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第72話:確かな成長

 アリアは考えた。何がいけなかったのかと。

 その答えは直ぐに自ずと脳裏に浮かんだ。

 浮かれすぎは、注意が薄れ失敗に繋がると。

 身をもってその答えを実感した。






 アリアは今、地面に敷かれたシートの上に仰向きで、茜色に染まり始めた空を眺めていた。


 (あはは!夕日だ!綺麗だな~)


 顔を横に倒し、オレンジ色に染まったお日様をその目に映した。


 (うふふ。たまには、夕空を眺めるのも乙なものだな)


 ボーと頭を空っぽにしてそう感想を零してみる、アリア。


 (うふふ。あはは)


 楽しそうに心の中で微笑んでみた。

 しかし、それは長くは続かなかった。

 唐突に心の中で長いため息を吐いた。


 (・・・・・はぁ~~~~~)


 そうして、ほんの少しの現実からの逃避を終えて、アリアは現実に目を向けた。

 夕日と反対側には、心配そうにアリアを見つめ、うちわで煽ぐシオンの姿があった。

 アリアは再び天を仰ぐと、鈍く重い頭を懸命に動かしてこうなった経緯を回顧した。

 頭に浮かんでくるのは、浮かれすぎで魔法を使っていた自分の姿。

 褒められたことにより得意になり、シオン達にもっと見せ付けようと、魔法を使い続けた。

 その結果が、二度目の魔力切れ。

 本当にすっからかんまで魔力を使い切ってしまった。

 そして、急速に身体から力が抜けて、ぶっ倒れた。


 (ふふふふふふ)


 最早笑う事しか出来ない愚かな、アリア。

 早々に滑稽な回想を終えたアリアは、再び顔をシオンに向けた。


 「ごめんなさい」


 心からの謝罪を口にした。

 見つめる先のシオンは謝罪を受けると、心配そうにアリアを見つめつつも、微かに怒ったような表情に変えた。

 そのシオンが真剣な声音で口を開いた。


 「お嬢様、魔法を使う前にシオンは言いましたよね、くれぐれもご無理はなさらないようにと」


 叱る口調に、アリアはシュンと落ち込み、静かに頷いた。


 「はい。シオン、ごめんなさい」


 反省の弁を述べて、未熟さに心から落ち込んだ。


 (はぁ、ダメだな俺は)


 気分が塞いでいくアリアにシオンは1つ嘆息すると、仕方ないなと口端を微かに上げ優しい声で諭していった。


 「反省して下さったのなら、シオンからはもうこの話はお終いとします。お嬢様」


 「・・・はい何ですか?」


 シオンからの呼びかけに、また何か叱れるのではと身構える、アリア。


 「先程の魔法ですが、一昨日よりも微かに持続時間が長くなっていましたよ。シオンはお嬢様の成長をこの目に見ることが出来てとても嬉しく思います」


 「・・本当ですか!?」


 一瞬、シオンの言葉が理解できず、反応に間が開いた。

 けれども、すぐに言葉が心に沁み込んでいくと、驚きと共に問い掛けていた。


 「アリアお嬢様、ワシから見ても僅かに魔法の発動時間が長くなっていました」


 今まで傍で様子を見守っていたソウシが、シオンの言葉に肯定を重ねる。

 信じられないと驚き顔でシオンを見ていたアリアは、ソウシの声に反応し顔をソウシへと向けた。

 向けられたソウシは、ニコリと孫のはしゃぐ姿に喜ぶおじいちゃんの笑みで頷いた。

 2人から自分の魔法が確かに成長していると言われたアリアは、信じられないと疑っていた気持ちから、実感を伴った喜びの気持ちへと移っていった。


 「そうですか!少しでもわたくしは、元に戻ってきたのですね?」


 嬉しさに弾む声で、もう一度確認をした。


 「はいアリアお嬢様!恐らく1秒程は伸びたと思います。ですので、確かに魔力が増えたと考えられます」


 シオンがすぐにアリアの問い掛けに返した。

 アリアはその言葉に手を握った。


 (よっしゃー!伸びたぞー!!)


 心の中で歓喜の雄叫びを上げた。

 アリアの綻んだ表情を見たシオンとソウシは、嬉しそうに微笑みを浮かべていった。






 暫く横になったことで、幾分か魔力が戻ったアリアは、シオンが敷いてくれたシートからゆっくりと上体を起こしていった。

 そして、上体を起こし終えると、アリアは今の自分の状態を目で見て思案した。

 目で見える光景は、ブルマから伸びる色白のほっそりとした脚をシート上にだらしなく伸ばした格好である。


 (・・・これは不味いか。もしもアン先生が居たらはしたないと叱られそうだな。・・・ヤッバ、早く起きなくちゃ!)


 一瞬で思考を終えると、急いで起き上がろうと靴を履き脚に力を入れて起き上がろうとした。が、まだ完全には気だるさの取れていない身体で無理に起き上がろうとしたために、途中まで身体を持ち上げた所で、力を入れていた脚のバランスが崩れ身体が傾いた。


 「あっ!?」


 思わず、アリアの口から短く声が零れた。

 アリアの身体は重力に引かれ地面へと倒れていく。

 地面に倒れる前に手をついて衝撃を和らげようと、手を伸ばそうとしたアリアの身体が横から伸ばされた腕によって抱き留められた。


 「お嬢様大丈夫ですか!!」


 シオンの腕であった。

 シオンは自分の腕でアリアを受け止めると、心配する声を掛けた。

 アリアはシオンに転倒前に助けてもらった事に気付くと、シオンの手を借りて地面に立った後、申し訳ない気持ちでシオンに声を返した。


 「シオン、ありがとう。助かりました」


 アリアの返事を聞いたシオンはふぅと安堵の息を吐いてから、アリアを見据え1つ注意を口にした。


 「アリアお嬢様、慌てなくとも平気ですので、今度からは落ち着いて起き上がって下さい。ここには私達以外に目はありませんから」


 「はい。今度からは慌てずに起き上がろうと思います」


 シオンは何故アリアが急いで起き上がろうとしたのかを、直前の視線の向きから推測し、そう心配は要らないと口にしたのであった。

 アリアからの答えを聞き終えると、シオンはアリアの腰と脚に手を添えてから抱き上げた。

 また突然、脚から力が抜けて大切なアリアが転ばないようにと考えて、抱き上げたのであった。


 「シオン、どうし」


 アリアの言葉を器用にアリアの身体から手を回して口に指を添え止めると、シオンはソウシに声を掛けた。


 「ソウシ様、アリアお嬢様もこのようにお疲れのご様子ですので、この辺りで本日の魔法の授業はお開きと致しませんか」


 シオンからそう提案されたソウシは、懐から時計を取り出し時間を確認すると一度頷いてから、シオンに顔を向けた。


 「そうですな。その通りにしましょうか。既に時刻は夕刻ですので、本日はここまでと致しましょう」


 そうシオンに答えた後、ソウシはアリアに顔を向けて口を開いた。


 「お嬢様、実に見事な魔法でした。ワシも教え子の成長をこの目で見られ、大変嬉しい思いでございます。アリアお嬢様、少しずつでいいのでゆっくりと成長していきましょう。きっと元の様になれるとワシは信じております」


 アリアに優しく語り掛けるように声を掛け終えると、一歩下がり深々と敬意の念の籠った礼をアリアへと贈った。

 そして、頭を上げると、シオンに向かい言葉を発した。


 「シオン女史、お嬢様をよろしくお願いします」


 「はい、了解致しました」


 シオンの応えを聞くと、ソウシは再びアリアに顔を向けた。


 「ワシの全ての力を駆使し、必ずやお嬢様を一人前にしてみせます」


 そう宣誓に近しい言葉を述べ終えると、今度はシオン達に軽く会釈をして去っていった。

 シオンは頭を下げ、アリアはその背が見えなくなるまで見送ると、お屋敷へと帰っていった。その途中、シオンに降ろしてほしいと懇願したアリアであったが、即座に却下された。曰く、またふらついて倒れてはいけないとの注意からと。

 アリアは顔を俯け羞恥に耐えて、シオンは生き生きと軽やかな足取りでお屋敷へと庭を進んでいくのであった。






 お屋敷の中に入ると、抱き抱えるアリアに向かい口を開いた。


 「お嬢様、このままお風呂へと向かいましょう。夕食の前にお身体の汚れを綺麗に落としてしまいましょうか」


 そうアリアに語り掛けた後、シオンは正面に顔を向けた。

 アリアは良い年した自分が、またお姫様抱っこで使用人達のいる廊下を進んでいくことに耐えられず、視線を自身の身体に落としながら小さく頷き答えた。

 そうして、はぁ~、またかと、自分の情けなさに意気消沈して項垂れているアリアは、シオンの腕の中でこれからの予定をぼんやりと脳裏に浮かべていった。

 まだまだ続く羞恥体験、その後は極楽浄土のお風呂。熱々の湯船に浸かり全てを忘れて寛ごうと心に決めると、更にその後の事を浮かべていった。

 湯上り後は暫しの自分の部屋での休息。そこで、今日こそは忘れずに復習をしなくてはと心に書き留めた。

 その後は待ちに待った夕食。一日の最後にして最大のイベント。

 アリアはどんな料理が今夜は並ぶのかと、その時の光景を思い浮かべた。

 出来立てで湯気立ち昇る料理たち。それらに、手を伸ばす自身。更に、楽しく談笑できる向かいの席に座る・・・。


 (・・・そうだ。・・・フウ達は・・・)


 向かいの席に座る2人の姿。一度手に入れたかと思えた、和やかな雰囲気。やっと修復できたかと思えた、アリアの残した軋轢。

 全て手で掬った水の様に零れてなくなってしまった。

 胸が痛む。棘が深く、心の臓にまで達してしまったかのような激痛が襲い来る。

 それと、万力で締め付けられているかのような、胸の苦しみ。

 シオンの腕の中で、苦しみと痛みに耐えるために胸に手を置いた。

 本当にシオンが正面を見てくれていて良かったと、アリアは思いながら人気のなくなった廊下を進んでいった。




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