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第69話:寝坊ですかね?

 森閑とした、いや、それ程に静寂が満ちる食堂での朝食を食べた。

 目の前の席が空席のままの食事であった。

 料理は、美味しい。それは分かる。だが、それだけだ。

 アリアは綺麗に朝食を食べ終えると、ジェームズとダニエルにお礼を述べ、食堂から退室した。

 そして、自室へと向かう途中にローズと別れ、今はシオンと廊下を歩いていた。

 廊下を歩くアリアの脳裏に占めるものは、何故かいなかった2人の顔である。

 昨日は朝昼晩と、食事の席にはいた2人が今日の朝食の席にはいなかった。

 何故かを考えていく。


 (寝坊か?)


 そう心の中でポツリと呟いてみる。

 すると、その答えがすっと心に納まった気がした。


 (うん、そうだよな。只の寝坊だよな)


 もう一度、今度は自身へと言い聞かせるように言ってみた。

 そうすると、更に自分の中に、すっきりと納まる感じを覚えた。


 (ふふふ。全く、フウもセツもまだまだ子供だな。まぁ、俺も大学に寝坊して遅刻したり、仕事にも危うく遅れそうになった事とかあるから、人の事は言えないけど)


 アリアはそう心の中で呟き納得すると、憑き物の落ちた清々しい表情で顔を上げた。


 (お昼の時に、「全くもう」と2人に愚痴ってやるのも良いかもな。それか、俺は寝坊しなかったけどと自慢するのも楽しいか。・・・よっしゃ!んじゃまぁ!午前のたぶん勉強を頑張りますか。ふふふ、フウ、そして、セツ、お昼ご飯を楽しみに待ってな。午前のストレスを散々愚痴ってやるからな。あはははは・・・)


 アリアはそう予定を決めて愉快そうに笑う。それから、楽しくなりそうな昼食の一時を脳裏に浮かべながら、揚々と自分の部屋へと帰っていった。






 部屋に着いたアリアはシオンに予想通りに座学がこの後あることを聞かされ、素直に頷いて了承の意を伝えた。


 「お嬢様、本日も逃げずに一生懸命に頑張ってくださいね」


 「勿論です、シオン。わたくしは逃げませんし、隠れもしません。実直に勉強に向き合うのみです」


 (だってその後が怖いもん)


 シオンの励ましに、アリアは真剣に答えた。


 「では、シオンもお嬢様に負けない様に、一生懸命に逃げず、今日の仕事を終わらせて参ります」


 「ええ、頑張ってください、シオン」


 「・・・はい、お嬢様っ!・・・シオンはこのお言葉だけで一週間は戦えます!!それでは、お嬢様の激励を胸に、塵芥共との死闘に勝利して参ります」


 「はい、お掃除頑張ってくださいね、シオン」


  いつも通りに感涙にむせび泣いているシオンに淡々と返事を返し送り出す。

  シオンが「お嬢様、最高です」と言い、アリアを思いっきり抱き締めてから、満足そうに部屋を出ていった。

 シオンを見送ったアリアは「さて」とぼそっと呟き、来る試練に向けて勉強机へと向かった。

 アリアに焦りはなかった。そうここまでは。

 悠々と席についてぱらっとノートを捲った瞬間、今までの落ち着きようから一転、顔が急速に蒼ざめ、身体に震えが走った。


 「ヤバッ!!」


 驚愕が口を衝いて出た直後、続きを悲鳴の如く声高に叫んだ。


 「復習忘れてた!!!!!」


 最早、優雅にアンを迎えようとしていた思惑など既に彼方へと消え、耳を澄ませまだ来ていないかと警戒してびくびくしつつ、一心不乱に復習へと向かっていった。

 こうして、絶対に今からでは間に合わない昨日と一昨日の復習を、アリアは死に物狂いで行っていくのであった。


 「やばばばば!!!」


 奇声を上げ、まだ来るなと念じながら。






 結果からお伝えいたします。

 アリアは無事、復習を遂げることが出来ませんでした。


 (俺なら出来る!きっと出来る!絶対に出来る!諦めなければ出来る!ど根性で出来る!)


 心の中で気合を唱えて、一心に復習を遂げていくアリアに、無情なる音が届いた。

 ドアのノック音の後に、非情なる開閉音。はっと振り返った時には、既にこれからの運命が定まってしまっていた。

 驚愕に固まるアリアに、すぐに何に驚いているかに感づくアン。

 そこから始まる大層穏やかな笑顔での、大説教大会。

 身に覚えのないご令嬢とはかくあれとの礼儀作法についてのありがたいお話、それに続いて頭の中で延々と繰り返される程に聞かされた、継続こそが大切だ、とのこれまたありがたいお話。

 授業に入る前にアリアのHPバーは既に赤く変色していくのだった。


 (昨日の俺!!寂しがってる暇があったら、復習でもしていてくれよ~~!)


 恨み言が空しく内心で響いていた。






 散々な結果で終わった確認テスト。

 磯野く~ん(不動産屋のあのご令嬢風)、のび太さん(苗字が鎌倉に幕府を作りそうなあのお方風)と比肩する点数を叩き出したアリアは、「あはは」と笑い、固まるアンに顔を向けた。


 「・・・あの、アン先生」


 恐る恐る声を掛けアンの様子を窺う。

 すると、暫く答案片手に固まっていたアンが、ポツリとアリアの名を呟いた。


 「・・・・・アリアお嬢様」


 そして、遂にテストを見つめた姿勢で微動だもしていなかったアンが、ゆっくりとアリアに顔を向けた。


 「このような点数を取った原因はなんだと思いますか?」


 教え諭すような問い掛けで口にする。


 「えっと、・・先程アン先生に言われた通りの、復習を忘れたことですかね」


 精一杯頭を回転させて、アンを窺い答えを返す。


 「そうですね、アリアお嬢様。要因をはっきりと自身で考えられたのなら、私からはもう深く追及することはありません」


 そう言いアリアに顔を向ける。


 「気付くことも重要な勉強の内です。そこから、次に生かせることが、失敗からの学びです」


 そこで一旦言葉を切り、叱られるのではと縮こまっているアリアの瞳に、自身の瞳を合わせた。


 「さぁ、お嬢様。折角気付けたのです。この好機を無駄にせず、成長の糧に致しましょう」


 アンはアリアの頭を何度か撫でると、小さく微笑んだ。

 叱られないと分かると、今度はテスト結果に落ち込んでいるアリアに、思わず零れた笑みであった。

 出来の悪い生徒ほど可愛く見えるとはよく言ったもので、アンは落ち込んでいるアリアが可愛らしくて堪らなかった。

 この今は落ち込んでいる顔から、出来るようになった時に浮かべてくれる笑顔を想像すると、やりがいを強く感じることができた。教師としてもっと大切に教え導いていかなければと、嬉しい責任を感じることも出来た。

 アンはアリアに優しく声を掛けた。


 「アリアお嬢様、今日はまず、どこが悪かったかの確認から始めていきましょうか!」


 そして、本日の授業を始めていった。

 アンは終始笑顔で、間違った箇所の解説をしていった。

 アリアはそれを聞き、出来るようになるたびに笑顔を浮かべていった。

 そんなアリアを目にするたびに、アンは自身の道はやはり間違ってはいなかったと、教師としての喜びに胸が満たされていくのであった。






 授業が終わり、辞して部屋を出て行くアンを見送ったアリア。

 その胸中は、ひたすらに申し訳ない気持ちで一杯であった。

 今日はテストの間違った箇所の解説と、前回の復習で授業が終わってしまった。

 折角、アリアの授業の為に足を運んでくれたアンを復習だけで帰らせてしまった。

 それが非常に申し訳なく、胸が痛んだ。


 (もう復習を忘れないようにしないと。それと三日坊主には決してならないと強く心掛けていこう)


 反省を内心で口にすると、アリアはシオンが昼食を呼びに来るまでの時間を今日の授業の復習に充てた。

 時間にして20分弱であったが、それでも集中して復習ができ、ベッドでゴロゴロするよりも実に有意義な時間となったのであった。






 迎えに来たシオンと一緒に昼食の待つ食堂に向かっていたアリアは、その道中、朝食の時に居なかった2人について考えていた。


 (流石にもう起きてるだろう。昼食は2人と楽しく食べられそうだな)


 自然に笑みが浮かんだアリアは、今朝とは比べようもない賑やかな食事の席を脳裏に浮かべ、楽しげに昼食を取る自身の姿に胸を躍らせた。

 そのまま、シオンに顔を向けると、弾んだ声音で声を掛けた。


 「今日の昼食はなんでしょうね、シオン!」


 「そうですね、きっとお嬢様の大好きな料理が並ぶと思いますよ。そのような機微に敏いダニエルが、よっぽどの事でもない限り、大外れな料理を作るはずがありませんからね。アリアお嬢様も大満悦な料理が食卓に並ぶことは間違いありません」


 アリアの楽しげな雰囲気に釣られ、シオンも快活に言葉を紡いだ。


 「それは楽しみですね。では、もう少し早く食堂に向かいましょう。折角の腕によりを掛けて作られた料理が冷めてしまっては、ダニエルに申し訳ありませんからね」


 「はい、アリアお嬢様」


 そうして、シオンを引き連れて食堂へと足取り軽やかに向かって行った。

 アリアは料理も楽しみであったが、やはり誰かと一緒に楽しく料理を取ることを一番の楽しみにしていたのであった。


 (朝にはなかった充実感を今度は取りに行くぞ)


 フウとセツ、折角こちらの世界でできた姉達との食事を朝の分も含めて満喫しようと、微笑みを浮かべていった。




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