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ヴィーザル王国物語  作者: 沙羅咲
一角獣の旗
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第4章  兄弟(3)



 眠そうにふらふらと歩いていたアレスが、宿についたとたんにシャンとなって目を光らせた。


「すごいね! エフ」


 慌ててエフライムがアレスの口をふさぐ。


「しーっ。こういう宿の壁は薄いんですよ」


 こそりとした声で、エフライムは言ってからアレスの口から手を話した。


「すごいね。兄さん」


 と、再度少し小さめの声で言った言葉に、エフライムは苦笑する。


「今日は手加減しましたから。まあ、そんなでもないんですけどね」


 アレスの瞳がキラキラと輝いている。


「ねえ、僕にもあのゲームを教えてくれる?」


「もう眠いんじゃないんですか?」


 アレスは思いっきり否定するように首を振った。


「あそこでは少し眠いなぁって思ったけど、今は全然」


 ため息をついて天井を見上げると、エフライムは苦笑して上着からカードの束を取り出した。


「自分のカードも持っていたの?」


「誘われなかったら、こっちから誘うためにね」


 エフライムは、狭い部屋のベッドを椅子代わりに座り込むと、アレスにも自分の隣に座るように手招きする。アレスは素直に隣に座る。エフライムはカードが一枚ずつ見えるように、表に向けて置いた。


「カードは四種類あるんですよ。棍棒、金貨、聖杯、そして剣。この順番を覚えてくださいね。剣が一番強いんです。棍棒が一番弱い。基本的には絵合わせなんですよ。同じ種類のカードを集めていく。できるだけ強いカードでね。数字が大きくなるほうが強いんですけれど、それぞれ一枚だけ例外がある。一のカードは一番強いんです」


「っていうことは、二が一番弱いっていうこと?」


「そうですね。あとは同じ数字を集めたり、同じ種類の並びの数字をあつめるんです」


「ふーん」


「ちょっとやってみましょうか」


「うん!」


 わからないながらも、アレスは自分の手に配られたカードを見る。


「自分の手の中にあるカードの枚数はいつも変わらないようにしてくださいね。そして、まず要らないカードを捨てて、次にこのカードの山の中から、交換したい枚数のカードを上から取ってください」


 考え込んだ上で、アレスは剣が一つしかついていないカードを残して、後は交換することにした。


「捨てるときには、ここにね。そのときにカードは表にしてください」


 手元に聖杯の一が来て、一のカードが二枚になる。エフライムも同じようにして何枚かのカードを捨てると、何枚かのカードを取った。


「じゃあ、これで勝負してみましょうか?」


 アレスが頷く。二人してカードを表にすると、エフライムのカードは、六と八が二枚づつあった。エフライムがアレスのカードを見て、にっこり笑う。


「エースのペアを取るとは、初めてにしては、なかなか筋がいいですね。でも、このゲームは私の勝ちです。ペアが二つですからね。こういうのは同じ模様の物が多いほうがいいんですよ」


 そう言って、エフライムはカードを集め始めた。


「もう一回やる?」


 アレスが期待を込めて言った。しかし、エフライムはすべてのカードを集めきってしまうと、そのまま荷物の中にしまい込んだ。


「もう寝る時間です。カストル。おやすみなさい」


 アレスはちょっとつまらなそうな顔をしていたが、実際に眠かったのだろう。あくびを一つすると、まだ未練があるような目でエフライムを見ていたが、やがて言った。


「おやすみなさい。兄さん」


 エフライムが笑みを返す。そのままアレスは自分のベッドへと向かうと横になった。一人でベッドに寝るのは久しぶりだ。なんとなく落ち着かない。エフライムが机の上に乗っていた蜀台の火を消した。ベッドに横になる気配がする。アレスは暗闇の中でじっと目をつぶっていた。そのうちに眠りに落ちてしまったようだ。気づいたときには翌朝だった。


 宿を出たところで売っていたパンを買って朝食代わりにすると、二人はラオから頼まれたものを買いに行った。ラオの書付には、何に使うのか良く分からない物ばかりが書かれている。


「フローライトに、塩。それに強い酒? フローライトは鍛冶屋で譲ってもらうようにって書いてありますよ。酒は夜に酒場で分けてもらいましょう。あとはランプの芯とか、綿。あと石灰」


 ほかにもいろいろと書き付けてあるようだ。仕方ないので順番に手に入れ始めた。そうこうしているうちに夜になってしまった。


「今日もいくの? 兄さん」


 エフライムがアレスににやりと嗤う。


「そうですね。あちらが待っていますからね」


「僕も見ていい?」


 エフライムはちょっと考え込んだ。そしてきっぱりと答える。


「いや、駄目です」


「どうして?」


「顔に出るでしょう? こういうのは、手とは関係ない表情を作っておく必要があるんですよ」


 アレスは拗ねたような表情をした。


「つまらないな」


「そのうちにね。あのテーブルに座ってもおかしくないぐらいの年なったら、一緒にカードをやりましょう」


 その言葉はエフライムの願いだった。アレスに、そのぐらいの年齢になるまで生き延びて欲しいという。しかしアレスはその言葉を聞いて、素直に言葉どおり受け取って肩をすくめた。


「じゃあ、また教えてくれる? カード」


 エフライムはアレスのあまりに率直な言葉に、思わず目を細めて笑ってしまう。ここにいるアレスは、追っ手を差し向けられている者ではなく、カストルという一人の少年になってしまっていた。それでもいいかもしれない。今だけは。


「そうですね。ルツアからは怒られちゃうかもしれませんけどね」


 エフライムはくすくすと笑う。


「そうだね。きっとルツアは怒るだろうね」


 アレスも一緒に笑った。


「さて、荷物を宿においたら、行きますか?」


「うん!」


 アレスとエフライムはそろって宿に向かい、買ったばかりの荷物を置くとその足で昨晩の酒場に向かった。酒場のドアが見えてきたところで、アレスがエフライムに尋ねる。


「ねえ、今日の作戦は?」


「そうですねぇ」


 その言葉に、ちょっと考えるように首をかしげてからエフライムは答えた。


「まず彼女、ロザーニャって言いましたっけ。昨日の続きを話してもらいましょう。もしかしたら、あなたに辛い話かもしれませんけど」


 アレスは頷いた。


「わかった」


 エフライムが、ぽんぽんと背中を叩いて微笑んだ。


「あまり辛いことになりそうだったら、私の手をぎゅっと握ってくださいね。話をやめてもらいますから」


 アレスは無理に笑って、エフライムの顔を見上げた。


「大丈夫だよ」


「それと、今日はカードをやっていて、負けたら迎えに来てください。勝ち逃げすると恨まれますからね。負けたところで、終わりにしましょう」


「はーい。兄さん」


 二人はにっこりと笑みを交わすと、昨日と変わらない喧騒に包まれている酒場に入っていった。







 ドアを通って、空いているテーブルに着くと待っていたように、ロザーニャが現われた。昨晩と同じ注文をして、飲み物が運ばれてくるのを待っていると、同じように昨晩の男が声をかけてくる。


「よぉ、待っていたぜ」


 エフライムは軽く会釈をすると言った。


「食べ終わったら」


 男の方は肩透かしを食らったようだった。しぶしぶと自分のテーブルの方に戻る。そしてロザーニャが飲み物と食べ物を一緒に持ってきた。


「今晩もカードやるつもり?」


「ああ」


 エフライムは極上の微笑みで答えた。それを見てロザーニャが眉をひそめる。


「今日はやめておいたほうがいいかも。あのごつい男いるでしょ? ガボっていうんだけど、あいつ強いみたい。カモになったのが結構いるわよ」


 エフライムはちらりと、昨晩一緒にカードをやった男のテーブルの方を見る。確かに筋肉質のがっしりとした男がいる。昨晩はいなかった顔だ。ロザーニャの方に視線を戻すと、エフライムは迷うような表情をして言った。


「まあ、勝負は時の運だから」


 ロザーニャの心配そうな顔をよそに、エフライムは話を切り替えた。


「ところで、昨日、なんか気になることをいっていただろう? 首都イリジアがなんとか」


 昨晩同様、砕けた口調でエフライムが尋ねると、ロザーニャは思い出したようだ。


「そうそう。そうなのよ」


 ここぞとばかりにエフライムに身体を近づける。アレスは二人の会話など聞こえないかのように、食べものを手にとって口に運んでいた。本当は全身が耳になっているぐらいに集中していたのだけれど。


「なんか王様が新しくなったらしいわよ」


「新しくなった?」


「あ、だからね、代わったんですって。でも、結構ひどいみたいで、イリジアの税金は二倍になったって聞いたわ」


 エフライムは興味を持ったように、ロザーニャを見た。その視線に気を良くしたロザーニャが話し続ける。


「だからイリジアでは何でもかんでも高くなっちゃったみたいだし。あと、ここだけの話なんだけど…」


 ロザーニャの声が小さくなって、エフライムにもっと身を寄せた。


「なんかお城から死体がしょっちゅう運び出されているって話よ。なんでも、お城に勤めた人で、王様の気に障ることをすると、すぐに殺されちゃうんですって。だからイリジアには、お城で働く人を募るために、人買いも出ているとか。街に住んでいない人は、あんまり状況がわかっていないから、簡単にお城に行っちゃうみたいだけど、殺されちゃあね」


 エフライムが驚いたような顔をしてロザーニャを見た。


「すごいな。どうやって、そんな話を知ったんだい?」


 誉め言葉に、ロザーニャの頬が赤く染まる。


「それは、秘密…」


 エフライムがロザーニャの肩を抱いて、耳元でささやく。


「いいじゃないか。俺は誰にも言いやしないよ。だって、俺のためを思って、こういう話をしてくれたんだろう?」


 ロザーニャがドキリとしたように、肩を震わせる。アレスはエフライムの態度に内心呆れていたけれど、そのまま下を向いて食事に集中しているフリをした。


「そ、それはそうよ。実はね…私の知り合いが、イリジアで店をやっているのよ。仕入れがてら、こっちに来たときにね、そういう話を聞いたの。つい先週の話よ」


 エフライムは、ロザーニャの手をとって唇をつけた。


「ありがとう。感謝するよ。気をつける」


 ロザーニャの頬はさらに赤くなった。慌てたように、早口で話始める。


「あとね、あんまり関係ないかもしれないけど、即位式では花火をあげるみたいよ。花火師が数人と、かなりの量の火薬が運び込まれたんですって。即位式にあたったら、それは運が良いかもね」


 エフライムの眼がすっと細くなった。そのときに奥のカウンターから店の主人が、ロザーニャに怒鳴る声が聞こえた。ぱっとロザーニャはエフライムから離れると、名残惜しそうに言う。


「呼ばれちゃったわ。後でね」


 エフライムは微笑んで頷いた。その様子をアレスはじーっと見て、十分に彼女が離れたところで、エフライムの方に身体を寄せる。


「兄さん?」


「なんだい」


「なんていうか…。なんか…兄さんって」


 うまく言葉が出てこない。エフライムが苦笑いした。そしてこっそりとアレスに耳打ちする。


「こういうのを『女ったらし』って言うんですよ」


 アレスは驚いたような顔をして、エフライムを見た。この人は…。


「そういうのって、自分で言うことなの?」


 思わず呆れた声になる。


「自覚しているんだよ」


 エフライムは澄ました顔をして砕けた口調で答えると、食事を始めた。その様子にますます驚いてアレスはエフライムを見つめていたけれど、頭をひとつ振ると、自分も皿の上をきれいにすることに決め、食べ始める。そして二人は無言で食事を続けた。


 ある程度食べ終わったところで、エフライムは席を立って、カードに誘った男のところに行ってしまった。アレスは自分が最初に座ったままのところに残ったままで、エフライムのことを見つめていた。距離があるので声は聞こえない。勝負はコインの移動で見るしかない。負けたときに迎えに行くというのを思い出しながら、テーブルの上のコインに集中する。





 勝負は、エフライムが勝っている。一体どうやって勝っているのか。面白いようにコインがエフライムのところに集まっていく。とうとう他の連中が抜けて、ガボと一騎打ちになってしまった。エフライムはゲームを止めようとしているようだ。最初の一回で負けて見せたので、アレスは打ち合わせどおり、エフライムの隣に行って眠そうに声をかけた。


「兄さん…」


 ところがガボが、テーブル越しにエフライムの襟元をつかんだ。


「俺の負け分を取り戻すまでは、おまえを返さないぜ。どうせおまえなんか、運だけで勝ってるんだろう。次も俺の番さ。そこにいるクソみたいなおまえの弟は、そのへんで寝かしておけばいい」


 その言葉にエフライムの眼がすっと細くなった。


「僕のことはどうでもいいですけどね。弟のことを侮辱するのは許しませんよ」


 口調が改まり、アレスが今まで聞いたことがないくらい冷たい声だった。一瞬男もぎょっとしたようだが、虚勢を張って続けた。


「ふん。おまえの弟なんか、こんな所にいるよりも、街角で男の袖でも引いている方が似合いだぜ。なんだったら俺が客を紹介してやってもいいぜ。男相手に尻を出して喘いで見せたら、さぞかし金が取れるだろうよ」


 男が下卑た笑い声を漏らす。一瞬エフライムの瞳が火花を散らしたように見えたが、すぐに凪ぐ。そしてそのまま唇をゆがめた。


「許さないと忠告はしました。カードを続けたいなら、やりましょう。でももう手加減はしません」


 口調はすでにルゥの口調から、エフライムの口調になってしまっている。しかもほとんど抑揚がない。アレスが思わずエフライムの膝にしがみつく。ガボがアレスのことを侮辱したのはどうでも良くなってしまうぐらい、エフライムの態度の方が怖かった。エフライムがガボに、カードを切るように身振りで示した。ガボはエフライムの襟元から手を離すと、カードを切って配り始める。アレスは、エフライムにしがみつきつつ、エフライムの体温が上がっていることに気づいた。怒っているのだ。顔は冷静なままだったけれど、それでも筋肉の強張りを感じる。


「どうぞ」


 エフライムの静かな声が聞こえた。カードを捨てる音がする。アレスはエフライムの手を見たい気持ちになったが、それはぐっと堪えた。自分が態度に表したら、エフライムはきっと負けてしまう。


「レイズ」


 エフライムが冷たい声で言った。そしてカードを捨てる音がする。ガボが言った。


「コール」


 さらにまたエフライムの声がする。


「レイズ。ダブルで」


 しばらく間があいて、ガボが答えた。


「コール。オープン」


 カードがオープンになる。アレスも覗き込んだ。エフライムが勝ったようだ。机の上のコインを集める。そして静かに言った。


「まだやりますか?」


 ガボが目を剥くようにして答えた。


「もちろんだ!」


「じゃあ、小さなレイズはやめましょう。全部トリプルでどうです?」


 ガボは一瞬躊躇した。エフライムが鼻で嗤う。


「負けるのが怖いのでしょう? でも、それぐらいじゃないと、あなたの今までの負け分は取り返せませんよ? 私は弟を連れて帰って寝かせたいんです」


 その人を小ばかにしたような表情を見て、ガボの顔が真っ赤になった。


「望むところだ!」


 エフライムがにやりと嗤う。


「じゃあ、どうぞ。あなたが親でいいですよ」


 ガボは顔を真っ赤にしたままで、カードを切ると、また配った。アレスはまたエフライムの膝に顔を伏せる。


「レイズ」


 エフライムの声が響く。


「コール」


 ガボが答えた。


「レイズ」


 さらに、エフライムの声が響く。ガボが答えた。


「リレイズ」


 ふっとエフライムの嗤う音が聞こえる。


「コール。オープン」


 エフライムが答えた。アレスは顔を上げた。ガボの顔が青くなり、赤くなった。エフライムの手が机の上のコインを集めると、自分の皮袋に入れる。


「もう勝負をする元手が無いでしょう?」


 周りを見ると、皆エフライムとガボのゲームを見守っていたようだ。いつのまにか人垣ができている。ガボがエフライムの襟元をつかもうと手を伸ばした瞬間、エフライムは身体をひねって、その手を交わした。ガボの手が空をつかむ。アレスは慌ててエフライムから離れて立ち上がった。続いてエフライムも立ち上がる。


 エフライムは、血がすっかり頭に上がっているガボを見て言った。


「何もやましいことはやっていませんよ。それは、ここで見ていた人が知っていることです。純粋に勝負しただけですよ」


 その言葉にますますガボは怒りを覚えたようだ。すでに赤かった顔がどす黒くなる。


「俺の金を返せ…」


 腹の底から搾り出すような声が聞こえた。


「あなたのお金じゃないでしょう? 賭けたんですから。それにね。僕は忠告しましたよ。手加減はしないってね」


 エフライムの緑の眼が、すっと細くなる。その瞬間にアレスはトンと肩を押されて、右によろけた。次の瞬間に、アレスとエフライムの間をガボが飛んでいく。力任せにエフライムにかかって行ったところを、かわされたのだ。そのまま隣のテーブルにぶつかって、派手な音を立てて床に転ぶ。テーブルがガボにぶつかった衝撃で壊れている。あまりのことに人垣が静かになった。床の上から、ガボが顔を真っ赤にし鼻血を出したままエフライムを睨んだ。エフライムがアレスに言う。


「ちょっと離れていてくださいね。どうも彼は私と決着をつけたいらしい。すぐに終わりますから」


 そして場違いなほど、鮮やかな笑みを浮かべた。その様子にますますガボは怒り狂い、タックルをする要領でエフライムの腰に向かって突進してきた。


 エフライムは、軽く身体をひねってガボの巨体を避けると、両手を組んだ拳でガボの首の後ろを殴りつけた。ガボの身体の動きが止まる。そこに鳩尾への膝が決まって、ガボはそのまま床に伸びる形となった。見るとエフライムは汗もかいていない。


 そしてそのまま人垣の方にお辞儀をする。あまりにも見事なエフライムの戦いぶりに、思わず人垣から拍手があがった。そのままエフライムは酒場の主人に、一掴みの銀貨を渡した。


「壊れてしまったテーブルの分です。余ったら、みなさんにビールでもサービスしてください」


 この言葉で、また拍手がおきる。店の主人は、掌に収まった銀貨の数を見ると、そのまま言った。


「おい! 今日はこの方のおごりだ!」


 店の中が騒がしくなった。わっと、皆がカウンターの方に向かう隙をついて、エフライムはアレスに目線で合図する。アレスも心得たように頷いて、そのまま酒場から出るドアの方に、エフライムの後をついて出て行こうとした。


 そのとき、足を掴まれた。びっくりして見ると、ガボが床に這いずったままで、アレスの足首を掴んでいる。どす黒くなった顔が歪んでいて、まるで地獄の亡者のようだ。思わずびっくりして、動けないでいると、ガボが悲鳴をあげて、アレスの足首を放した。


 いつのまにかエフライムが隣にいて、ガボの手を踏んづけた上で、あごを蹴り上げたようだ。ガボが白眼を剥いて気絶している。


「おまえなどが触っていい足ではない!」


 はき捨てるように小声で言って、エフライムはアレスの手をとった。


「行きましょう」


 ロザーニャが気づいたときには、もうあの兄弟の姿は見えなかった。




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