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第77話:記憶領域に過負荷が生じました

 おっかなびっくり周りに訊ねて、どうにか自分が奇妙な世界に迷い込んでいないと分かったアリアは、唐突なバッドエンドにならずに済んで胸を撫で下ろした。


 (焦った~~~)


 内心でそう零した後、アリアは周りの皆にどうしてその様な格好をしているのかを訊いてみた。


 「どうしてわたくしと同じ服装なのですか?」


 やや視線を上げ気味にして、ブルマとそこから延びる艶めかしい太ももを極力見ないようにして、答えを待つ。童貞殺しの光景に怖気づいた、アリアの情けない挙動であった。

 尋ねられた侍女達は間髪を容れずに一斉に一様の答えを発した。


 『お嬢様と同じ格好をしたかったからです!!』


 清々しさに溢れた表情で、きっぱりと溌溂に断言してみせた。

 そして、それに遅れる事数秒、フウとセツがそれぞれアリアに答えた。


 「えっとね、お母さんがヒメちゃんとお揃いだからって用意してくれたから、嬉しくって着ちゃった。えへへ」


 「ヒメとお揃いなんだから、着ないなんて選択肢がある訳ないよねっ!?」


 はにかむ様に言ったフウがアリアに柔らかく抱き着き、怪しい光を目に湛えながらセツもアリアに勢いよく抱き着いた。

 そして、シオンもそれに続こうと、「シオンもお嬢様と一緒の服装で明日から参加しま」と何か戯言を宣言しそうになった時、横から「止めとけ、シオン。お前にはキツイから」と辛辣な言葉でローズが止めた。

 シオンがいじけて「私これでも・・・」と良く聞こえなかったが、何やら不満を垂れている中、見た目的には20代前半のシオンを無視し、フウとセツ、それに周りの侍女達を一度見渡した後、アリアは大きく息を吸い込んで口を開いた。


 「わたくしも皆とお揃いの恰好で嬉しいですよ!!」


 感極まりながらもそう答えて、破顔した表情で全員の顔を見渡していった。

 そして、感動を胸一杯に貰ったアリアは、「わたしもまだ、ぴちぴちですよ。きっと似合うはずですよ」と不貞腐れているシオンを呼んで、一瞬で笑顔満開にして来たシオンに微笑ましさを感じながら、ランニング前の準備運動をして、未来のためのランニングへと向かった。

 その際、アリアは気付かなかったが、アリア、単純なシオンを除く女性陣は、唯一のライバルであったタスキに、追いついたぞ、と自らのブルマ姿を誇示していた。

 見せ付けられたタスキはその意図に気付かず、ただブルマ天国に感涙し女神様に感謝を表するのであった。






 アリアとは別の意味で感極まったタスキをチラリと横目で見たアリアは、気味悪く脂下がっているタスキの姿に精神は同じ男として得心する一方、間違ってもあんなだらしのない表情は漏らすなと、気を引き締めていった。

 そう気を引き締めて鼻の下を伸ばしきっているタスキから正面を向いたアリアは、目の前の光景に思わず、ニヤ付きそうになった。

 アリアの視界一杯に見えるむっちりと締め上げるブルマ、そこから延びる瑞々しくしなやかな太ももに、ニヤ付きが漏れそうになる。

 アリアは上がりそうになる口角を必死に抑え、伸びそうになる鼻も死ぬ気で抑え込んだ。


 (バカ野郎!!バッドエンドになりたいのか!!)


 厳しく自身を戒め、どうにかランニングに意識を集中させた、アリア。

 そうして、いつも通りに走っていると、息がいつも以上に早めに上がってきた。

 体力と共に精神力も必死に使っての走行の為、いつもよりも早めに疲労が込み上げてきてしまったのだった。

 アリアの脳裏にふとここで歩くかと、いつもの限界地点手前で走ることを止める考えが掠めた。


 (今日はここまで頑張ったし、一旦歩くか)


 それに釣られ、思わず心の中で呟いていた。

 そして、走るペースを落とそうとしたその時、自身の隣を昨日の自分が追い越していった。

 だらしなく息を切らしながらも一生懸命に足を動かして走る姿で、追い越していったのであった。

 アリアの足に不意に力が入った。


 (昨日の自分に負けてるようじゃ、今のアリアでも負け続けの人生になっちまうぞ!)


 喝を飛ばすと、掠めた甘い誘惑を頭を振り追い払う。

そして、生き返った瞳で昨日までの限界地点の数歩先を見据え、不敵に笑った。

 アリアは、落ちそうになったペースを再び上げ、定めた目標までを辛さに歯を食いしばって駆けて行く。

 そうして、昨日の限界地点よりも数歩走り抜いた地点に達すると、ペースを落としていき、歩きへと移った。

 額に張り付く髪ごと汗を拭うと、やり抜いた達成感に笑みが自然と浮かんだ。

 アリアは爽やかな気持ちで辺りを見渡すと、今までにないくらい景色が輝いて見えた。

 それにまた笑みが零れると、アリアは残りの距離も今までにないくらいの爽やかな気持ちで、走ったり、歩いたりを繰り返して、朝のランニングを続けていった。






 無事に朝のランニングを終えたアリアは、終了後の運動、ストレッチをしっかりとこなした後、汗を流すために大浴場へと向かった。

 周囲の女性達の汗に濡れた姿や、男の時の部活動後のむさ苦しい汗の臭いとは違う、美しく爽やかな香りに囲まれながら向かうアリアは、上機嫌そのものであった。

 そして、間もなく男湯と女湯で別れる所に差し掛かろうとした時、今日はまだ一言も言葉を交わしていないタスキを探し、一番後ろでポツンと歩く姿を見つけると、アリアはそこに向かった。

 昨日の約束通りに律儀に参加しているタスキは、残念ながら普通の運動着姿であったが、それでも参加してくれている事に、何か褒めてあげようかという気分になった。


 (タスキちゃんじゃないけど、まあ女性陣の中に1人参加の気まずさに耐えて参加してくれてるんだし、労ってやるのもこれからの主としての責務だよな)


 そう納得させると、タスキの傍に向かった。

 そして、傍に着くと、タスキを見上げて微笑みからの言葉を掛ける。


 「お疲れ様です、タスキ。わたくしの我儘に今日も付き合ってくださりありがとうございます」


 「いえ、お嬢様。僕はただ自身の務めを果たしたに過ぎません。その様に我儘などとお気を遣う必要はございません。それに、お嬢様の有難い御気持ちは大変に喜ばしいのですが、やはり僕だけには非常にもったいなく思います。ぜひとも、他の方々にもお与え下さい、お嬢様」


 タスキは厳しく引き締めた表情でそう述べると、すぐに視線を正面に向けた。


 (タスキの奴、なんか今日は随分と堅苦しいな)


 タスキを怪訝に思うと、アリアは探る様にジッとタスキを見上げた。

 そうして、一切目を合わせないタスキを暫く観察した後、アリアはその理由に見当を付けた。


 (・・・ああ、そっか。こんだけ女性達のいる中で1人だけ、男だもんな。そりゃぁ、気まずくもなって堅くもなるか)


うんうん、なるほど、神妙な面持ちで頷くと、タスキが可哀そうに思えてくる、アリア。


(ここは、気まずさMaxの健気なタスキに、パパっと出来るご褒美でもやるか)


 アリアは自身の外見を脳裏に思い浮かべた後、ニコッと微笑むとタスキの正面に周り、そのままタスキに抱き着いた。そして、ぎゅっと抱き締めてすぐに離れた。

 目を合わせようとしないタスキに出来る、心ばかりの謝意を含めた贈り物である。

 やり遂げた達成感で気持ち良くタスキに「また、明日も参加してくださいね」と伝えて、シオンの傍に素早く戻っていった。

 精神は同性なので結構くる。その為、シオンで上書きしようと急いだのであった。

 そうして、アリアが去った後、残されたタスキはアリアの感触とその温もりが残る中、恐る恐る視線を正面から周囲へと向けていった。

 そして、その視線で捉えた現実に思わず、天を仰いだ。

 嫉妬に、羨望に、稀の殺意等で漲る女性陣の姿を捉えていたのであった。


 (ああ、こうなるんだったら、もっと普通に答えておけばよかった)


 そう後悔を内心で呟いた後、タスキは女性陣の嫉妬を受けないようにぶっきらぼうに対応しようとした失態を悔やんだ。

 そして、針の筵の上に放られた思いで、全身にグザグサと向けられる視線に耐えながら、男湯の暖簾を潜るまでずっと現実逃避をして忍んでいこうと覚悟を決めた。


 (お嬢様のお身体とても柔らかかったな。あと、良い匂いだったな)


 皮肉にも、その間の唯一の救いもまた、アリアのご褒美であった。

 そんなタスキが非常な窮地に立たされている中、棚から牡丹餅的僥倖を手に入れた者もいた。

 その者、シオンはアリアが何故か笑顔でタスキに抱き着いた瞬間、身体の奥底から激しい嫉妬が突き上げてきた。


 「ぐぬぬぬーー!」


 唸るように嫉妬を零し、視線一杯に殺意を込めて、羨ましすぎるタスキを睨んだ。


 「後であのお嬢様の温もり付きの服は回収ですね」


 嫉妬に狂ったシオンがとち狂った事を吐き、追い剝ぎ同然の思考に染められた時、目の前で羨ましすぎる奴から離れて、アリアがこちらに向かって来るではないか。


 「あれ?」


 瞬時に視線を無用者からアリアに移すと、その一挙手一投足全てを見逃さずに、アリアを追いかけた。

 そして、目の前まで来たアリアに唐突に抱き着かれた瞬間、全てがバラ色に染まった。

 シオンは抱き着くアリアをもっと抱き締めると、勝ち誇った表情を浮かべて捨てられた憐れな男に見せ付けた。

 そうして見せ付けた後に、愛おしいアリアに視線を落とした時、アリアがニコッと微笑んで口を開いた。


 「シオンは良い匂いがしますね」


 同性に仕方なくとはいえ、ご褒美の為に抱き締めた行動を、シオンで上書きしようとした時に思わず漏れたアリアの言葉であった。

 シオンは瞬時に感極まり、涙を瞳から溢れさせた。


 (シオンは仕える主を間違えていませんでした!!!!!)


 狂喜乱舞の様相を内心で呈し、ひしっと絶対的な主を一層の敬愛と共に抱き締めた。

 ローズは、そんな2人と奥で修羅場となっている憐れな道化を見て、可笑しそうに独り笑っていた。






 女湯と男湯での別れ際で、異様に疲れた様子のタスキを見送った後、今朝も楽しみ、お、風、呂、に着いたアリアは、厳しい修練の果ての楽園に笑顔を咲かせた。

 目と身体両方を癒してくれる至極の入浴。

 じっくりと観察を行った後、自身のブルマとショーツを一気に脱ぎ、残りの上着もキャミソール共々脱ぎ捨て、数秒で裸になった。

 そして、癖で脱いだ服を蔓で編まれたカゴに放り入れると、準備万端整えて、いざ癒しの極致へと足を向けた。

 が、その前に、ちょんちょんと肩を叩かれ振り返ると、カゴを指差すシオンと目が合った。

 にっこり笑顔のシオンに「お嬢様、少しシオンとお話をしましょうか」との言葉を頂き、入浴までの時間が些か伸びてしまうのであった。






 いつも通りの有難いお話をシオンから頂戴した後、アリアは反省しつつも今の自分を癒してくれる大浴場へと、やっと足を踏み入れた。

 入ってすぐ朝の気温で湯気が立ち上る浴場内を見渡そうとしたが、浴場に入ってすぐの所に、なぜか女性達が全員集まっていた。

 皆、何かを望むようにアリアを一心に見つめている。

 アリアはその光景を見た後、さっと視線を上げて皆の顔のみを見るようにした。

 浴場というだけあって一糸纏わぬ姿に、当惑しての逃げであった。

 アリアは今日も鼻血噴出の危機的状況に陥る中、絶対に視線を下げないようにして、目の前でチワワの如くおねだりするような潤む視線で見つめている女性達に、躊躇い気味に訊ねていった。


 「あの、わたくしに、何か、御用があるので、しょうか?」


 アリアの問い掛けを待っていましたとばかりに、目の前に並ぶ女性達が気迫に満ちる表情で同時に頷いた。


 『はい、お嬢様!!』


 女性達の声が大浴場内に大きく響き渡る。

 気迫に圧倒されて若干腰を引いた姿勢のアリアに、一瞬アリアの背後を窺った後に、続くお願いを口にした。


 『ぜひ私達にも、労いの抱擁を!』


 と、そう途中まで述べた後、女性達が同時に視線だけでチラリと男湯の方向を睨んだ。

 そして、数瞬思案すると、そののち口端を軽く吊り上げ誰かを嘲笑する。

 しかし、すぐに表情を改めると、勝ち誇った表情で先ほど言いかけたお願いをもう一度、今度は改めて口にしていった。


 『お嬢様、ぜひ我々には、そのお身体の抱擁を許可願えませんか!!』


 誰かに対抗したような口ぶりでそうアリアに伝えると、じっと請い願う表情でアリアの顔を正面から見つめた。

 真剣に許しを願う女性達の視線に圧倒されたアリアは、勢いに押されて彼女達の望む答えを思わず口にしていた。


 「は、はい。どうぞ」


 その途端、ギラリと炯眼煌めかせてアリアに殺到した。

 そして、事前に打ち合わせでもしていたのかという程の統制の取れた行動で、1人ずつ順番に抱擁、もとい貪欲にアリアの身体を味わう様に抱き竦めていった。

 当然、皆生まれたままの姿である。柔らかいものが次々と身体に当たる。

 そのあまりの圧倒的な状況に、アリアはただ呆然と突っ立っていることしか出来なかった。

 そして、最後にフウとセツが終わった後にどさくさに紛れてローズとシオンが自分も、と強かに抱き締めていった。

 全員が満ち足りた顔でアリアに感謝を述べて洗い場に向かった後には、迫力に圧倒され切ったアリアと、ご満悦状態のシオン、子煩悩の様な感情に目覚めかけのローズが残っていた。

 シオンは満足げに、ローズは抗い難い母性を瞳に宿して、放心状態のアリアと一緒に洗い場に向かって行った。

 そして、「娘の髪を洗うのがあたいの夢だったんだ」と言ってローズがシオンを押し退けてアリアの髪を洗った後に、またシオンを押し退けて「あたいの夢は娘の背中を流すことなんだ」と言ってアリアの身体もローズが洗った。

 二度もローズに敗北したシオンは、羨ましそうにアリアとローズを見据えながら、シクシク寂しく自身の汗を流していった。

 湯船に浸かる時も母性に目覚めたローズに退かされたシオンは、母親の様な微笑みを湛えてアリアを自分の胸に抱いたローズの姿を羨むように見つめていた。






 アリアは気が付くと、食堂の自分の席に座っていた。


 (あれ、俺はいつここに来たんだ?)


 記憶を振り返っても、全くここまでの記憶が思い浮かばない。


 (えっ!?)


 思わず困惑が漏れる。

 周りを見回してみても、朝の食堂の風景が見えるのみで、何も思い出せない。

 アリアはそれでも懸命に頭を働かせて、記憶の隅まで探っていった。

 だが、思い出せなかった。

 けれでも、記憶の欠片の様な漠然とした概念じみた感想は思い浮かんでいた。

 肌色、弾力、それに、夢の様な時間。それらがあったらしい。

 もはやそれしか、朝のランニング以降の記憶が残っていなかった、アリア。

 やはり、主人公ではない、悪役令嬢に転生してしまったのが原因であろうか。

 ラッキーイベントは主人公の領分であると絶対の法則でも働いてしまったのか、それとも、単にこの男がチキンであっただけであろうか、そう推測は出来ても明確な答えは出てこない。

 夢にまで見たラノベ主人公の体験をこうして無駄に消費してしまった残念なアリアは、この後ずっとうんうん唸りながら、朝食のハニートーストとサラダ、欠かすことのできないミルクを堪能していくのであった。






 朝食を終えたアリアはフウとセツと一緒に部屋の前まで戻った。その後、暫く部屋で休んだのち、シオンが迎えに来て、「本日は良い所に行きましょうね」とのお母さんが子供に注射をしに病院に行くような言葉を掛けて、アリアを部屋から連れ出した。

 そして、廊下にアリアが出ると、笑顔のスイとローズが待っており、すかさずアリアの周囲を厳重にシオンとローズ、スイで固めると、アリアをどこかへと連れて行った。

 廊下を3人に囲まれて護送されていったアリアは、ある部屋の前で笑顔のシオンに「ここがいい所ですよ」と勧められ、ドアを開けて中に入るように案内された。

 アリアは異様に笑顔で満ち溢れている3人に訝しがるも、ドアノブを捻りゆっくりとドアを開いていった。

 そして、真っ暗な部屋を目にしたのであった。




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