表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィーザル王国物語  作者: 沙羅咲
一角獣の旗
19/170

第8章  忠誠を(2)


 ハウトの作戦は、アレスをネレウス王の正統な血を継ぐものとして、ミスラ公に認識させてしまうということだった。ネレウス王を神のように敬愛していたという公であれば、アレスを正統な継承者と認めさせるだけで、フラグドを落とせるだろう。そのためには、どうあってもアレスを認めさせねばならない。


「絵から思いついたんだがな」


 あの日、ハウトは作戦会議の席上で言った。ルツアが不思議そうな顔をする。


「絵?」


「ああ、後でじいさんに見せてもらってくれ。じいさんと、ネレウス王と、親父…フォルセティの若い時の絵だ。この絵のネレウス王がアレスをちょっと成長させた感じなんだ」


 フェリシアとラオがフォルセティの名に反応して、目を見開く。バルドルが頷く。


「たしかにアレスはネレウスに似とるな。グリトニルよりもネレウス似じゃ」


 ハウトも頷く。


「だから、ミスラ公にネレウス王そのものと錯覚させれば、軍を動かしたりする必要が無いんじゃないかと思ったわけだ」


 そして、ラオを見る。


「ラオは若いときの親父にそっくりだ。想像するに、ネレウス王は片腕と呼ばれたじいさんと、親父を傍から離さなかったんじゃないかと思うんだが」


 バルドルが肯定するように頷く。


「だから、それを再現するのさ」


 ハウトの言葉に、ルツアが言う。


「それだったら、こちらから謁見を申し込んでも…」


 ハウトは否定するように首を振った。


「駄目だな。王たるものは謁見をされるもので、するものじゃない。だからミスラ公に謁見をさせないと駄目だ」


「謁見をさせると言っても…」


 ルツアの声に、ハウトがにやりと笑う。


「こっちには遠見がいるんだ。俺達がヴィーザルの城を逃げ出したときを思い出してくれればいい。フェリシアだったら、人がいない道を探すことができる。そうすれば、謁見の間でも、ミスラ公の居室でも、忍び込むことが可能だろう。な?」


 ハウトがフェリシアを見ると、フェリシアは微笑んだ。


「多分ね」


 アレスが不思議そうな顔をする。


「でも遠見をするのに、時間がかかるんじゃないの? いつか見せてもらたみたいに。そうしているうちに、人が来ちゃわない?」


 フェリシアがアレスの言葉ににっこりと笑う。


「手をつければ、その裏にあるものは見えるのよ」


「どういうこと?」


 フェリシアは少し考えるように首をかしげてから答えた。


「そうね。例えば箱の中にあるものは、箱に手を触れれば分かるの。ドアの向こうだったら、ドアに手をつければ分かるわ。だから、城の壁に手をつけば、隣がどのような状態かまでは分かるわ」


 アレスはびっくりしたように目を見開いた。


「すごい」


 フェリシアは、ちょっとはにかんだように頬を染める。


「遠見の遠見たる所以だな」 


 ハウトは、フェリシアに優しい視線をやると、次にバルドルとアレスを見る。


「じいさん、あんたにはアレスにネレウス王の仕草や口調を教え込んでもらいたい」


 緊張したように顔を強ばらせたアレスに、ハウトは微笑む。


「なに、もともと似てるんだ。そんなに心配しなくて大丈夫だろうさ。ちょっとした癖さえ掴んでおけばね」


 バルドルも頷いた。


「そうじゃな。似ているのは確かじゃな。…とは言え、わしも覚えているかどうかは不安なんじゃが」


 その本気で不安そうな声に、ハウトがラオを見る。


「ラオ、おまえ、なんか良い策はないか? ネレウス王にアレスを操らせるとか」


 ラオがため息をついた。


「おまえ、俺を万能だと思うな。そんなことはできん」


 ルツアがラオを見る。


「あら、金縛りだったかしら? 悪霊に憑かせたのよね? ネレウス王だったら、よろこんでアレスに憑いてくれそうだけど」


 ラオがルツアを横目で見た。


「あれは、何でもいいからできた。俺にネレウス王を憑けて語らせることはできるかもしれんが、アレスにはできん。しかもアレスにはすでにネレウス王が憑いている」


 その言葉に、皆が水を打ったように静まり返る。アレスがおどおどと口を開いた。


「僕にお祖父様が憑いているの?」


 ラオが面倒くさそうに、首を振りながら、手も振った。


「言い方が悪かった。守護している」


「それだったら、なんかやりようがないか? ネレウス王にも協力させるとか」


 呆れたように苦笑してエフライムがハウトを見る。


「ハウト、あなたもつくづく不遜な人ですね。亡くなっている王までこき使おうとするなんて」


 その言葉にルツアもバルドルも吹き出した。ラオは顔をしかめる。


「俺は単なる中継地点に過ぎん。ネレウス王に用事があれば、向こうから来るだろう」


「諦めたほうがいいと思いますよ。ハウト」


 くくくとエフライムは笑いながら言った。ハウトは天井を見たあとでため息をついた。そしてアレスとラオを交互に見ながら言う。


「まあ、ネレウス王の加護があるように、おまえさん達で祈っておいてくれ」


 そして、気を取り直したようにエフライムを見た。


「エフライム、おまえさん、民衆の扇動はできると思うか?」


「やれと言われるなら」


 エフライムがにやりと嗤う。それにハウトは頷いた。


「じゃあ、合図と共に、アレス王の即位を祝うために、城に押し寄せるようにしてくれ。やり方は任せる」


 エフライムは考え込む。しばらく片手で顎を支えながら考え込んでいたが、顔をあげてハウトを見た。


「ちょっと人手と予算が必要ですよ?」


 ハウトが頷く。


「人手はこの館の連中を使わせてもらおう。予算については相談だな」


「振る舞い酒ぐらいでいいんですけどね」


 エフライムは苦笑した。ハウトはそれを聞いてにやりと笑う。


「それぐらいはミスラ公に提供してもらおう」


 ハウトは続けた。


「ついでに王家の旗をどっかで都合してもらいたいんだが…」


 エフライムが頭を掻きながら考え込むように目を伏せた。


「そっちの方が難しいですねぇ。とりあえずやってみましょう」


 バルドルが手をあげた。


「ちょっと待たんか。せっかくじゃからアレス王の旗を作ったほうが良かろう」


「どういうことだ?」


 ハウトが怪訝な顔で問い返す。


「代々、王家の旗は微妙に変わってるんじゃ。獅子は王族の印じゃが、それにその王独特の意匠が加わる。ネレウスは不死鳥。グリトニルは獅子を二頭にしておったな」


「そうなると、何がいいでしょうね」


 エフライムがバルドルとアレスを交互に見る。


「そうじゃなぁ」


「僕は一角獣がいいなぁ。それも翼があるのが」


 皆が一斉にアレスを見た。アレスの頬が赤くなる。


「あ…でも、実在しない動物なんて駄目だよね?」


 バルドルがあごひげを撫でながら答えた。


「ネレウスは不死鳥を使っておったからのぉ。駄目ということはないじゃろう」


「一角獣、意外にいいかもしれないわ。聖獣というイメージがあるでしょう? アレス様の穢れないイメージを持たせるにも、いいんじゃないかしら」


 ルツアが呟くように言った。エフライムとバルドルも頷く。


「じゃあ、それで作るようにしましょう」


 ハウトはその言葉に頷く。そしてラオを見る。


「花火を数発作っておいてくれ。昼間に使うから、音がするだけでいい」


 ラオは黙って頷いた。それを見てから、ハウトはぐるりと皆を見て言う。


「じゃあ、明日からそれぞれ用意をしてくれ。決行は一週間後。時間は…フェリシア、一週間のうちに城で、謁見の間が空いている時間を調べておいてほしいんだが…」


「分かったわ」


 ハウトはちょっと照れたように付け加えた。


「おまえが城に行くときには、俺が一緒に行くからな」


 フェリシアはにっこりと微笑んだ。ハウトは照れを隠すように咳払いをしてみせる。


「ねぇ、私はどうしたらいいかしら?」


 ルツアが言った。ハウトは、ちらりと考え込んでから答えた。


「仕立て屋にアレスとラオ、そしてじいさんの服を作ってもらえるように手配してもらえるか? 金はエフライムになんとか用立てってもらってくれ」


 エフライムが肩をすくめる。ルツアはそれを見て笑って答えた。


「わかったわ」


「あとはエフライムに手伝いが必要そうなら、助けてやってくれるか?」


「ええ。もちろん」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ