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第85話:アリアの成長についての話し合い。ですが、メイド長が不参加ですよ?

 シオン、スイ、ローズ、その流れにちゃっかり乗るシアンに順々に優しく宥めてもらったアリアは、恥ずかしさを誤魔化す為に目の赤さがほとんど治まってから、テクノに顔を向けた。

 テクノはパリピグラスの奥で柔らかに微笑んだまま、ただ一言だけ訊ねた。


 「アリアちゃん、楽しいか~い!!」


 「はい、楽しいです」


 「お~う、そうかい!!」


 うんうんと2度頷くと、魔力測定器を少しだけ弄って目を落とした後、すぐに顔を上げてアリアに声を掛けた。


 「うん、じゃあボクちゃんからの診察はここまでにしようか」


 そう言い終えると、テクノが何気なくドアの方に顔を向けた。するとその途端、ドアがガチャっと音を立てて、内側に開いてきた。

 そして、そこから恐る恐るクロムが顔を出して、部屋の内側を覗き込んだ。

 テクノはニコリと笑うと、心細そうにドアから覗き飲んでいるクロムに手招きをして部屋の中に入るように促した。

 それに気づいたクロムが安堵の表情を浮かべて、そそくさと部屋の中に入ってきた。

 アリアはその様子を見た後に、知らぬ間にクロムが部屋からいなくなっていた事に今更ながら気付いた。

 何時の間にいなくなったんだと首を傾げているアリアの前で、テクノが椅子から立ち上がり、クロムが手に持っている何かのバッグを受け取る。

 そして、バッグの口を開けて中を覗き込んだ後、満足そうに顔を上げると、クロムに向かい口を開いた。


 「後はクロムちゃんに全て任せるよ!ボクちゃんはクロムちゃんが持ってきてくれた、道具でちょちょっと食堂でお茶でも飲みながら、アリアちゃんの為だけの測定器の点検をしてるから!頼んだよ、クロムちゃん!!それじゃあアリアちゃん、アディオ~ス!!」


 その言葉を残して、アリアにニッコリ手を振りながらテクノは部屋から出て行った。

 残されたクロムはポカンとガチャっとしまったドアを見つめ続けていた。

 そうしてしばらく呆然と突っ立った後、隣からシアンに名前を呼ばれたことで我に返り、慌てて自分の職務を思い起こした。

 そして、困惑顔で自分を見上げているアリアの顔を見て、ハッとさせられた後に、頑張るぞっと気合を入れてから、テクノの椅子をシアンが退かして、新たにクロムの椅子を置いてくれた事にありがとうございますと、お辞儀で感謝を述べてから、アリアへと向き直った。

 クロムは突然のテクノからの丸投げに等しい言葉をポジティブ解釈で、信頼からの一任だと自分自身に言い聞かせて納得させ終えると、しっかりと作った医者としての顔つきで、真剣に自身の職務を全うする。

 服装を正し、髪を首の後ろで1つに纏めると、椅子に座っていった。






 時間は少し戻り、自己紹介が終わりこれからアリアの診察へと移ろうとした時、クロムは突然、テクノにお使いを頼まれた。


 「アオゥ!?ボクちゃんとしたことが、整備用の道具を馬車に忘れてきちゃったよ!クロムちゃん、ちょっとお使いお願い出来るかな?」


 何かの機械をカチャカチャと弄っていたテクノが顔を上げて、申し訳なさそうにそう述べ終えると、両手を合わせて拝み倒すように自分へと懇願してきた。

 クロムは切に頼み込むテクノの姿に心を揺れ動かされ、仕方なくそのお願いを引き受けることにした。

 本当はここでアリアの診察を見学していたかったクロムは、後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にすると、今朝乗ってきた馬車に向かった。

 そして、テクノに頼まれた道具を馬車から取ってくると、アリアの診察中の部屋の前に戻ってきた。一度部屋の前で間違えてないか記憶と周りの景色を照らし合わせて、間違えていない事を確認した後に、恐る恐るドアを開けていった。

 そうして、一生懸命に道具を持って部屋に帰ってきた瞬間、テクノにアリアの診察を丸投げされた。

 クロムは生来の生真面目さで主治医がそれで良いのかと強く疑念を抱いたが、すぐに気持ちを切り替えて、ここは私がテクノ先生に試されているんだと、信頼の裏返しであると解釈することにした。


 (任されたんだから、しっかりやらないと!)


 心の中で確と意気込むと、ギュッと髪を纏めてから空いた椅子に腰を下ろした。

 そして、テクノに代わりアリアの診察に取り掛かっていった。






 チャラチャラドクターから誠実さを感じさせる女医さんに代わったことで、気持ちが少し楽になった気がした、アリア。

 アリアは誠実さには誠実さで、を心掛けて素直に、並々ならぬやる気を見せるドクタークロムの問診に答えていく。

 最初はやる気が空回りし厳しく引き締められた表情のクロムであったが、途中で傍からずっと様子を見ていたシアンに何かを耳打ちされた途端、ハッと何かに気付いた様子で、強張っていた表情から、無理やりに浮かべたような不格好な笑みに変えていった。

 そこからしばらくは不格好な硬さが目立つ笑みであったが、次第にクロム自身の緊張と強い意気込みが緩んできたのか、笑みに自然の色合いが現れるようになっていった。

 そして今では、既に硬さが取れて、作為の欠片もない柔らかな笑みへと変化していた。

 アリアは本当に一生懸命に、仕事に励む彼女に心からの信頼を抱き、その心を開いていった。だから、クロムからの問診には素直に答え、それが終わると、次は聴診器での診察に快く移っていった。

 ワンピースをシオンに半分ほど脱がされ、アリアが肌着を胸まで捲り上げた時、テクノの時とは打って変わりクロムのすぐ傍に控えていたシアンとクロムの目が途端に細まった。

 しかし、それはほんの一瞬でアリアも全く気付かずに、恙なく診察が終了した。

 そして、久しぶりのアリアの診察であったことから、身長と体重を測る流れとなった。

 アリアは、シアンの案内で「私もお嬢様の成長をこの目で確と見たいです」と熱烈に訴えるシオンと一緒に身体測定器のある方向に向かっていった。

 アリアが自身から十分離れたことを確認したクロムは、アリア達をもう一度確認した後に、静かにスイとローズを呼んだ。


 「先程、アリアお嬢様の診察を行った際に、微かですが胸の成長を確認することが出来ました。アリアお嬢様は現在女の子としての成長が始まろうとしている重要な時期に差し掛かっていると思われます」


 そうスイとローズに伝えた後、手元のアリアのカルテに目を落とした。


 「12歳という少しばかり遅い時期での成長ですが、個人差によって変わるので特に問題とはならないでしょう」


 緊張を含んだ真剣な表情での語り出しだったので、スイとローズはまた何か、アリアの身にあるのではと一瞬ひやっとしたが、続く説明でそうではないと分かったので、ほっと胸を撫で下ろした。

 そして、次に新しく屋敷を訪れたドクタークロムの伝えたい事をほぼ予想できた2人は、優しさに満ちた微笑みでクロムの言葉を待った。


 「ここから少しずつ、アリアお嬢様は女性として成長していきます。その際、恐らく体付きの変化に戸惑うこともあるかと思います」


 「ええ、そうですね」


 「そうだな」


 「その時に1人で抱え込むことがないように、見守ってあげて下さい。そして、もし相談にいらした場合は、悩みが解消するまでお手伝いをしてあげて下さい」


 「分かりました」


 「分かったぜ」


 本来アリア付きのメイドであるシオンこそが聞くべき内容の話が、そのシオン抜きにどんどんと3人の間で進んで行く。


 「アリアお嬢様には年が近くて仲の良いお友達などはいらっしゃいますか?」


 「私の娘達が非常に懐いています。お嬢様も娘達とすっかり打ち解けて、微笑ましい姿を見せて下さいます」


 「そうですか、では気兼ねせずに相談も出来そうですね」


 安心したというように、顔を綻ばせる、クロム。

 しかし、すぐに表情を引き締め直して、チラリとアリアの下着を見た後に、神妙な表情で慎重に言葉を述べていった。


 「これからは胸の成長に合わせて肌着を代えていく必要があるかと思われます。ご準備の方は出来ていますか?」


 「先日、メイド長が街にお使いに向かわれた際に、購入してきたようです。誇らしげに、『“一番に”買ってきました』と一点を強調して語っておりましたから。・・・ふふ、珍しく先を越されてしまいましたね。ほんと、うふふ」


 ニコリ顔でスイがそう返す。

 ローズも無言でスイに同意だと深く頷く。

 ほんの微かに黒いものが滲み出る2人に、ぎこちない笑みを浮かべながらクロムが急いで先を話す。


 「そして、お嬢様の胸が更に成長し、ブラジャーを付ける時期に差し掛かった際には、無理に勧めることは決して行わないで下さい。お嬢様の御意思を尊重し、ご自身で選んでお付けになるようにして下さい」


 「クロム先生、その点はしっかり理解しています。娘達にも自分で選ばせて付けさせましたから」


 「・・・だぜ」


 会話に入れないローズが返事だけをする。


 「他にも大人になるにつれて色々とあるかと思いますが、優しく見守り、時としては手伝いをして上げて欲しいと思います」


 「勿論です」


 「あたいに任せな!」


 スイとローズが力強く頷き、アリア付きメイドのシオン抜きの密談は終了した。

 メイド長でお嬢様付のシオン、既に戦力外通告であった。




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