うのだ。


「おまえ、ジダルゴ!」


 にやりとブラギが嗤った。


「その名前は捨てた。今はブラギと呼ばれている」


 その言葉に思わずハウトは脱力した。二、三年前に国境付近の紛争の際に、やはり傭兵をしていた奴だった。それなりに剣は使えたはずだ。


「おまえが正規軍の隊長とはねぇ」


 その言葉にブラギがにやりと返す。


「おまえこそ、王に仕える奴には見えなかったぞ」


 ハウトは痛いところを衝かれて頭を掻いた。そしてルツアの方を見る。


「ルツア、おまえさん、一勝負やりたくてうずうずしているんだろう?」


 ルツアの表情がぱっと明るくなる。


「もちろん!」


 ハウトが微笑んだ。


「じゃあ、着替えてこいよ。ブラギとやるといい」


 ルツアはその言葉に笑って、スカートの後ろに手をやる。ぎょっとしたハウトをよそに急いでスカートを外しながら、ルツアは言った。


「実はいつでもいいように、下に着ているのよ。スカートを取ってしまえば、いつでも勝負できるわ」


 そしてぱっとスカートを取ると、その下には男物の服を着込んでいるのが見える。ハウトは頭を抱えた。


「ルツア…いくらなんでもそれは…」


 そんなハウトとルツアの様子をよそに、ブラギが憮然とした表情でハウトに向かう。


「おまえとやるならまだしも、女と勝負するとは…」


 その言葉に何か言いかけたルツアを片手で制して、ハウトはにやりと嗤ってブラギに言った。


「あいつに勝ったら、俺が相手をしてやるよ。ようやくルツアの相手ができる程度に強い人間が出てきたんだ。まあ一勝負ぐらいやってくれ」


 その言葉に聞いていた周りが騒然となる。そして視線がルツアに集中した。ルツアが余裕の笑みで剣を振り回している。


「私はいつでもいいわよ。やるの? やらないの?」


 ブラギはまだ納得がいかないようだったが、それでも剣を構えてルツアの前に立つ。ルツアが艶然と微笑んだ。


「どうぞ」


 むっとした表情で、ブラギがルツアに打ちかかる。それは軽くかわされて、剣が右から突き出てくる。あやうくブラギもそれをかわす。今度は、ブラギが打ちかかられる番だった。右に左にと剣が出てくる。


 最初は余裕の表情だったブラギも、どんどんと顔が引きつってくる。周りにいる者たちもブラギの表情と、ルツアの軽々とした剣さばきから、ルツアの剣の腕前を察したようだ。食い入るようにこの勝負の行方を見ている。


 右へ。左へ。軽くステップを踏みながら、華麗にブラギを翻弄する。たまに払われる剣には、女とは思えないほどの重みが加わり、ブラギの腕に衝撃を伝えていた。


 ぱっとルツアが前に踏み込むと、ブラギの剣を下から上に突上げた。その瞬間にブラギの手から剣が飛び去る。カンという音を立てると、石にぶつかって、周りで見ていた者たちの足元に飛んできた。


 信じられないという顔で、自分の手とルツアをブラギは見比べた。


「ルツアは近衛のギルニデム隊長の奥方様だ。じきじきの手ほどきでな。並の男じゃ勝てないぜ」


 ハウトはにやりと嗤った。周りから納得するような、感嘆するようなため息が漏れる。ルツアはちょっと不満げにハウトに言った。


「そろそろその『ギルニデムの奥方』という形容詞は取って貰えるとありがたいわね。私は私よ」


 ハウトは一瞬驚いたような顔をしたが、軽い笑みで返す。


「次回からな」


 そしてブラギの方へ向き直った。


「おまえさんの部隊は鍛え直しが必要だな」


 顔は笑顔のままだが、眼が笑っていない。ブラギもしぶしぶと頷いた。


 見世物状態は終了し、みなそれぞれに戻るところで、ハウトは城内に戻ろうとするルツアとフェリシアを捕まえる。フェリシアをちらりと見ながらルツアに向かって手招きした。ルツアがフェリシアをちょっと離れた場所に残し、いぶかしげな表情でハウトの方へ向かう。


「なあに?」


 気まずそうに黙ったまま、ハウトの視線が横を向き、上を向いたところで、ルツアは察した。こういう煮え切らない態度のときには、フェリシアのことだ。


「もしかして、今晩の部屋割りのこと?」


 ハウトは気まずそうに頷いた。


「ああ」


「いいじゃないの。フェリシアと一緒で」


 ハウトが眉をひそめる。


「そういうわけにはいかない」


 ルツアは肩をすくめた。


「フェリシアを女だと思っていない…わけじゃないわよね?」


 その言葉に、ハウトの片方の眉だけが上がる。


「女には興味がないとか、そういうわけでもないわよね?」


 その言葉にハウトが真っ赤になって口を開こうとしたとたんに、ルツアがハウトの口の前に片手をあげてストップをかけた。目が笑っている。


「わかっているわ。フェリシアが大事なのよね?」


「ああ」


「だったらいいじゃないの」


 ハウトは憮然とした表情で答える。


「駄目だ。せめてちゃんと神殿で式を挙げてから…」


 その言葉にルツアの方が驚いた。


「まあ! あなたがそんなに古風だと思わなかったわ」


「古風って…当たり前だろう」


「別にいいんじゃないかと思うけど?」


 覗き込むようにハウトの眼を見た。その視線を受けつつも、ハウトは断固として首を振る。


「小さいころから、あいつはいろいろな事がなし崩しなんだ。だから…せめて俺ができる事ぐらいはきちんとしてやりたい」


 ハウトが搾り出すような声で言った。


「それに家族は俺とラオとフェリシアだけだろう? 俺とフェリシアも兄妹みたいなもんだったんだぞ。それが夫になるんだ。きちんとけじめをつけてやらないと」


 ルツアは苦笑した。ハウトはハウトなりに考えているわけだ。きっとフェリシアには別の意見があるとは思うけれど…。


「わかったわ。今晩から寝るときにはあなたと私が入れ替わっておけばいいのね?」


 ハウトは頷いた。そのまじめな表情に、思わずルツアはからかいたくなった。


「どうするの? 私がフェリシアに手を出したら。彼女、女から見ても魅力的よ?」


 思いもしないルツアの言葉にハウトの目が丸くなる。それを見て、ルツアはふっと笑った。


「嘘よ。任せて」


 ハウトが軽くルツアを睨みつける。


「ルツア、おまえさん、意外に性格が悪いな」


 ルツアは澄ました顔で答えた。


「今ごろ気づいたの?」


 そしてハウトに背を向けると、心配そうに二人を見守っているフェリシアと一緒に城内へと戻っていった。





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